ⅩⅡ
巨漢の口から出でし言葉、それは『植原 恭介』━━俺の、いや俺達の昔からの仲の良い親友。彼は、現在外国に留学していたはず。
「嘘だろ?」
「本当だ………そう言っても納得できないか。仕方ない、見たまえ」
冷たく低い声に気圧された俺の目に、信じられない姿が浮かび上がった。
扉の前には巨漢はおらず、変わりに小学生の姿の『植原 恭介』があった。体中が傷に覆われた、気前の良さそうなソレは、まさしく、
「な、なんであの恭介が………若返ってるんだ!?」
回らない思考をフルに回転させ、情報を整理させる。
彼がもし本物の恭介だとしたら………今外国にいるのは偽物、もしくは外国に存在しない。あと………何も分からない、巨漢リーダーと恭介は同一人物なのか?………どうやって。
茜は、かわらず巨漢の前でペタンと怖じけづいたように座り込んでいた。頭が真っ白に違いない。
「私はある超能力を持っている………『変身(Transformation)』だ。いくつかの身体に姿をかえることができる。昔、神を名乗る者から得たチートだ」
「そうか、なるほどな」
「ふむ、全く動揺した感じがしないのは何故だろう」
「あいにく、俺も『チート』というものを持ってるんだな。『1週間内死予見』ってな奴だ、俺も神から頂いた」
俺は自慢げに答えた。
「ほう、そうか………こちらも忙しいのでな、早急に済ませたいことがあるのだ。実は茜の母親を殺したのもこの俺でな………」
「きゃ、キャア!」
「なっ………!?やめろ!」
一瞬の内に、姿を戻した恭介………巨大型は、へたり込む茜の首をわしづかみにし、輝く凶器を高々と振り上げた。
一瞬の内に覚った。茜が殺される!
縄に縛られて、動けぬ俺の目前で………
ナイフは、躊躇なく、逆に更に速さを増して。
「あああああああああああああぁぁぁぁぁ!!」
俺の驚愕の叫びをものともせず。
茜の胸を貫いた。
「え………っ?」
突然の展開に頭がついていかないのか………気の抜けた少女の声が冷めた牢屋にこだまする。
茜は、まさかというような顔で、自分の胸を見下ろした。
そして、彼女は俺の方を向く。
「桐………ちゃん………?」
「…………………………」
「ありが………とう、私のことを………」
「茜………」
「さよ………うなら。また、いつ………か………どこ………かで………会えた………ら、いい………ね?」
「待て!茜!」
「私たち………は、何時………までも、恋………人………だか………ら」
茜の身体は、薄暗い室内で、神の如く、白く光り輝いていた。最後の一言を言い終えた途端、彼女はポリゴンのように、跡形もなく消え去った。
俺と茜の思い出が、まるで幻だったかのように………
「恋………人」
俺は、何時か夕陽の前で抱き合った、あの告白の日を思い出していた。
「さて、私たちは、ひとまずここで去るとしようか」
「はっ!」
恭介は、年寄りを引き連れて俺に背を向けた。
彼は2、3歩ほどで立ち止まり、こちらに振り向く。
「お前の命は助かった。さっさと、ここから立ち去ることをお勧めする。また会おう」
「…………………………」
「さらばだ」
「うわぁぁぁぁぁあああああ!!」
轟く俺の叫び声は、夕陽が地平線から見えなくなっても、朝日が東の空から昇っても緩むことなく続くことだろう。
次は旅する第3話です!




