終演の幕開け
トラックの激しい揺れが、拳で顔を殴られているような錯覚になり、気がついた俺は目をあけることが怖かった。両手は後ろで手錠につながり、まるではらわたを取られた魚のように荷台の上に転がらせ、両脇に座っている男達はこれから俺のことをどう料理するか考えているように感じた。俺は男達の話に耳を傾けた。
「何人くらい捕まえた?」
「みたら驚くぜ。100人くらいのアメリカンだ。」
「どこでそんなに捕まえた。」
「九州はもう米国だ。日本と友好関係を結んだと思ってるからめでたい奴らだ。」
「中国人は?」
「アキラさんが中国のお偉いさん方と仲良くしてるから、同盟でも結んでるんじゃないか。なんかいろいろと取引したらしいぞ。」
「俺の勘なんだが、アメリカ人を殺しまくり、火種をつくり、怒ったアメリカが四国、北海道を総攻撃をかけてくるところに、ガン無視した本州の中国が九州を総攻撃をかける。まぁ、日本中焼け野はらだな。」
「中国のメリットないだろ。それ。」
「バカだなお前。中国がアメリカをとって代わりたいんだよ。世界の中心は中国にしたいんだよ。」
「ところでこいつどうする?」
「危険人物だからアメリカ人の中に放り込んどけとのことだ。殺すなとの命令だ。」
俺は耳だけに意識を集中し気を失ったふりをしていた。
揺れる荷台は男達の会話も揺れるようにたわいもない話に変わっていった。
『俺は死ぬんだ。父親が死んだ後、次から次に出会う奴はみんな汚れた人間だ。もう嫌だ。このままこいつらに殺されよう。』
俺は全てが嫌になった。体の力を抜け、考えることもバカバカしく思えてきた。
男達の会話がなくなり、車が少しずつ減速するのがわかった。そしてエンジンが止まった。
「起きろ。」
男達は俺を強引に立たせ、荷台から放り投げられた。そこは以前サクラの試練という名の洗脳を行った場所だった。
男達は俺を引きずるように、以前は暗闇に気が狂いそうだった部屋に放り込んだ。締め切った部屋は暗闇どころか点滅した明りが部屋中を照らしていた。
男達は俺を放り込み汚いものを蓋をするように数秒で扉を閉めた。
俺は少しずつ目からまわりの情報を脳につたえた。
そこには疲れはてたアメリカ人がひしめき合い俺と同様、手首には冷たい手錠をかけられ小声でぶつぶつと話していた。
その言葉は日本人への怨み言葉か、神への祈りの言葉か、俺の耳にはわからなかった。
ただ、ここはなんの救いもない時間の経過だけがある場所。時間が止まったときは殺される時。俺の世界の終演だと。