闇の組織「サクラ」
その建物は、四角い箱のような古ぼけた遺跡のような建物だった。建物は人目につかず、そのまわりを何百年も放置された木々が生い茂っていた。俺とみゆきは建物からそれほど遠くない海岸沿いまで歩き、時代の移り変わりのように次から次に押し寄せる波を眺めていた。
「あの建物は2階建てのように見えるけど、地下にもあるの。あなたが寝ているのは、その2階部分。地下2階で爆薬、銃器等の研究、製造してるの。」
俺は振り返り建物全体をみまわした。
「 ここに親父もきたことあるの?」
俺は言った。
「うん。よくきてた。私も小さい時から、あなたのお父さんの村川さんのこと知っていたわ。村川さんあなたの話よくしてたわ。」
みゆきは言った。
俺は撃たれた右肩に痛みが走った。俺は体中の力が抜け、倒れかけたとき、みゆきの小さい体全部で俺を支えた。数秒後俺の体を支えられず、みゆきを押し潰すように柔らかな砂浜の上に倒れた。
みゆきは大声で笑いだし、俺の体と砂浜の間から抜け出そうともがいていた。
「おもーーーい。」
「ごごめん。」
二人の体制が整い、砂浜にお尻をついて、お互いの砂だらけの顔をみた。
俺とみゆきは互いに大笑いして、俺は手でみゆきの顔の砂を落とした。
「ありがとう。」
みゆきの笑顔は、無差別な爆発事件を起こした主犯格には見えず、無邪気な子供のように見えた。
建物の部屋に帰ったのは午後3時頃だった。
俺はベットに横になり、
リハビリで痛めつけた体を癒した。体は石のように固まり大きな波のような睡魔が襲ってきた。俺はその波に飲み込まれるように眠りについた。
目が覚めた頃は窓の外が真っ暗になっており、薄い灯りが部屋を暗闇から浮き上がらせていた。ベットの横にはみゆきが座っていた。
「起きた?気持ちよさそうに寝てたから邪魔しなかったわ。私のお父さんがね、一緒に夕食食べようっていうから迎えに来たの。」
俺はみゆきに付き添われ別室に向かった。部屋の外の廊下を入口とは逆に進み、一番奥の部屋に入った。
そこは俺が思ってた以上にこじんまりとしていた。
6人かけのテーブルに工藤が座っていた。
「休んでるとこ申し訳ないね。たまには一緒に食事でもと思ってね。」
みゆきは隣接した別室の調理場と思われる部屋から料理を運んできた。
「今日はハンバーグです。私がつくったの。」
みゆきは自信げな笑みをうかべ俺をみた。
工藤はため息をつきながら、
「『今日は』って。昨日も一昨日もハンバーグだろうが。みゆき。とにかく、ワインと箸くれ。」
みゆきはふて腐れた顔をしながらワインと箸を取りに行った。
工藤家はハンバーグを箸で食べるのが習慣らしい。
ワイングラスは俺の前にも置かれた。
「ヒロシ君は未成年だけど一杯くらいは付き合ってくれよな。」
工藤は言った。ワイングラスにそそがれた赤ワインは、撃たれた時の体から流れた血を思いだし、足りない血を注入する感じがした。
「はい。是非いただきます。」
俺は答えた。
デミグラスソースがかかったハンバーグは湯気がたっており、空腹な俺の食欲をそそいだ。
「遠慮しないで食べて。」
みゆきは言った。
俺は食べながら、飲みなれない酒を飲んだ。
工藤が静かに俺に話しかけた。
「ヒロシ君。お父さんの葬儀にでれなくて悪かった。私はみた通り右目が見えなく足も不自由だ。長時間太陽の下にいると疲れてしまってね。」
俺は箸をとめ。
「お気持ちだけで十分です。逝った父も工藤さんの気持ちを十分に理解していると思います。」
「友人が亡くなったのになにもできなくて、すまない。」
工藤は俺の目をみて続けた。
「ヒロシ君。私と君のお父さんの作った組織サクラにはいらないかい? サクラとは4月に咲き、物事始まるような意味合いがすると私は思う。日本人がみんな愛する花だ。君のお父さんの意志をついでくれないか?」