疑惑2
男の話に俺は聞き入っていた。男の話によると、工藤みゆきが俺と出会う前から死んでいて、工藤みゆきと名のる女性と出会い、その女性と住んでいた。ということだ。
俺は佐々木という男の正面に座っていた。佐々木は額にうっすと汗をかき、真剣な目で俺をみていた。
「村川さん。青森の事件の時、その中に警視庁の中山が死体でみつかったのはご存知ですよね。中山は私の上役で雲の上の存在のような人なので話したこともないのですが、彼はサクラと密接な関係があったようです。何か中山から預かっていませんか?その時現場にいたのは、あなたと牧草ともみ、二人だけなんで。」
俺はおもいだした。
『そう言えば、中山の手の中に鍵が握られており、それを俺が中山から奪いとった。』
俺は言葉にださずに黙っていた。
佐々木は手帳を閉じ話した。
「わかりました。思い出せないようですね。もし事件のことで何か思い出したら連絡いただけないでしょうか?些細なことでもいいんで。」
佐々木は俺に名刺をさしだし、立ち上がった。
「でも、あなたの奥さんの牧草ともみさん、工藤みゆきにそっくりですね。しかもあなたの前に現れたタイミングは良すぎですね。まぁこれは私の推測なので気にしないでください。それでは連絡お待ちしています。」
男は帰り際に言い去っていった。
もし、ともみとみゆきが同一人物なら、みゆきを殺したのはともみに違いないとも思った。しかし今までともみと一緒にいた8年間、彼女が人を殺すような人間には思えない。佐々木という男の真剣なまなざしは嘘を言っているとはどうしても思えない。
俺は気持ちの整理もつかないまま店をでた。その日は仕事をいつもより早く切り上げ家に帰った。
「今日は早かったのね。」
玄関のドアを開けた音でともみが部屋から顔をだした。
いつも見慣れてるともみの顔だが今日にかぎっては、ともみの顔をみたとたん心臓の鼓動が早くなった。
ともみは横になりながら雑誌を読んでいた。
俺はともみが作ってくれた料理に箸をつけながらはなした。
「今度の日曜どっかいかない?」
「いいけど、何処に?」
俺はテレビのスイッチをおし、ブラウン管から流れる音をききながら言った。
「上野動物園行こう。」
ともみの取り巻く空気が一瞬変わったように感じた。
「いいよ。私日曜用事すませてから行くから、現地で待ち合わせにしない。」
俺は目線をテレビに向けながら答えた。
「わかった。」