始まり 2
子供の泣き声。悲鳴をあげる女性。我先にと怒鳴りちらす男達。人間が悪鬼とかわり、後ろからは闇がちかずいてくる。すべてを飲み込む闇が。
俺は呆然と炎があがる駅をみていた。ビルが群がる町は黒い煙の道ができ、数百人がひしめき合う。
『あっ』
煙にまかれた視界の中、俺は目を見開いた。
人々の群れの中に中村の妹のみゆきがいた。みゆきは俺の顔をみ、笑ったように見えた。俺は彼女に近寄ろうとも、人々の群は俺と逆方向に進み、津波のように押し戻される。恐れおののく人々に反して彼女は冷静で俺の顔をじっとみていた。彼女の冷たい笑顔は何を意味するかわからず、俺は彼女は一定の距離を置いて対峙していた。
そして彼女は煙の中に消えていった。
寮に戻った俺は、真っ先に中村の部屋をノックした。
「・・・・・。」
沈黙がより一層中村の身を心配させた。
とにかく俺は中村の帰りを自分の部屋で待つことにした。
テレビのチャンネルは、爆発事件一色になっていた。列車が動きだしたと同時に爆弾を身にまとった男が列車に飛び出したのことだ。
それも爆弾を身につけた男5人が一斉に身を投げ出し爆発が爆発を呼び、あの悲劇をうんだ。身元確認中と報道ではいっていた。
俺は中村が被害者ではなく加害者の可能性もあると推測した。俺と別れた時の中村は明らかにおかしかった。列車に飛び出した男達の一人が中村なら、なぜそんな事をしたのだろう。20代と満たない男が自ら死ぬ勇気があるのだろうか。それなら被害者で事故に巻き込まれた。というほうが可能性が高い。
俺はいろいろと憶測はたつが、どれひとつ確信はない。今は中村の帰りを待つしかなかった。
中村はその後、一週間たっても帰って来なかった。
俺は大家に理由を話し中村の部屋の鍵を借り部屋をあけた。
そこにはカーテンが閉めきった薄暗い部屋の中、机にうつ伏せに座っている中村がいた。
「おい中村。中村ーー。」
中村は座ったまま生き絶えていた。