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傭兵会社アースラ━2

いつもよりちょいと長めです。まぁ普段から短いのでそうでもないかもしれませんが……。

「……もう記憶がないってレベルじゃないわね、これは」

 イルミナの言葉に、バスクは首を縦に振ることで同意する。

 どうやら世界中の人間が当然知っているくらいのことを聞いたらしい。それを理解してセロは自分の行動を悔やむ。しかし、もう遅すぎる。

 覆水は、もう盆には返らない。

 悲観に暮れるセロをしばらく眺め、まるで生徒にどう説明すれば分かりやすいかを悩む教師のような表情をしながら、イルミナが説明を始めた。

「魔術っていうのは……うん、社会を成り立たせるうえで必要な、大抵のことはできる不思議な力で――」

「科学じゃなく?」

 首を傾げ、「カガク?」とオウム返しに呟くイルミナ。バスクの方を見るも、どうやら此方も知らないらしい。イルミナと同じような表情を浮かべている。


「マジかよ……」

 セロの口から思わず驚きが洩れる。が、説明の最初でいきなり躓いて止まるわけにもいかない。

「あの……先続けていいかな?」

「あ、あぁ……頼む」

 視界がくらくらするほどの動揺をなんとか堪え、イルミナにその先を促す。

 未だに小首を傾げながらではあるが、彼女は再び話始めた。

「……それで、できないことはほんの一握りって言われてるくらい。まぁ、実際に見た方が早いかな」

 

 イルミナがベルトポーチに手を伸ばし、徐に何かを取り出す。それは何らかの液体が入った、褐色の瓶だった。

 そのまま細い指が栓をしているコルクを外す。すると、瓶から出た液体が空中を滑るように流れ出し、イルミナの逆の手元に移動した。

 そして細長く伸びたかと思うと、一瞬にして青を基調にして彩られた美しい一振りの剣へとその姿を変えた。

 蒼を基調にして作られたその剣は美しく、芸術品でさえあるかのようだ。

 

 驚きに目を見開くセロを彼女は自慢げに見やると、満足したのか剣を再び液体へと変化させて瓶に戻す。先ほどの光景を巻き戻しているような、そんな錯覚を覚えた。

「これが私の使う水属性の魔術。液体、あるいは魔方陣を媒介にして、空気中に漂う魔力を集めて発動させるの」


 今の場合はこの水が媒介ね、とイルミナは先ほどの小瓶を振って見せた。動きに合わせ、中に入っている液体が小さい波を作る。


「魔術の属性は他にも火とか風とかいろいろあって、才能さえあれば誰でも使えるわ。普通は幼少期に発現するから、自分がどんな魔術を使えるのかはその時に分かるんだけどね」

 

 ほぉー、と感嘆の声を上げ、セロは自分の手を握ったり開いたりを繰り返してみた。

 

――自分にも何かの力が備わっていたりするのだろうか。

 

 そんな胸に抱かれた少年の期待は、「まぁ、魔術を使うには、自分がどんな魔術が使えるか知っているのが前提だからね」という残酷な言葉でバッサリ切り捨てられた。

「そ、そんな……何とかして調べることはできないのか?」

「難しいな……魔術はまだ完全に解明されたわけではないからな。そもそも幼少時に発現の兆候が見られない場合は、大抵は魔術の才無し、ということになる」

「じゃあ、成長してから使えるようになったりとかは?」

「……ないな」

 

 とにかく待つしかないと知らされてがっくりと肩を落とすセロを見て、バスクが苦笑を浮かべる。

「まぁ、セロの場合は記憶さえ戻れば使えるようになるかもしれんぞ。自分の扱える魔術を思い出すかもしれん」

「……そう願うよ」 

 

 そこで話題に区切りがついたと判断したイルミナは、気怠そうに次の話題に入る。

「はいはい、じゃあ次はアンデッドだっけ? まだこっちの方が説明しやすいかな。ちょっと歴史的なことも入ってくるから長くなるけど」

 

 一呼吸つき、彼女は再び説明を開始する。説明しやすいと自分で言っただけあり、彼女の口からは先ほどの魔術の説明よりもすらすらと言葉が出てくる。


「負のエネルギーによって生者を憎む者達を、私たちは総称して『アンデッド』と呼んでいるの。魔術と同じでまだ謎が多いんだけど、一説ではかなり昔からいたとされているわ。人類の文明が一度滅んだといわれているあたりからね」

「文明が滅んだって……」

 

 セロの呟きに、絶妙のタイミングでバスクが補足を加える。

「人間同士で戦争を起こしたのだ。どんなものかは分からないが、互いが有した強力な武器によって、ほとんどの人類は死に絶えたと言われている」

 

 核兵器。

 セロの脳裏にふとそんな単語が浮かぶ。自国の防衛のためと称して各国が保有した、禁断の殺戮兵器。バスクの言う人類を死滅させるほどの強力な武器とはこれのことではないだろうか。

 が、もしそうだとしたら生物が再び生存できる環境になるまでに長い時間がかかるはずだ。


「その説によると、生き残った人類が何とかして再び文明を作り上げた。その時にはもうアンデッドも存在していたらしいの。それを脅威とみなした人類は、他の種族と同盟を結んで――」


