父親のメッセージ2
迎えの車は一時間後にきた。傷1つない黒のレクサスは玄関の前にとまり、エンジン音が消えた。玄関口でまつ俺は運転席にちかずいた。運転席の窓が下がり、紺色の背広をきた40代風の男が俺のほうをまじまじとみた。男は運転手というより、秘書的な感じで煙草の匂いが俺の鼻についた。
「村川さん?」
男はいった。
「はい。牧草さんから車を待つようにいわれまして。」
俺はこたえた。
「結構道こんでて遅くなって悪かったね。」
男は気さくな感じで話し、名刺をさしだした。
名刺には思ったとおり、牧草総理大臣第一秘書、豊島と書いてあった。
「村川さん、ぼーとしてないで後ろに乗ってよ。」
俺はきずいたとばかりに後ろのドアをあけ、柔らかな後部座席に腰かけた。
「ここからだと、一時間くらいかかるから、寝ていてもいいよ。トイレいきたくなったらいってね。」
俺を乗せた車は静かに走りだした。車内は煙草の煙で充満し、馴れた手つきでギアを変える。
後部座席はやわらかく、体が沈み、十分すぎるほど足をのばすことができた。緊張から解き放たれたような快適な空間だった。ただ1つ煙草の匂いをのぞけば。
柔らかいソファーは俺に眠りを与えた。五感の全てが休息をとるように、ふかく意識が沈んでいく。遠くから声が聞こえる。『もどりたくない』と思う俺に反して声はどんどん大きくなっていく。
「村川君着いたよ。」
運転手の豊島さんの声だった。
目を覚ました俺は車の中だということを思い出すのに数秒かかり、数秒後に。
「すいません。気がついたら寝てまして。」
「いいよ。いいよ。」
車から降りると、目の前に、牧草総理が出迎えとばかりに、一人でたっていた。俺はテレビで見慣れた顔なので、それが牧草総理と一目でわかった。
「はじめまして。牧草といいます。お父さんそっくりね。」
彼女は昔を懐かしむような笑顔で俺に言った。
「急に電話してしまい。申し訳ございません。父の亡くなった知らせと、牧草さんにどうしても聞きたいことがありまして。」
「私に聞きたいことって?」
俺は彼女に聞こえるようにつぶやいた。
「組織サクラ」