謎の女
「もしもし どちら様?」
受話器越しに聞こえてくる声は明らかに中村の妹のみゆきの声だった。
「あのー、私村川と申しますが。間違えていたら申し訳ございません。中村君の妹のみゆきさんですか?」
俺には、その声がみゆきだと思っていたが、声だけで判断するのは不安があったので聞き直した。
「・・・・・。」
数秒の沈黙が電話の相手がみゆきだと確実なものとした。
「この番号どちらで?」
みゆきは言った。
俺は中村の部屋にあった暗号のようなメモ書きを辿っていったということを隠した。
「お兄さんがあのようなことにあったことをお悔やみ申し上げます。みゆきさんの番号は中村君の部屋にあったものを、失礼を承知に拝見させていただき、電話をかけさせていただきました。」
「あなた。何がしりたいの?」
みゆきはいった。
「あの事件のこと。中村のこと。」
俺はまわりくどい解釈をやめ単刀直入に答えた。
みゆきは俺のこと思い出したとばかりに話した。
「あーー。あなたあの時、中村の隣にいた村川君だね。その後も駅出口にいた私みてたでしょ。知ってるわ。本題の事は教えられないの。忘れて。あなたとは話すことはないわ。電話きっていい。」
彼女はいい忘れたばかりと話しをつけくわえた。
「ところで村川君。それどころじゃないんじゃない。千葉の実家で大変なことになってるよ。」
彼女は一方的に話し、電話が切れた。肝心な事は何一つ聞けなかった。でもどうして彼女は俺の実家を知っていたのか、わからない。確か大変なことになってるといっていた。
俺はその公衆電話から実家に電話した。コールがなった瞬間母親がでた。
俺とわかった途端、開口一番に。
「今、おまえのところに電話するところだったんだよ。」
「なんかあったの?」
「お父さん、昨日死んだの。」
突然の父親に死を聞かされた俺は、視界にはいるもの、今考えていたこと全てに幕がおりたような錯覚になった。
涙声で母親はいった。
「はやく、帰ってこい。」
「わかった。」
俺はぶっきらぼうに電話を切り、投げるように受話器をおいた。 そして俺は1分でも1秒でもはやく、親父のもとに帰りたいという一心で実家にむかった。