終演の幕開け2
どろどろとした空気が室内中に漂い、100人ちかくの人間がひしめき合い、アウシュビッツのガス室のようだった。
俺は殴られた傷を軽く手でふれるたびに、傷の痛みが脳に染み渡り、どくどくと吹き出る血の感覚を感じていた。
まわりの疲れはてた人々は、世界の終演をまっているかのような絶望感をかもし出し、俺の目には燃え尽きた灰色のように写っていた。
その中から一人のアメリカ人女性が俺にちかずいてきた。
「日本人ですか?」
俺はぎこちない日本語で話しかけられ驚きながら答えた。
「はい。」
そして彼女は続けた。
「私達は日本の九州地方で治安維持を命じられた米兵です。とある場所を警備していたところ、何者かに遠距離から催眠弾のようなもので撃たれ気がついたらここにいました。私達はここがどこかも、今の状況も全くわかりません。あなたはここの中で唯一の日本人なので、何か知っているのかと思いまして。」
「俺は、日本をこのようにしたテロ集団に捕まりここにいます。」
「あなたはヒロシ村川ではないですか?手配書の写真ににているので。」
「はい。そうです。テロ集団の罠にかけられ、首謀者として指名手配されています。でも俺はその集団とは敵対している物です。 本当の首謀者は工藤アキラ、工藤ともみ、後一人いると思うのですが、私には今のところわかりません。テロ集団の名前がサクラ。あなた方はアメリカと戦争するための火種をつくるために殺されると、はっきりした情報源ではありませんが聞いています。」
そのアメリカ人女性の顔は険しくなった。
「村川さん。あなたのことは、今のところ何処まで信用していいのかわかりません。でもあなたの顔はすべてのことに疲れ死を覚悟した顔にみえます。死を覚悟した人がウソをつくとは私にはどうしても思えません。その話をもっと詳しく公な場所で、話してくれませんか。」
そのアメリカ女性は女神のような笑顔をし、手を差しのべた。
半分死を意識していた俺は、この監禁された場所で間違いなくサクラの連中に殺されるだろうという状況の中、彼女だけが未来を感じ俺に手をさしのべてくれた。彼女は座り込んだ俺を奮い立たせ希望をあたえてくれるようだった。
俺は差しのべる彼女の手をとりがっしり握手した。
「私はモーセレ柿沼。母親が日本人で父親がアメリカ人のハーフよ。よろしく。」
「俺は、ご存知だと思いますが村川ヒロシと言います。」
彼女の暑い鼓動が、握手した俺の手に伝わってきた。
「ところで村川。ここを脱出する方法は?」
俺はその術が全くみつからず、数秒沈黙した。
「すいません。それは俺にもわかりません。」
「んーー。困ったわね。」
まわりをみわしたかぎり、頑丈に閉ざされた扉が二つ。二つとも人為的な力ではどうにもなりそうもなかった。
その時。
頑丈に閉ざされた観音扉が全開に開いた。
そこには佐々木がたっていた。