父親のメッセージ
解放された俺はみゆきの家に帰らず、千葉の実家に帰った。
信じられない東京ドームの爆発を目にし、家に着く早々テレビをつけたが、事件の報道はどこのチャンネルもやってなかった。インターネットで東京ドーム内の飲食店から火災。ドーム一部崩壊。とのってるだけだった。
俺は不思議に思った。
吉祥寺駅の事件の報道も最初は派手にマスコミが騒いだが、三日後には何もなかったように消え、今回はそれ以上に始めからニュースに取り上げられていない。俺の住んでいた国分寺の寮のことはニュースどころか新聞の活字の一行にもなっていない。
組織とマスコミの間に何か大きな力が働きかけたような変わらない日常。
ポケットから親父のわかかしき頃の写真をだした。写真は撃たれた時の俺の血が付着し汚れていた。
『左側の背の低い男が親父で、右側の長身の男が工藤。真ん中の女性は誰だろう?』
女性の顔は俺の血でみえずらく、俺はその血をふきとった。拭き取る感触が写真の変化にきずいた。不自然に写真の上から同じ色で塗りつぶされた部分があった。俺は丁寧にゆっくりと削るようにその塗りつぶされた部分を削りとった。
そこには親父が書いたらしい文字がでてきた。
『水曜日の夜』
俺は親父のアルバムを再度眺め、同色で塗りつぶされた部分がある写真を探した。
他に4枚でてきた。
俺はすべて、それを削りとり、文字を読んだ。
一枚目の写真には、
『水曜日の夜』
二枚目の写真には、
『待つ』
三枚目の写真には、
『モンテール』
四枚目の写真には、
『Mより』
続けて読むと
『水曜日の夜モンテールで待つ。Mより』
俺は組織サクラの思想に反対していた親父のメッセージに雲の隙間から大地に注ぐ一本の細い光のように感じ、Mという人物を探し会うことを決心した。サクラの実態、親父の俺に対して遺言を明確にしたいがために。
もし写真の女性がMならば、俺のこれから歩くべき道に導いてくれると思ったからだ。
古い写真の約束は、今も続いてる確証はない。確か親父の携帯のアドレスに、Mという名前があったはず。
俺は迷わずその携帯番号に電話した。
コールが数回続いた後、滑舌のよい声が俺の耳に飛び込んできた。
「はい。もしもし」
「突然の電話ですいません。僕村川ともうしますが、父の携帯に名前があったもので、父の訃報を知らせようと、お電話させていただきました。」
「村川君亡くなったのね。最後に何か言ってた?」
親父を君付けでよぶ所に俺は写真の人物だと確信した。
「父親の写真から、『水曜日の夜にモンテールでまつ。』とあなた宛のようなメモ書きがありました。」
「そう。結構古い約束ね。それ。」
「先日工藤さんともお会いしたのですが、工藤さんも父のことを残念に思って頂いて、感激しています。」
工藤という名前を俺が口にした瞬間、彼女は沈黙した。
「・・・・・・。」
彼女を取り巻く空気が確実にかわった。
「・・・工藤は今何処に?」
彼女は続けた。
「ちょっと、電話はまずいから、私のとこに来てもらえる。車まわすから。」
「どちらまで?」
俺は一方的な彼女の話に終止符を打つように尋ねた。
「首相官邸。」
彼女はこたえた。
彼女は初の女性総理大臣とうたわれ、現総理大臣の牧草みゆき総理大臣だった。