謎の組織
みゆきと別れ、いくあてもなく、上野駅周辺を傘をさしてうろついていた。
雨も小降りになり始め、時間は午後1時になっていた。みゆきは父とみゆきの組織とは密接な関係があるといっていたが、父と一緒に過ごした18年間、特別何かの会合に参加していたという記憶もなく、真面目で誠実なイメージしかなかった。
混乱した俺はポケットから父の携帯をとりだしみた。そこには、汚れた国と書いてあり、六人の名前があった。
汚れた国
みゆき
中村
あきら
ともみ
工藤
M
多分この六人は組織の構成員と思われるが、なぜ父親の携帯に。俺は自問自答した。
俺は、父の携帯の充電がなくなるのを恐れ、父親の古い写真の裏に六人の名前とそれぞれの携帯番号を写し書きをし内ポケットに入れた。その中でも、工藤という名前のところだけ、携帯の番号がなく、メールアドレスらしきものしかなかった。
上野駅は雨がやみ、蒸し暑さだけが残り、さまざまな臭いが混合し鼻についた。
『傘がない。』
頭の中で気づいたように言った。多分携帯の写し書きをしたときに構内のベンチに置いてきてしまったのだろう。
その後は千葉には帰らず、都内の寮に帰ることにした。上野発の下りは結構人が多く、日曜のわりにはスーツ姿のサラリーマンが多かった。 電車は各駅にとまる度に人が減り、国分寺駅につく頃は、両側一列に並ぶ座席の空席が目立っていた。駅の改札でたころは、日が暮れ始め、メイン通りの飲食店は灯りがつきはじめた。
一週間ぶりの寮は、どこか変わったようにみえた。中村の部屋も一時は、騒然としていたが、今はその騒ぎもなくなり、代わり映えのない一室に戻っていた。俺は自分の部屋に鍵をさした。鍵は空回りしたような手応えのない回りかたをした。
俺の部屋はすでに空いていた。
俺はドアを勢いよくあけ、中を確認した。
カーテンの閉めきった、薄暗い部屋の中の椅子に一人の男が座っていた。
男は細身の体で足をくみ座っていた。
「こんばんは。 村川君。」
男は俺のほうを指さすように腕をあげた。腕の先には黒光りした鉄の塊が握られていた。
拳銃だった。
銃口の火花と同時に俺の足に激痛がはしった。俺は我慢できず、膝をついた。
銃口からは煙がのぼり、焼けた臭いが部屋中充満した。
銃口からは二度目の一瞬の火花がはじけた。
俺の肩が何トンもするハンマーで叩かれた衝撃を受けた。数秒後に俺の体に激痛が走り、とめどなく流れる血は部屋の
ジュータンを赤く染め、俺はあまりの痛さに傷口を押さえながら前のめりに倒れた。
男は椅子から立ち上がり俺の横をすり抜けるように。
「おじゃましたね。あとこれ君の忘れ物。」
男は部屋の入口に白い傘を立て掛け、部屋のドアから去っていった。男が去った数分後、建物じたいが大きく揺れた。凄まじい爆発音が俺のもうろうとした頭の中にこだまする。爆発音とともに建物の柱がぐずれ、大きな地震のような揺れが襲った。
俺の体は激痛のあまり、意識が遠退きそうになり、体を動かすことができなかった。