疑惑
ともみとの結婚生活は、俺自身の再出発をきるには最適な門出だった。
今まで目の当たりにしてきた人の死を忘れ、俺自身とともみの生への執着を思った時期だった。
しかしそれは、あることをきっかけに崩れはじめた。
結婚し三年がたった頃だった。
それは俺の前に一人の男が現れた時から始まった。
「こんにちは。村川ヒロシさん?」
「はい。そうですがどちら様?」
「私、警視庁の佐々木といいます。8年前の青森の大量殺人について、ちょっとおききしたいことがありまして。」
男は40くらいの大柄で、白いワイシャツが太ったお腹を一層際立たせていた。
「いいですけど、仕事中なので、お昼時なら。」
「わかりました。ではあそこの喫茶店で12時頃にお待ちしておりますので。」
男は洒落た喫茶店を指さしながら言った。
俺は気すすまなかった。
せっかくともみと再出発をし、忘れたい過去を蒸し返し話すのが嫌だった。
仕事に集中していた俺にとってお昼の時間はあっという間だった。男はタバコを吸いながらコーヒーをのんでいた。灰皿のタバコの量からすると結構前から俺のことを待ってたに違いなかった。
「お待たせしました。」
俺はいった。
「コーヒーでよろしいですか?」
「お構い無く。すぐ会社にもどりますから。話とは何ですか?」
俺は男を遠ざけるようにいった。
男はポケットから使いなれた年期がはいった手帳をだし、ペラペラとめくりながら話した。
「8年前の青森の大量殺人事件の現場にあなたと牧草ともみがいた。そこで行われていたことは、分かっているのですが、サクラというテロ集団の工藤アキラと工藤みゆきの居場所が昨日までわからなかったのですが、昨日ちょっと進展がありまして。」
俺はみゆきの名前がでたことに男の話に興味をもった。
俺は有りのまま話した。
「工藤みゆきさんとは1年間一緒に住んでいました。」
わかっていたように男は話した。
「そうですよねー。でもちょっとおかしいんですよ。二週間前くらいに青森の山奥で工藤みゆきの死体が発見されたんです。死後結構たっていましたので、死体が工藤みゆきと分かったのが昨日のことでして。それが工藤みゆきが何者かに殺されたのは約10年前から15年前なんです。あなたが工藤みゆきと出会ったのが、約9年前のこと。その時工藤みゆきは死んでいたんです。いったいあなたと住んでいたのは誰ですか?」
俺は男の話に絶句した。




