父の死
千葉の実家につく頃は夕方になっていた。都心に比べると、風が冷たく羽織っているパーカーのチャックを首もとまで上げた。俺は家路のなめらかな坂をもくもくと歩き、高台にある、分譲住宅地の小道にはいった。その一角が我が家である。父が長年働いた代償がこの家である。玄関には母親が立っていた。
「お帰り。勉強はかどってる? お父さんね、昨日、職場でね、建設中の建物に足場組んでたら、足すべらしたみたいで、落ちて亡くなったの。昨日の朝は元気に朝食食べてたのに。」
涙声で話す母親は弱々しく、読みかけの本を中断し本棚に戻すように話をとめた。「お腹すいてるでしょ。お父さんも中にいるから。家に入りな。」
母親はいった。
親父は純白な白い布で顔に被せられ、規則正しい姿勢で眠りについていた。白い布の下の親父の顔は、内出血してるような紫のアザが数多くあった。俺の横で母親が遺品である、生前使っていた携帯電話をてわたした。
俺はその携帯を握りしめ、防波堤を襲う大波のように、大量の涙が溢れ出した。脱け殻になったような親父は、もう何も話してくれない。
「お父さん、お父さん、お父さん。」
俺は何回も連呼した。
それをみた母親はいたたまれなくなり、台所にむかい、俺のためにフライパンに油をしき、泣きながらチャーハンを炒め始めた。
親父の携帯は電源がはいった。 メールは全くとうくらい使ってはなく、電話の履歴だけが残されていた。
俺は驚いた。
そこには、死んだ中村、コンビニから電話した中村の妹のみゆきの携帯番号があった。それは複数にわたり、電話の交換がされており、その他にも同じ電話番号からの異常といえるくらいの着信があった。
アドレス帳には、グループ分けしてあった。
そこには、グループ名が『汚れた国』 。
そのグループの中に、中村、みゆき、その他数名の名前があった。