母の眠る島2
太陽が海を青々と輝かせ、砂浜に押し寄せる波は海の溢れた海水が島を浸食するようにみえた。
船着き場からは人為的な一本道が真っ直ぐにのび、その両側に原始的な木々が生い茂り、道の先には遺跡のような建物が私の視界に小さく映った。
さっきまで黙っていた村川が建物を指差し言った。
「あの建物まで歩きますよ。」
村川と中村は島の砂浜に飛び降り、船を固定の杭に縛り付け、残りの組織の男は柿沼の母親の遺体を船内から運び出していた。
柿沼は見知らぬ土地に母親の亡骸を葬ることが、どこかしら不安そうな表情で遺体を運ぶ男達をみていた。
打ち寄せる波は無情にも、それらをすべてを飲み込み海に引いていく。
「ねぇ。舞子。ここなら海も見えるし、お母さんも満足するんじゃないかなぁー。」
私は不安げな柿沼に言った。
「うん。そうだけど。なんかここ寂しそうな場所だから。」
その横にいた村川は柿沼の言葉を聞き口をはさんだ。
「うん。そうだね。見知らねところにお母さん一人置き去りにするのは、心配だよね。じゃあこうしよう。一旦ここでお母さんを火葬し、埋葬して、後日舞子ちゃんが落ち着いたら、お母さんを迎えに来ればいいさ。舞子ちゃんの目の届く場所に埋めてあげるといいよ。ね。」
それを聞いた柿沼はぼそりと言った。
「それなら・・・。」
私達は浜辺で木々を積み上げ死体を燃やした。燃え上がる炎は飢えた私を狩りに誘う。
母親の亡骸はロウソクのようにドロドロと流れ落ち人間の存在がちっぽけに感じさせる。
虫けら並に。
私は違う。
新しい何かだ。
私はなんだろう。
そして私達は焼き終えた死体を骨壺につめ、遺跡のような建物の近くの大きな木の下に埋めた。
「お母さん・・・。」
「大丈夫。お母さんをここで暫くのんびりさせてあげようよ。また一緒にこの島に迎えに来ようよ。」
「うん。」
柿沼は続けた。
「ともみちゃん。私もう帰りたい。お母さんと一緒にいるの辛くて。」
数日前までは死しても一緒にいることを望んだ柿沼だが母親の肉体が無くなってしまった途端、一緒にいたくないという。母親の死を受け止めたのだろう。それを察した村川は、私に聞いてきた。
「ともみちゃんはどうする?」
「私はここに残ります。お父さんに聞きたいことあるし。」
「わかった。じゃあ私は舞子ちゃん送ってくるよ。ともみちゃん一人で心細いと思うから中村君置いていくよ。仲良くやってね。」
私は柿沼のほうをみて、
「帰ったら、舞子の家にいくね。」
柿沼は言葉では答えはしなかったものの笑顔で答えてくれた。
村川は柿沼の手を引き船着き場に向かった。
私と中村は村川達に背を向け遺跡のような建物に入っていった。建物にはいるやいなや、片目をつぶり、足を引きずりながら一人の男が私達のほうに向かってきた。
工藤だ。
私は工藤のほうをみて言った。
「お父さん。」
「みゆき。元気かい?」
「うん。」
「用事はすんだのかい。」
「うん。お父さん色々ありがとう。友達も喜んでたと思う。」
中村は私の後ろに隠れるように立っていた。
私の心の中の根幹。柿沼の母親の亡骸を覆う炎の中で感じた疑問をめったに会えない父親にぶつけた。
「ねぇ。お父さん。私はいったい何者なの?私はなんなの?私はだれなの?ねぇ。教えて。教えてよ。」
工藤の見開いた片目は一直線に私を矢のように貫いた。
「みゆきは新しいものだ。人間の進化したものだ。一緒に新しい国をつくるのを手伝ってくれないか。それがお父さんの仕事だ。」
「うん。お父さんの会社の名前は何っていうの?」
「サクラ。」