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第6話 一度目の夜に

その後、王様との会い、お願いという命令をされ、ひとまず今日は部屋で休むこととなった。


俺は城の庭園にいた。

ちゃんと見回りの兵士さんには言ってあるから大丈夫だ。


夜空を眺めながら、ぼーっとしていた。

なんというか、静かに考えるというか、何も考えたくないというか。

自分でもよく分からないが、とにかく1人になりたくて俺はこの庭園に来ていた。


そんな風にしてして暫く、足音が聞こえる。



「山田、何してるんだ?」


「ぼーっとしてる。」


「そっか。」



友達は俺の隣に座り、同じように夜空を眺めた。

何も話さず、お互いにただただ夜空を見る。


そんな時、ふと個人能力の検査で思っていたことを思い出したので言うことにした。

少し恥ずかしいけど。



「あのさ、お前らが戦闘職でなくて本当によかった。少し安心した。」


「……山田?」


「そりゃ、俺も料理人とかがよかったけどさ。戦いたくないし。けど、お前らが戦って傷つくのより断然よくてな。本音をいえば、クラス全員が戦ってほしくないんだが、まぁ仕方ない。とにかく、お前らが一番危険な場所にいなくてよかったよ。」



こいつらが料理人見習いや農民だって聞いた時は内心ほっとした。

戦闘職だった女の子が泣いてすがったことを聞いて、胸がチクリと痛くなっていた。



「流石に俺達41人全員が非戦闘職だったらこの国の奴らに消されてた可能性もあるから、それは駄目だとわかってた。けどな、俺としては、皆戦ってほしくないんだ。俺達の世界での過去に起きた戦争や今なお世界で起きている紛争を見たり聞いたりしてると分かるから。人が誰か殺すという苦しみが。醜さが。」


「……。」


「文化が違う。種族が違う。それだけで争いを起こすのが俺達”人”だ。そうして起きた争いが大きくなって戦争になり、多くの命が失うこととなる。……おそらくだがな、邪神を倒せば今度は他国を抑え込む力として俺たちは使われるぞ。」



前の異世界でそうだったし。逃げたけど。



「な!?」


「もし、その時何人か別の国にいたら、俺達はお互いに殺し合わなくちゃいけなくなる可能性もある。それにそもそも邪神やその仲間達と戦うのだって命がけだ。目を無くす奴だっているだろう。腕を、脚を無くす奴もいるだろう。…死んじまう奴もいるかもしれない。」



俺はまだ夜空を眺める。


言いたいことがごちゃ混ぜになってる自覚はある。

だがまぁ、この辺のことはただの愚痴と一緒だ。単に声に出して誰かに聞かせたかっただけ。


そんでもって、これからの言葉は俺の純粋な気持ちだ。



「だからこうやって夜空を眺めて考えてたのさ。そうして願ってた。祈っていたんだよ。」



願いも祈りも心からずっと込める。



「俺が願うのは、皆が無事に元の世界へと戻ること。祈るのは、誰一人欠けないこと。」



勇者の力も持たない今の俺には荷が重い。

背負える訳もない。


だが、引く気は毛頭ない。



「だって俺は元の世界で皆と笑っているのが好きだからな。だから、お前らが非戦闘職だからって恨みなんてしない。」


「…っ!?」


「だから気にするな。お前らは十分に俺を助けてくれてるから。これからは俺もお前らを護るよ。2人だけじゃなくて全員な。……それにな、こんな時に誰かを護るというのは、前戦で戦えるような者だけじゃないんだよ。例えばだが、武器を一つ作るにしても素材を集める者、加工するもの、使用する者に分かれる。

戦い終わった時に温かいご飯があると元気になる。そうしてるのもまた、護るということだと俺は考えてる。」



いつも俺を助けてくれる友達のことだ。戦えないことを気にしてたんだろう。個人能力の検査の時、歯を食いしばっていた。

いや、こいつは誰にだって優しい奴だ。俺だけじゃなくて他にも護りたい奴はいたんだろうな。


だから、友達には【料理人見習い】として俺達を護ってほしい。


些細なことで問題を起こす醜い”人”でも、そんな風に美しく支え合って生きていけるんだから。


俺のこの考えは、白木と同じようなものかもしれない。無駄に正義を語る夢物語。俺様的な自己中な奴。

だが、それがどうした。


そう、それがどうした!


願うだけなら、祈るだけなら俺の勝手だ。

そのために力を奮おうとするのも俺の勝手だ。


夜空に向けて手を伸ばす。

届かない星に、今は見えない元の世界の星に。



「俺は今日はずっと弱いところ見せてきたんだ。お前もたまにはいいんじゃないか? なぁ、松村。」


「…う…うぅ。」



隣で友達は、松村は涙を流す。

まだ初日だが、不安だったろう。苦しかったろう。それでも俺達を気遣っていた。

なら今ぐらい吐こうぜ。吐ける時に全部出しちまえばいいんだ。


松村まつむら じゅん。俺よりも大きくて、俺よりも料理が上手。

さらっとした黒髪と黒ぶち眼鏡が似合っていて、なんか秀才っぽい。



「なん…で……なんで…なんで俺達がこんな世界にこなくちゃいけないんだよ! 俺達じゃなくたってよかっただろ! なんでよりによって俺には戦う力がないんだ! 友達が、仲間が血を流しても治す事も護ることも代わりに戦うこともできないなんて……。くそが! なんでなんだよぉ。」



そんな奴が弱音を吐く。

怖いのだろう、嫌なのだろう。

弱音を吐きだす松村と一緒に、変わらず夜空を眺める。


飛ばされた先の世界が異なっても、俺のやることは変わらない。変えるつもりはない。変える必要性もない。


俺は、俺が護りたい者のために死力を尽くす。



「絶対に皆で帰ろうぜ!」


「あ、ああ!」



綺麗事だっていいじゃないか。弱音を吐いたっていいじゃないか。

それでも、物語でいうハッピーエンドを叶えようじゃないか。


夜空へと伸ばした手を力強く握った。

友達と言われ続けた彼の本名の登場です。

やっと出せました。

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