洗脳
部屋の中は暗闇から一転し、眩いばかりの光が差しこみ、俺以外の人達全て涙を流していた。母親のお腹からでてきた人間が初めて目を開き、神々しい光をみて泣きじゃくる赤子のようだった。
部屋中に響き渡る工藤の声は、まさに神の声のように能に響き渡り、自律神経がおかしくなった人達は素直に受け入れてるようだった。
俺は、組織サクラの思惑を考えながら、工藤の話をきいていた。能がしっかり機能するには一定の光の量が必要だと誰かに以前聞いたことがある。
これは洗脳だ。
俺は思った。
「今この日本は財政は破綻し、他国にはいいように利用されている。この国の未来は闇だ。私達が新しい未来をつくろう。戦後のゼロの時のようにこの国をリセットしよう。さぁ日本の全ての人に気づかせるんだ。君達は自由だ。一緒に自由の国をつくろう。」
工藤の淀みのない力強い声が響き渡った。
工藤の声が止んだと同時に扉から数人の男が入ってきた。男たちは俺達の縄をほどき、着替えの服を差し出した。
「服の着替えをお持ちしました。今着ている服はクリーニングして、今度お会いする時にお返ししますので、今はこれで我慢してください。」
一部の男達は亡くなった人の縄をほどき、手を合わせ丁重に運び出した。
俺達は汚れた服を脱ぎ捨て、用意してくれた服に着替えた。
「さぁ、こちらに。」
俺達は男達に隣りの部屋に案内された。そこには洋食中心の食事が用意されていた。
スープから湯気が立ち上ぼり、暗闇の中で、もがき疲れた俺達にとっては、その湯気が食欲をいっそう駆り立てた。
席についた俺達は、目の前の料理をむさぼるように食べ胃袋に放り込んだ。皿が空いたと同時に料理が次から次へと運び込まれた。
「みなさん。私達のリーダーを紹介します。」
料理を運んできた男が大声で言った。
扉からでてきたのは、忘れもしない、俺を撃ったアキラだった。
「こんにちは。私は工藤アキラといいます。組織サクラにようこそ。みなさんの力がこの国を救うのです。人はだれも寿命というものがあります。 死とは闇か光かはあなたがた次第です。共に光を求め、生が尽きるまで闘いましょう。死は一瞬です。それからはまたあなたがたの永遠の人生が始まります。この世界は汚れた世界です。その世界に生きる人は汚れた人達です。汚れた人達を全滅させ、我々のサクラの世界を一緒に築き、永遠の世界をこの世界につくろう。エジプトの王家の谷のように。」
アキラは言った。
それからは各々個別に連れていかれ俺一人になった。
「村川君。試練は辛かったかい?」
アキラは言った。
俺はアキラを睨むように見詰め、首をたてにふった。
アキラは俺に一声いうと、薄く笑い去っていった。
時計は午後一時を指し、ここにきてから、4日が過ぎていた。
そして俺は解放され、試練という名の洗脳は終わった。