押さえられない気持ち
それから4年の月日がたった。
ともみは高校を卒業し大学に進学していた。その四年間の中には父親の工藤ヒロシの教えを忠実に守り数々のテロに手を染めていた。柿沼舞子は父親に引き取られアメリカに渡り、ともみの中では過去の人となり、ともみの身近な人間は父親と中村そして村川だけになった。
「みゆきさん。中村ですが、今度の吉祥寺駅の計画の件なのですが、ちょっと相談したいんだけど。」
いつものように電話で話す中村だった。
「相談って?」
「もうやめませんか。こんなこと。僕もうやりたくないんです。なんか間違ってるような気がして。」
「今更なにいってるの。間違ってるのは、この国よ。私達は先を見据えた新しい人間よ。わかってる。計画はいままで通り実行するわ。」
「わかったよ。でも村川さんは組織サクラは間違ってるって僕にいったよ。」
「村川さんがどういったところで、誰も賛同しないわ。とにかく計画通り実行よ。わかってる。」
「はい。」
その数日後サクラのテロにより吉祥寺駅は爆破され、多数の負傷者と死人がでた。
そして中村は自殺した。
「中村が死んだわ。あなたが中村に何吹き込んだか知らないけど自殺したわ。」
ともみは村川を目の前にして言った。
建設の仕事についていた村川は建設中の鉄骨むきだしの高層マンションの五階にいた。むきだしになったフロアーからは千葉の海が一面に広がり、塩のかおりが建物を吹き抜ける風と一緒に私と村川に届いた。
村川は私に背中を向けて外を眺めながら言った。
「ともみちゃん。あなたのお父さんは間違っている。もうやめないかい。」
ともみは黙っていた。
村川は続けた。
「あなたのそばにいた
中村、姉のみゆき、あなたの大事なもの一つ一つ無くなっていくのわからないのかい。お願いだ。何もかも警察に話して自首しよう。ともみちゃん一人じゃいかせないから私もいくから。」
村川の声はもう私の耳にはノイズになっていた。
頭の中をかけめぐるノイズは頭が破裂しそうなくらい響き渡り、無意識に私は両手で耳をふさいでいた。『うるさい。うるさい。うるさい。うるさい。』
頭のノイズをとめるには、こいつを私のテリトリーの外に出すしかない。
私は村川の背中をおもいっきり外めがけて押し出した。
村川は回転しながら建物の五階から地上に激突した。
私はその光景を見下ろしていた。
『ははは。死んだわ。死んだ。ははは。』
その時ともみの携帯が振動した。
それは村川の息子の村川ヒロシからだった。