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止まらない時計
朝までには時間がある。
どうにか朝までに自分の死にかたを考え、実行したいものだ。この世界から早く逃げ出し、新たな世界で生きよう。
俺は村川ヒロシ、42歳。
バツイチ、現在フリーター、両親を亡くし兄弟もなく、万年孤独のこと11年と2ヶ月。
俺がいなくなっても、誰も気づかず、勝手に世界は動いていく。
日の出まで六時間以上ある、死ぬのは一瞬だ。その後は俺にもわからない。永遠の闇か。神々しい光か。どちらでもいい。俺を消滅させる。
人は何らかの使命をもち生まれてくる。というが、俺にはこの歳になっても使命なんてわかりゃしない。例えそれが、分かっていても、代わりはいるさ。いくらでも。
黒い霧に覆われた社会に未練もない。人の欲が赤裸々になり、目に見えない戦いが巻き起こり誇りを見失う。
俺は視点が定まらない視界の中、時計の秒針の動きをみていた。
時間の管理下の人生。俺の時間を止めるには死しかない。
最後にもう一度この世界に生きた唯一の証拠、能に刻まれた記憶をだどろう。