勧誘
あれから半年時間がたった。
傷も癒え、後遺症といえば、右手の握力が若干おちたことだけであり、特別私生活には問題なく過ごしていた。
日差しは暖かく木々には花の実がつきはじめ、もう少しで開花する予感を感じさせる。物事の始まりのサクラがさきはじまる。
工藤家にお世話になった後、俺は都内のみゆきのアパートに同居していた。それは完治していない俺の体を心配した工藤が、みゆきとの同居を進めてくれたからであった。
みゆきは留守にすることが多く、家に帰ってくるのは1週間のうちにせいぜい一回だった。
わかったことは彼女は大学生であり、週二回サクラの集会があることだ。俺は彼女がいないときは勉強に明け暮れ、たまに帰ってくるときは一緒に食事をした。そのせいか来月から彼女と同じ学校に進学が決まっていた。
家にいるときの彼女は、憂うつな瞳で1000ピースのパズルを黙々と作り、存在を感じさせない。
その日もまた彼女はパズルに熱中していた。
「コーヒーいれたよ。」
俺は彼女の側にあるテーブルにコーヒーを置いた。
「ありがとう。ヒロシはいつから学校?」
長い同居生活でみゆきの俺に対する呼び方もヒロシに変わっていた。
「4月から。」
「ふぅーん。明日、東京ドームの近くでご飯たべない。」
みゆきはいつも思い立ったように話切り出す。
「いいよ。」
俺は答えた。
「じゃあ私明日用事すませたら行くから現地で待ち合わせしましょう。時間は午後1時。遅れないでね。」
みゆきは用件を言うと、また黙々とパズルに熱中し始めた。
次の日、俺は彼女の待ち合わせ場所に早い時間についた。待ち合わせの場所は建物の2階のファミリーレストランだった。一面窓ガラスに囲まれており、そのガラスに沿ってテーブルが規則的に並び、風景が一望できるようになっていた。ガラスごしには東京ドームが一望でき、後楽園遊園地のジェットコースターが滑り落ちる光景に目を惹かれた。
俺は椅子にこしかけ、大きな風船のようなドームを眺めていた。
「ごめん。 待った?っていうか、まだ待ち合わせ時間20分前じゃない。ヒロシが早く来すぎ。」
みゆきのいきなりの登場で立ち上がった。
「ごめん。ごめん。やることなくて早く来すぎちゃって。」
俺は謝り返した。
「とにかく、座ろう。私お腹ペコペコ。」
定員は俺達に水と同時にメニューを差し出した。
「ねぇ。ヒロシ。私スパゲッティにするけど、何にする?」
「俺も同じものでいいよ。」
みゆきは早速注文し、開いたメニューを閉じた。
「ところでヒロシ。そろそろ私たちの組織サクラにはいらない?」
俺は下を向き考えたが、以前の工藤の誘い同様に考えがまとまらず、何も話さなかった。
「わかったわ。その沈黙が答えね。でもね、私、どうしてもあなたをサクラにいれるわ。」
気がつくと、昼時のレストランは、客でいっぱいになっており、定員は俺とみゆきの前にナポリタンを置き小走りで他のテーブルに注文をきいていた。
その時だ。
建物じたいに大きな揺れが襲った。
ドームから煙が空にむかい一本の搭のようにそびえたった。
数分後には四ヵ所から煙の搭がそびえたち、風船の中の空気がぬけ萎むようにドームの屋根が落ちようとしていた。
「なんか地味な風景ね。もっと大きな花火期待してたんだけど。」
みゆきは言った。
俺は立ち上がり、みゆきを睨んだ。みゆきは俺をみて笑って言った。
「動かないで。ヒロシ。 このレストランはもう私達の組織の人間でかためてあるわ。」
立ち上がったと同日に俺の後頭部に冷たい物を押し当てられるのを感じた。
拳銃だった。
みゆきは拳銃を握ってる男を手で制止ながら、
「ヒロシ。紹介するわ。兄のアキラ。」
俺はゆっくり振り返るとそこにいたのはまぎれもなく、以前銃で俺のことを撃った男だった。