謎の部屋2
俺達は暗闇のなか、完全に放置され人間界から隔離された感覚になった。何時間経過したのかもわからず、ぶつぶつと一人言をいう人が増え、トイレにもいけず、異臭の臭いが漂い、闇という世界が人をおかしくさせはじめた。身動きを取れない上、視覚の情報を遮断されると、俺は今までのことはどうでもよくなり、思考能力がなくなってきた。発狂する人の声が俺の耳に飛び込み、体全体が動きを抑制された反動で暴れだした。暴れれば暴れるほど縛り上げる縄は体に食い込む。
その時だった。研ぎ澄まさせた聴覚に俺を呼ぶ声が聞こえてきた。
「村川君。村川君。わかる?豊島です。」
声は俺の席のすぐ後ろから聞こえ、めいいっぱい首を曲げた。そこには隠れるように、しゃがんだ姿勢でいる豊島がいた。
「今、縄ほどくから、静かにじっとしてて。あばれないでね。」
豊島は小声でいった。
豊島は縄をほどき、ついてこいとばかりのジェスチャーで裏口のドアを音を立てないようにそっと引き、外にでた。
外はすでに夜になっていた。空高く輝く月が俺をゆっくりと正気に戻してくれる。
「村川君大丈夫?」
豊島は言った。
俺はじっと月とまわりに輝く星をみながら涙声で答えた。
「ありがとう。ありがとう。本当にありがとう。」
豊島は照れ笑いしながら下を向きながら話した。
「牧草総理に君の身に危険が生じたら助けてあげてって言われてるから。本当の運転手の長谷川って男は、警察の留置場にいるよ。」
「じゃあ、牧草総理が言ってた相棒っていうのは豊島さん?」
俺は豊島さんに尋ねた。
「いや、違う。俺は今朝がた、総理から急に言われたから、俺のほかにも、君の同胞はいるよ。」
俺は朝方まで豊島の車で休み、朝日がみえはじめたころ、あの闇の世界に戻った。
部屋は悪臭が漂い、発狂していた人達は口からヨダレが糸をひき、異常な声で笑っていた。口から血をながしうつ向いて動かない人もいた。
俺はもとの席につき、縄を再度縛り直した。
暗闇の地獄は更に続いた。みえない経過に絶望を感じながら漆黒の闇は続く。
希望がないことに疲れた人達は誰一人声がしなくなった。ただひたすら死を待つ人達。
その時だった。
部屋に響き渡る声、いや放送が部屋中に響き渡った。
「皆様 はじめまして。私は工藤と申します。大変ながく待たせてしまったね。」
部屋の硬く覆っていた窓の板が何枚もの雨戸を横に滑らせ収納するように、板が自動的に横に収納し、暗闇の部屋に光が差し込んだ。
工藤の放送は続いた。
「君達は自由だ。食べたいときに食べ。眠りたい時に寝ればいい。君達の大切なものを守りながら生きればいい。しかし今の日本はそれができない。これから先待ち受けているのは闇だ。君達は立ち上がって、私とともに戦ってほしい。またあの暗闇にもどりたくなければ。」
部屋の窓は全て全開に開き部屋中、一気に明るくなった。眩しさでみんな目をつぶり、体中にうける太陽の光に涙を流していた。
部屋の中には15人の人がいた。その中の三人は暗闇の恐怖に耐えきれず、舌をかみきり死んでいた。