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元恋人に死亡フラグが立ったなら、俺はどうすれば良いのだろうか  作者: 嚇嚇 鹿鹿
第1話                                  Prologue~Grieve chapter~
4/16

 俺、赤坂 桐人は、とある高校の2年生だ。

 

 「今日は転校生がいるので紹介します!」


 12月半ばを過ぎた寒い朝━━平凡な一日の始まりを愛するという、この俺のモットーは潰えた。


 「鳥羽さん、入って━━」

 

 どうせ、そこらの雄豚やら雌豚か何かの(たぐい)だろう………それとも、話によくある、美少女系の女子だろうか。

 そして、先生に呼ばれて教室に入って来たのは、そんな俺の想定を遥かに上回る人物だった。


 「………あか………ね?」

 「き!桐ちゃん!?」


 俺の名をちゃん付けに呼ぶような奴は、知る限りこの世に一人しかいない。転校生━━それは、幼馴染み鳥羽 茜だった。クラスメートは意味深な目つきでこちらを見てくるが、それは良い。なぜなら、


 「お前………どうして………死んだんじゃなかったのか!?」

 「ち、違━━」

 「こら、赤坂!転校生に向かっていきなり死んだは失礼でしょう!」

 

 こういう空気の読めない、というか何も理解できてない奴のツッコミには、正直いらつく。まあ、出会い頭『死んだ』とか言う俺も俺なのだが。


 「ほ、本当に桐ちゃんなの?」

 「あぁ………そういうお前は本物の茜なんだろうなぁ?」

 

 彼女は9年前のある日、忽然と姿を消した。親からは、丁度その頃に起きた『ノルマントン2号』の沈没事故に遭い、死体は海の底にあると聞かされていたのだが━━


 「桐ちゃんとまた会えるなんて夢みたい」


 と、急にうるうるとした目つきでこちらを眺めてくるのだから、あの彼女に間違いない。実に茜らしい。

 

 「鳥羽さんは、」

 「桐ちゃんの隣の席が良いです」

 「でも、あのような無礼を弁えない獣の近くでは身が持ちませんよ?」

 「先生、お言葉ですが、『無礼を弁えない獣』とは誰のことでしょう?」

 「あぁ、あなたが桐ちゃんと読んでいる━━」

 

 というふうに、先生と揉めあった後、彼女はすたすたと、一番後ろの席の俺のところに近づいて来る。

 当然のように俺の隣の席に着席した茜を、俺はまじまじと見る。………あれ?

 すると一つのことに気付いてしまった。

 

 《茜に死亡フラグが立っている》ではないか!

 

 俺が奇異の目で見ていることに気づいた彼女は、「どうしたの?桐ちゃん」と問い掛ける。

 

 「いや、なんでもない」と、なんとかごまかしながらも、今見た死亡フラグで俺の頭はいっぱいだ。

 

 お分かり頂けただろうか。

 そう、俺は人の死を予見することができるのだ。と言っても、人の死を視るのは俺にとって気持ちの良いことでもないし、かといって役立つわけでもない。

 どのようにして、俺がこのチート風の技を手に入れたのか皆、疑問に思うだろう。


 時は遡り、10年前。




 ◆◇◆◇

 

 あの日、俺は夢を見た。有り得ないストーリーだが、どこか不自然に現実味を帯びた夢だった。


 それは、神を名乗る中年男性との初の出会いだった。あとから奴が本物の神だと悟った時には、それはそれは驚いたものだ。

 そしてこれは、最後の出会いでもあるに違いない(俺の予想だが)。



 夢の中で目を開くと、そこは絵本で見るような━━まるで天国のような場所に立っていた………否、天国に違いない。白い霧が薄くだが立ち込め、それが見渡す限り続いている。

 と、俺が感嘆の息を漏らしていると、

 『Hello!ベイビー、ボクは神!』

 いかにも怪しい男が突然と現れ、こちらに話しかけてきた。

 

 「僕、赤ちゃんじゃないよ?」、というツッコミを入れてみる。


 『ふーん、ま、いいや。君に良いことというか大切なことを一つ教えて差し上げよう』


 たいそうイラツク神だから、それに乗ってみた。


 「ナニナニ~?」


 『君さ、茜ちゃんのこと、好き?』

 

 「きらい━━って言ったらどうする?」

 

 『何にも良いこと教えない♪』


 「う~ん………仕方ないなぁ。じゃ、………好き」


 『よしよし良い子だ、耳をかっぽじって聞けよ、一回しか言わないからな。一回だぞ、一回』


 ためが長いと俺は思うのだが、皆、どう思う?


 「()よ言え」



 『ふはは、仕方ないガキンチョだなあ!はぁ、………君の幼馴染み、鳥羽 茜は1年後死ぬんだ』



 「どゆこと?」


 毎日仲良く小学校に通い、遊ぶ、俺にとって一番身近なあいつが死ぬ?しばらく神の言うことを理解できなかった。


 『残り少ない時間、どうやって過ごすかなぁ?』


 「う………嘘だ!いんちきだ!おい、神!なんとか言えよ!」俺はやけくそになって、神に噛み付いた。


 『いててて、………これだからくそガキは嫌いなんだ。………そこで、だ、君に良い物を差し上げようではないか』


 「ウググ………早くちょうだい!」


 流石は小学生低学年、俺、言動が幼稚過ぎるにも程がある。


 神は俺ににこやかに微笑んだ後、顔を垂れて魔方陣を描き周りの全ての光を取り込み、唱えた言葉は狂っていた。


 『アップンキュルルル=ウンコノミ!』


 遠くでラッパが響き、まがまがしい光が降り注ぐ━━一瞬神が見えなくなった。そして再び降臨する。

 途端、俺の身体に未知の力が渦巻き、うごめいた。


 「うわぁぁぁ!!?」


 気絶しそうになる身体に蹴りをつけ、目前で神々しく光り輝く、名も知れぬ神を振り仰いだ。


 『それは1週間持たない人の死を視ることのできる、君しか出来ないチートだ、上手くそれを使って、大切な奴を救えよ』


 「待って━━」


 『アーメン(祈)』


 奴はボムン!と盛大な効果音を演出して、瞬く間に煙と化した。そして、俺は一人ベッドにつっ立って、惜しそうに、しかし力強く右手を宙に伸ばしていることに気づき、呆然としたことだ。いつの間に………。


 

 その後、何度か人に死亡フラグが立っているのを目撃する。聞いて驚け、その全ての人々が1週間以内にこの世から死に去っているではないか!

 俺は数日の間、神が正真正銘のまじないを施したことに驚嘆の表情をあらわにすることとなった。



 このようなことがあってこそ、俺はチート名=1週間内死予見を手に入れることができたわけである。


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