流れる時間
あれから5年の月日がたった。その後は、サクラの際立った事件もなく、俺は学校を卒業し会社勤めをしていた。みゆきともあの青森の事件以来会ってなく、どこでなにをしているのかさっぱりわからなかった。最後にみゆきの家をでるときに、餞別とばかりに箱に入った1000ピースのパズルを貰ったが、5年たった今でも箱に入ったままで、できあがった時の絵は今だわからない。
その日は、いつものかわらない日常だった。変わった事と言えば、その日は大雪と風で身も凍る寒さだった。建設会社に勤める俺は仕事を終え、いつものように会社の近くのマックで人を待っていた。
雪は路面を凍らせ、凍てつく寒さに、襟をたて寒さをしのぐサラリーマンが窓の外を歩いていた。
電車通勤の俺は、雪の影響で電車がとまる事を予想し自宅にかえることを諦めていた。
「お待たせ。待った。」
陽気に話しかけてきたのは、ともみだった。
5年の月日が俺とともみを友人から恋人に変え、来年の四月のサクラの季節には結婚の約束までしていた。
「すごい雪だね。」
ともみは言った。
「来週の水曜はクリスマスだけど、ホワイトクリスマスには、ちと早いね。」
「クリスマスかぁー。私達予定ないけど。どっかいく?でもどこいっても人多くて疲れちゃうよね。」
俺は日々の仕事の忙しさにともみとのクリスマスの予定を全く考えていなかった。
答えに詰まった俺は、笑ってごまかすように言った。
「クリスマスの予定は考えていたんだけど、俺もともみも、その日仕事だから、仕事終わってから行くとしても近場かなぁーと思って。」
「ウソばっか。ヒロシはクリスマスなんか何も考えてなかったくせに。」
見透かされた俺は笑ってごまかした。
ともみも俺の苦しい笑いが滑稽に思ったらしく、大笑いした。
「ところでヒロシ。今日泊まるとこないなら、家きなよ。」
「ないけど。迷惑だからいいよ。ともみお母さんと同居してるでしょ。それに結婚前で不謹慎じゃないかなぁー。」
「大丈夫。お母さん地方で出張でいないから。気兼ねしなくていいよ。」
「そうなんだ。じゃあ。」
「よし。なら私料理の準備しなくちゃ。早速だけど行こう。」
ともみの家は高級マンションの上層部にありセキュリティも万全で、俺の下宿先とは雲泥の差があった。
「さぁー。あがって。そう言えばヒロシが家きたの始めてだよね。私はヒロシの家はいっぱいいってるのにね。」
「すごいね。やっぱ政界の大物の家は違う。緊張しちゃうよ。」
「緊張しなくていいから。気楽にして。」
俺はともみの部屋に通され、ともみのベットに腰をかけ、テレビをみていた。
一時間後ともみは料理を運んできた。
「今日はハンバーグです。」
ともみは言った。
どこかで聞いたフレーズだった。
テーブルにおいたハンバーグとご飯は、湯気が立ち上ぼり、手作り感が漂っていた。腹ペコだった俺は早速口に運んだ。
「うまい。」
俺はともみにうなずきながら言った。
「ありがとう。」
ともみは俺に笑顔で答えた。
俺はこのハンバーグの味は以前味わったことがあった。死んだ工藤と一緒に食べた忘れもしない、みゆきが作ったハンバーグと同じ味がした。