出会い 2
柿沼は朝毎日マンションの入口で私のことを待っていた。彼女はなぜ私のことを待っているのか私にはわからない。いつもたわいもない話をし、私の笑いを待っているような。
しかし私は彼女には興味もなく、無関心だった。
彼女の話で覚えているのは、父親がアメリカ人で母親が日本人のハーフということ。その関係で高校を入る前まではロサンゼルスに住んでいたということだ。そのせいもあり、彼女の話す日本語はどことなくぎこちない部分があった。
家でも学校でも一人だった私は彼女との会話だけが人と接する唯一の時間だった。
「ともみちゃん。今日家こない?」
「んーー。あまり遅くなるとお母さん心配するから。ごめん。」
ともみの家には母親などいつもいなかった。月に数回いるかいないかで、私は断るうその理由を柿沼に言った。
「えーー。お願いきてよ。そんな遅くならないから。ともみちゃんお願い。」
「んーー。じゃあ少しだけ。」
私はしぶしぶ彼女の方をみてうなずいた。
学校が終わり、彼女と一緒に帰宅しながら、私は彼女の夕食の買い出しに付き合わされた。
「今日さぁ。私ハンバーグつくる予定でいたの。私のハンバーグともみちゃんにご馳走させてあげたくて。ともみちゃんは夜ごはん何食べてるの?」
そういえば私は夜食は全くといっていいほど食べたことはない。たまに帰ってくる母親と外食するくらいだ。
「あまり食べない。 柿沼さんはいつも自分で夜ごはんつくってるの?お母さんにつくってもらわないの?」
柿沼は少しうつむき、答えた。
「お母さんいないときのが多いから。」
「じゃあ一緒だね。私も。」
彼女の家は私の二つ下の階の角部屋にあり、ドアを開けた玄関にはホコリが被った女性の靴が置いてあった。
「お母さんいらっしゃるの?」
私は言った。
「いや。いないよ。」
彼女はたんたんと答えた。
彼女の家は私の家と同じ間取りで違うのは家具の配置だけだが、どことなく暗く淀んだ物を感じた。
それは私達以外に誰かいるという気配。
私は自分の住む家以外の家に入るのは始めてで、これが一般の家庭の家なのだと思い、軽く流した。
彼女は私を残し台所にむかい、一人になった私は始めて入った他人の家の至るところを見回した。彼女の家は至るところに大きなジクソーパズルの完成した素晴らしい風景が飾ってあり、一瞬にして崩れ落ちそうなパズルの集合体に私は興味をわいた。
その一つ一つのパズルには役割があり、一つのパズルが欠けると絵に穴が開き美しくなくなる。
完成された絵。
私の乾いたものを埋めるためにはパズルが足りない。なくしたパズルを探す為には同じものを感じる人が必要。人が集まったとき、大きな美しい完成された絵になる。
私はそれを探す為には?
「何考えてるの?ぼーっとして。立ってないで座ってよ。」
後ろからできあがったばかりのハンバーグをおぼんにのせて運んできた柿沼がいた。
「美味しくなかったらごめん。」
私は彼女の家の椅子に腰掛け、違うことを考えながら、湯気がでてる肉の固まりをみていた。
彼女はそういう私の気持ちを知らずに食べることを促した。
「さあ。食べて食べて。」
私は彼女の無垢な笑顔に断りきれずハンバーグに箸をつけた。
「どう?どう?」
不安げな顔で私を彼女はみていた。
「美味しい。」
私は彼女に笑顔で答えた。
「良かった。食べて。食べて。ところでさぁー。ともみちゃん。ジクソーパズル好きなの?」
「いや、始めてみた。私につくれるかなぁー。」
「作れる作れる。まだつくってないパズルあるから一緒につくろうよ。ね。」
私は生まれた赤子に親から始めて遊び道具をもらった喜びを感じたように彼女に答えた。
「うん。」
しかし私の中で幼い頃から研ぎすまされ鍛えられてきた感覚が私の体に鳥肌となり教えてくれる。
『この家には私達以外に誰かいる。』