第5話 職業という名のジョブ
質問タイムが終わると個人能力の測定が始まった。
個人能力の測定とは言っても、要はどのような職業に向いているのかを調べることらしい。
しかもそれが特殊な水晶に手を当てるだけで分かるとか。
建物とか中世ヨーロッパ風なのに、その辺はハイテクなんだな。
いやしかし、能力値が分かる訳ではないらしいから微妙な感じがする。
前の異世界は測れてたし。
この場合の職業とは、戦士であったりとか僧侶であったりとか。
非戦闘職の場合は、商人や学者などである。
あくまでも個人能力がそれらに向いていると判断されただけであり、必ずしもその職業に就かなければならない訳ではない。
ただ、非戦闘職の者が戦闘職の者と同じように戦場に立とうとする場合、倍以上の訓練が必要になる。戦争中、商業や農場をやっている者が訓練にかける時間はあまりなく、先ほどお姫様が言ったようにやられていくらしい。
逆に農業やらメイドなどの仕事に関しては、本人のやる気次第で変わるらしい。
要は俺達の世界と一緒だ。
やる気と努力と才能と、そんな感じのものだろう。
そんな説明を受けつつ、個人能力の測定は進んでいく。
白木 祐。
【職業】勇者
黒田 明人。
【職業】ツッコミ
「ちょっと待てえええええええ!! 何だ職業ツッコミって!? 芸人なのか、芸人になれってことなのか!? どっちかというとスキルだろ、これ!」
白木が勇者なのは納得できたが、黒田のツッコミには皆笑い、黒田は珍しくうろたえていた。
果たしてツッコミは戦闘職なのか、それとも非戦闘職なのか。ボケとなる相方がいるのかも気になるな。
というより、あれはこの世界で需要があるのか?
黒田には悪いが、俺は俺で精一杯なのでかまってやることはできない。
仮にも別世界でとはいえ、一度は勇者だった俺だ。一応、白木が勇者だが何かの手違いで『もう一人の勇者』みたいなことにはならないとは言いきれない。それに勇者でなかったとしても、戦場で戦いたくないから非戦闘職であることを祈っておかなくてはならないのだ。
その他もろもろ全て祈っておこう。
そして、俺の番が来た。
「それでは、ヤマダ様。水晶に手を。」
「はい。」
俺は心の中で祈りを続けながら水晶に手で触れる。
「戦士ですね。」
「ちっくしょーー!!」
勇者ではなかったが、戦闘職でも前戦中の前線である戦士って危険じゃないか。
これじゃ、勇者と対して変わらん。
くぅ、祈ったところで叶うものではなかったということか。
俺はまた膝と手を地面につけ落ち込んだ。
「山田、気持ちは分かる。とりあえずこっちにきて休め。」
「あ、ああ。ありがとう。」
落ち込んでいる俺をまた友達が慰めてくれる。
ほんと、良い奴だ。心からの友だ。
友達に促されて部屋の端の方へ行き、そこにある椅子に座る。
「まぁ、すぐに危険な物と戦えとは言われていない。異世界人というだけで身体能力も高いみたいだし、しっかりと鍛えてもらえば命の危険も少なくなる。……それにどうしても無理なら俺に相談しろ。ただでさえ向こうの勝手なんだ、俺達で直談判しようぜ。」
「お前……。」
俺を安心させるように笑顔で言ってくれる友達。
くっ。かっこよすぎだろ。俺が女なら惚れてた可能性があるぞ。
あれそう言えば、友達の職業は何だ?
「俺か? 俺のジョブは【料理人見習い】だ。」
「え? ……マジか? マジで料理人見習いなのか?」
「あ、ああ、そうだ。お姫さんの話じゃあ結構珍しいらしくて、この城の食堂に配属されるだろうと言われているが。」
何だと!? う、羨ましい。非戦闘職であることもそうだが、料理人って職業あるなら俺もそっちがよかった。
趣味で初めているとはいえ、なかなかに興味深く、専門書やネット検索などもしてるのに。
「も、もう一回水晶に手を当てれば俺も料理人見習いになれるかな?」
「いや、無理だ。さっき、女の子が戦闘職になって泣いてせがんでいたが無理だったしな。というかお前見てなかったのか。」
「…ずっと祈ってたから知らない。……そ、そう言えば織田は? あいつは何だった?」
俺のもう一人の友達で、クラス1のムードメーカー。黒の短髪で背がちっこい。その名は、織田 一馬。
力も強く運動神経がやたらといい奴も俺と同じ戦闘職だろうか。
「【農民】だったぞ。」
「……いや、そりゃあ運動神経いいほうがいいけども。結構力仕事だし。だが、こんなファンタジーの世界で農民ってなんかすごい。」
「確か、これもユニークジョブらしいぞ。お姫さんどう扱おうか困ってたな。」
勇者として召喚したのに農民だもんな。
黒田もそうだが、お前らなんかユニークすぎるわ。
しかし2人とも非戦闘職か。俺だけ仲間はずれだな。なんか寂しい。
「というかさっきから気になってたんだが、なんで職業を”ジョブ”って言ってるんだ?」
「お姫さんもジョブって言ってるぞ。初めは分かりやすく職業と言ったみたいだけど、ジョブで意味が通じたからな。」
祈ってる間にどんだけ周りから取り残されているんだ俺は。
職業とジョブ。
主人公は両方とも使うので、作中混乱しないよう気をつけます。
両方使う理由は、過去の異世界では職業と呼んでいたからです。
また今回では、スタータスを数字化しません。そのようなことができる世界ではないという設定です。