「――悪い、その『他の種族』ってのも説明頼む」

 

 説明を中断されたことと、さらに説明する事柄が増えたことに、本日何度目か分からない呆れ顔を見せるイルミナ。見かねたバスクが先を引き継ぐ。


「他の種族というのは私のような獣人や、エルフと呼ばれる妖精のことだ。人類が文明を再興した時にその存在が確認され、今ではそこに人類を合わせた三つの種族が存在している」

「……ほぉ」

 聞けば聞くほどおとぎ話の中に入り込んだような気分になってくる。既に頭で理解するレベルから、「そういうものか」とスポンジのようにただ説明を受け入れるだけの状態になりつつある。それでさえもそろそろきつい。

 しかし、自分から困難な説明をしてくれと頼んだ手前、「もういいです」とは言いにくいのが現状だ。

 

 セロはただひたすら呪文か何かを聞くようにして耳を傾ける。

「それぞれの種族ごとに国を建てているんだが、彼らはアンデッドの脅威から自らの国を守るために同盟を結んだ。人間以外の種族にとっても奴らは害悪にしかならないからな。そして五年前、とうとうアンデッドの王と言われた『真紅クリムゾンキング』を封印することに成功した」

「……じゃあアンデッドはもういなくなったのか?」

 セロは疑問を投げかけながらも、既に頭の中ではその答えは出ていた。

 先ほどイルミナ達を襲っていた異形の集団。本来ならば動くはずのない死者達であるあれらは、間違いなくアンデッドと呼ばれる者達だろう。

 案の定、バスクはセロの疑問を否定した。


「確かに、一時的にアンデッドはいなくなった。だが、しばらくして何者かがその封印を解いてしまった。今世界に溢れているアンデッドはそれが原因だ」

 その言葉を最後に、バスクは口を閉ざす。さらに派生して説明するべきであろうと判断していることはまだあったが、目の前の少年が考え込むような仕草をしていたのが目に入った。故に、邪魔にならないように説明を区切ったのだ。

 

 実際バスクの予想は正しく、セロの思考は既にかなり深くまで達しており、最後の方はほぼ聞き流していたといってもいい状態だった。

 セロは頭を抱え、心のうちに自らの疑問を吐露する。

 

――俺は本当に記憶喪失なのか?


 魔術。アンデッド。

 獣人、エルフなどの他種族。

 どれもが目の前の二人にとっては常識的なことらしいが、セロ自身はまるで忘れているというより、初めて聞いたかのような感じを受けた。

 そして滅んだといわれる文明。強力な兵器というものがセロの知る核兵器だったのならば。


「なぁ、その滅んだっていう文明はどんなものだったか分かるか?」

「私達が生まれるよりもずっと前の話だったから……よくは分からない。でも、稀に発見される遺物から、魔術以外の技術で発達していたんじゃないかって言われてるけど……どうして?」

 

 どうしてか。イルミナの質問を避けるようにセロは俯く。彼女は怪訝な顔をしながらも、重ねて問うことはしなかった。

 

 実際、セロは記憶喪失といえども社会を成立させている常識を忘れてはいない。が、セロの知るそれは『魔術』ではなく『科学』。しかしイルミナ、バスクらは『科学』などは知らないという。

 それと二人の説明を合わせると、そこから一つの仮説が浮かぶ。あまり認めたくはないが、それ以外に考えられない。

 

 それは、自分はこの時代の人間ではなく、滅んだとされる前文明の人間ではないかというもの。文明が滅びる前に何かしらの方法で眠りに就き、そして目覚めた。人類同士の戦争というものは自分が眠っている間に起こったから覚えていない。

 そうであったとしてもその仮説では説明できない穴は存在するが。

 バスクが言うには記憶操作の魔術が存在するらしいので、もしかしたらそれは魔術という要因によって埋められるのかもしれないが。


「……大丈夫?」

 声に反応して伏せていた顔を上げると、目の前には顔にわずかに心配の色を見せるイルミナ。どうやらかなりの間考え込んでいたらしい。

「いや、悪い。頭の中で情報の整理を……」

「何よ、心配させないでよ!」

 心配して損した、と言わんばかりに、少女の手がセロの左肩のあたりを小突く。

 あまり力が入っていないように見えたが、さすがはプロの傭兵の世界で生きてきたというべきか、的確に肉の薄いところにヒットしたのでなかなかに痛かった。


「さて、これからの君の処遇についてだけど……ここの社長に聞いてみないことには何とも言えないわね。起きたら連れて来いって言われてるから、ほら行くよ」

「……行くって、今からか?」

 未だに痛みが残る肩を摩りながら尋ねると、「当然」といわんばかりに首肯される。


「……まだ聞きたい事とかいろいろと――」

「あー、君をここまで運んで来るのには疲れたなー。今日は早く部屋に帰って寝たいのになー」

 肩を大げさに回し、あからさまに疲れたとアピールするイルミナ。


「うぐっ……分かったよ。行けばいいんだろ行けば!」

 なんとなくセロの記憶の片隅では、自分を運んだのは無精ひげを生やした筋骨隆々な男だった気がしないでもなかったが、長々と説明をさせてしまったお詫びとして素直に従うことにした。 

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