謎の部屋
高田馬場駅から、みゆきのマンションまでは徒歩で10分くらいだった。いつもの見慣れた街並みは、今日に限っては色濃く見えた。
いつものようにドアをあけ、部屋にはいるとみゆきがパズルを黙々と夢中になっている後ろ姿があった。
「お帰り。遅かったね。もう帰ってこないかと思ったわ。」
「ただいま。千葉の実家に帰ってて、母親が夕御飯用意してくれてたから、食べて帰ってきたから遅くなった。」
俺はみゆきにウソをつき、ソファーに腰をおろした。
「ふぅーん。そう。」
みゆきはパズルの空いている凹凸に大量にあるパズルのパーツの中から類似したものを探していた。
「ところでヒロシ。明日、組織の使いの人があなたを迎えにくるから、ついてってほしいの。」
みゆきは言った。
「わかった。」
俺は答えた。
みゆきに言われ俺は次の日、家にいた。朝目覚めてから二時間くらい経過している。時計は午前11時をさし、秒針は未来にむかい、一定のリズムで動いていた。組織の使いがきたのはその一時間後だった。チャイムと同時にドアごしから声が聞こえる。
「村川さん。お迎えに参りました。」
俺は急いで靴のかかとをつぶしながら履き、ドアを勢いよく開けた。
俺は驚いた。
そこには総理の秘書の豊島が立っていた。
豊島は無口のまま車に案内した。車は約20分走った。
俺は豊島が俺のように総理に任を受け動いているのか、それともサクラの謎の幹部の一人なのか分からず困惑した。
車が止まった先には昔からある石で覆われた蔵が不気味に建っており、車から降りた俺は豊島に連れられ、建物の中に入った。
建物にはいるやいなや、みゆきが出迎えてくれた。
「あら、遅かったのね。私は家に10時に迎えをたのんだのに。いつもの運転手さんじゃないのね。」
みゆきは俺と豊島のほうをみて言った。
「運転手の長谷川がこれなくなったので、急遽、代打で私がお迎えに参りました。豊島ともうします。」
「そうなの?まぁいいわ
。とにかくみんな揃ってるから始めるわ。」
豊島は入口で待ち、俺はみゆきに連れられ、違う部屋に通された。
部屋の中は真っ暗だった。
暗闇の中、数十人の人間が椅子にすわりひしめきあっているのがわかった。誰一人立ち上がる人がいない。
みゆきはここに座れといわんばかりに、俺の肩に手をおき、俺を押し潰すように力を入れた。俺が席につくのを確認し、みゆきは部屋から出ていった。
部屋の窓には光が差し込まないように頑丈に板がはりつけており、穴蔵のように暗闇につつまれ、無音の中、換気する器械音が際立ち耳にはいってくる。
暗闇に目がなれてきた俺は、まわりに座っている人たちが椅子に足も手も縛り付けられてるのに気づいた。 身動きが取れない状態で、ただ椅子に座ることだけ義務づけられた人達。
数分後、俺もまた黒子のような人に縄で頑丈に両手、両足を縛られた。
何か始まるような気配も感じられず、暗闇のなか時だけが流れた。人の呼吸の音、暗闇のなか眠りにつく鼻息の音、みんないつか解放されるだろうという安堵する様子があった。
しかし解放される様子はなかった。