Ⅱ
さて、話は戻り━━昔から仲の良かった幼馴染みがもうすぐ死ぬ。俺の予見は100%の確率で実現する。それも1週間以内だ。
この言い方は正しくない。5、6日前から立っていたとすれば、今日死ぬ可能性も無いことはない。
言っても仕方の無いことなのだろうが、このことを茜に知らせるべきだろうか━━と考えている内に、昼休みとなった。
………とそこで、隣で教科書をしまった茜が喋りかけてきた。
「桐ちゃん、一緒にお弁当食べよ?」
「いや、いいよ。お前、そこら辺の女子と食べれば?」
「お願いだよ~♪」
昔と変わらぬ、実にしつこい奴である。でも、こういうのは休み時間今までボッチ状態だった俺には悪くない。それでも、俺のツンデレ思考は否定的な発言をしてしまう。
「嫌って言ったら嫌だ。変な風に思われるから早くどっか行け」
「だって、だって」
「うるせぇなぁ」
俺だって別に嫌なわけではないのだ。それよりむしろ周りの反応が気になるのだが………。
そろそろこの口論を止めてしまわなければ、と思い、顔を赤らめながら声を振り絞って許可を下す。
「分かった、10分だ、10分以内に食ってどっか行け」
「有難う、桐ちゃん!」
というわけで、今日は俺と茜は机を向き合わせて昼飯を食うことになった。
しばらく、近況を教えあったりとしていたのだが、突然俯き出した茜に「どうしたんだ」と問う。彼女は泣き言を言うように、ポツリと呟いた。
「私ね、病気なの。何年持つか分からないってお医者さんが言ってた」
「そ、そうなのか」
胸が絞まるように傷んだ。まさか俺の悩んでいたことをあちらから言って来るとは━━。そう、やはり俺の死の予見は間違っていなかった。茜はその病気で亡くなるのだ。『何年持つか分からない』━━何年も持たないだろう。お前は1週間も経たないうちに━━。
どう返事したら良いのか本当に迷った。言うか言うまいか━━『お前は1週間以内に死ぬんだ━━』と。
つい一粒の涙が零れ落ちた。そして次々に涙が目に溢れ出した。それは、乾燥した大地を悲で潤す黒き魔のオアシスのようだ。
「き、桐ちゃん?」
「いや、何でもない、大丈夫」
俺は胸いっぱいに深呼吸し、心を落ち着かせた。そして決心する。
「あのな、俺………実は」
「どうしたの?改まっちゃって………」
こいつは………茜は俺の発言を拒んでいる。そんな気がした。だが、そこで止めるわけにはいかない。
「今から言うことは、とても大切なことなんだ」
「だから、どうし」
俺の言うことを悟ったのだろうか。茜の頬を一筋の汗がつたう。
「俺は人の死を………」
その時点で茜は俺が何を言おうとしているのかを、確実に理解したようだ。「止めて!もうこの話は終わり………!」という声が聞こえた。
「100%の確率で予見することが出来る。お前は」
彼女の瞳が涙で滲んでしたが一息に言った。
「お前はもうすぐ、死ぬ」
俺の震える微かな声は、茜の胸を貫き、絶句した。一年、ではなく、もうすぐ。ものすごい時間の違いだろう。その違いに、流石の彼女も驚いたのだ。
「あ………え………?でも………」
「だからもう後悔しないために………残り少ない時間仲良くするよ。今日からよろしく、な?」
ツンデレな俺様がよもやこんなことを言うとは━━。
結果、茜は音を立てて勢いよく立ち上がり、教室から飛び出して行ってしまった。
言って良かったと思う。もし言っていなかったら………あいつが死ぬまで後悔しただろう。
教室内がやけに騒がしかったが、そんなことはもうどうでも良い。
ちゃんとあいつの死と向き合って、ちゃんとお別れをしたかった。俺は自分のやりたいことをやってのけたのだ。
ホッと溜息をついて、幼馴染みを探すべく━━特に当ては無いが━━、颯爽と教室を抜け出た。
何故か、何時もとは違う自分がそこにあった。




