疑惑そして確信
当日の天気は雨だった。
あの時も雨だった。誰もいない上野動物園の入口に大雨の中、赤い傘をさし、みゆきは俺のことを待っていた。あの時よりも人はまだらにおり、動物園のゲートは開放され、これから大きな開放された檻の中に入り、飼い慣らされた動物のように決まった行程を動くような錯覚になった。
それは誰かに操られるように。
待ち合わせの11時はとっくにすぎ時間は12時になろうとしていた。
「ちょっと、ヒロシ聞いてる?」
ともみだった。
何も考えず、地面に跳ね返る雨をみていた俺は隣にいたともみに全くきづいていなかった。
「ごごめん 気がつかなかった。来てたんだね。」
俺達はゲートをくぐり、園内にはいった。
雨は激しく傘に降り落ち、跳ね返る。
「ヒロシ。私にききたいことあるんでしょ。だからここにきたんでしょ。ちがう?」
俺は気持ちを見透かされ下をむいていた。
ともみは、その俺の表情をみて、笑いはじめた。そして言った。
「あの時も雨だったね。あの時のようにパンダでもみながら話しましょう。」
俺は彼女が俺とみゆきしか知るはずのないことを平然と話すことをきき、俺の気持ちは疑惑から確信に変わろうとしていた。
トンネルのような建物のなかにパンダがいた。天気に反して、本日のパンダは活発な動きを見せていた。
「すごいすごい。パンダ走ってる。なんかパンダ間近でみると、パトカーみたい。」
ともみは走るパンダが滑稽にみえたらしく大笑いしていた。
パンダは数分後、動き疲れたように動きをとめ、笹の葉をむさぼり食べていた。
「ともみ。ともみはみゆきなの?」
俺は言った。
ともみはパンダをじっとみていた。
「そうだよ。」
ともみはいった。
思っていたことが確信になった俺はともみにきいた。
「ななんで?」
「あなたを利用してサクラが日本を制圧するため。青森の事件の真相はね。あなたが車の中で寝ている間にね、私とアキラで皆殺しにしたの。あの建物の人。ある人の指示でね。父の工藤が自殺したのは私も驚いたけどね。」
俺はともみに聞いた。
「ウソだよね。そんなこといきなり言われても割りきれないよ。」
「本当だよ。私の双子のみゆきを殺したのも私。あなたの会社もサクラの資金源になってる会社なの。あなたは私に利用されてただけ。あなたの周りは汚れた人間ばかりよ。」
俺は言葉がでてこなかった。
今までともみとともに積み上げたものが総崩れしたように茫然自失になり、体が硬直した。
「あなたとも、もうおしまい。中山が持ってた鍵あなたが持ってると思うんだけど。鍵はどこ?」
俺は首を横にふった。
「渡さないと死ぬわよ。」
俺はともみの激変した言動に驚愕した。その言動からはともみの焦りのようなものも感じた。
「鍵はどこ?どこなの?」
「ここにはない。」
「わかった。もうあなたいらないわ。死んで。」
ともみの合図とともに、何人もの男達が俺を囲んだ。
その時だった。
何人もの男をさくように凄い勢いで何者かが走ってきた、俺はその男に腰にタックルされ、かつがれた。かつがれたままの俺を雨の中を走り抜け、車のなかに乗せられた。
俺はあまりの一瞬のことで状況の把握が出来なかったが、この男に助けられたのは確かだった。
男は車に俺を乗せたと同時に車にエンジンをかけた。その場から逃げるように車は猛スピードで走行した。俺は恐る恐るバックミラーから男の顔をのぞきこんだ。
それは豊島だった。