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戦備━1

 エンシャントラ王国。

 あらゆる外敵を阻まんと高くそびえ立つ壁に、四方を囲まれた人間の国。日が中天まで上った昼時、その中心に広がる市場は人が生み出す喧噪で賑わっていた。

 ただ、それは普段のような陽気な雰囲気ではない。そこを往来する人々の顔には、度合いは違えども、同じ感情が窺えた。

 目立つのは、平時からは考えられない頻度で街道を駆けずり回る荷馬車。後ろに大量の兵糧や兵装を乗せたそれらは、荒々しく馬蹄を打ち鳴らしながら王城へと向かっていく。

 人々は時折立ち止まり、それを不安そうな面持ちで見送る。そうしていつしか生まれた人だかりを、すり抜けていく小さな影があった。全身を覆う簡素な作りのローブに、目深に被られたフード。首の辺りからは、肩に沿って金糸のような髪が見え隠れしている。

 そしてすぐ後ろから、屈強そうな男数人が続く。

「ちょっ……待ってくださいって! お願いですから!」

 男達の先頭を走る、痩身の男が前を行く背に向かって叫ぶ。しかし、呼ばれた人物に止まる気配はない。

「もう……しつこいですね」

 聞こえてきた声に、ローブをはためかせて走る影は小さく舌を打つ。

 腕を懸命に振っているものの、その動作からは走り慣れしていないことが窺える。対して、追う者達は普段から鍛えられているらしい。両者の距離は、少しずつではあるが縮まっていく。

 仕方なく、ローブの人物は細い路地に折れ、反対側の通りに抜けると同時、再び人ごみの中に潜る。人に阻害されて思うように動けていないのか、それとも彼女を見失ったか。追跡者達の声は、先ほどよりも遠くで聞こえた。

「……油断は禁物、ね」

 念を入れてか、更に薄暗い路地へと入り、ちょうど近くにあった積み荷らしきものの影に隠れる。

 すると、すぐに三人分の足音が聞こえてきた。

「ったく、完全に見失っちまったな」

「……ルイス副隊長が、女の子に手なんて出してるからです」

「いやお前、こんな場所でイルミナちゃんに会えるなんてすげぇレアだからな? これはもはや口説けと言う神の思し召し――」

「じゃあ、これはルイス副隊長のせいですね」

「マジでごめんロイには言わないで……いや、どちらにしてもこのまま逃がしたら、怒られるだけじゃ済まねぇだろうな」

 その言葉に、三人分の生唾を飲み込む気配。次いで、それぞれ三方へと散っていく足音が聞こえた。

それを確認してから、潜んでいた影は顔を覗かせた。上手く撒けたことに安堵の息を吐き、ひらり、と手を振る。

「……ごめんなさいねー」

 密かに呟き、自分は再び元来た喧騒の中へと消えていった。



 そんな逃走劇は露知らず、連れ添って街を歩く二人組がいた。

 一人は白髪に黒衣の少年。道行く荷馬車の通路に入らぬよう気を配り、時折周囲の人々をざっと見渡す。まだ少年らしさが残るその顔には、じっとりと汗が滲んでいる。ただ、それは外気の厚さによるものではなかった。

 おそるおそる、彼はその視線を隣の人物へと移す。

 彼から少し距離を置いて、隣を歩く少女。特徴的なのは、金色の髪と海色の瞳。金色の髪はそれほど珍しくはないが、しかし日の光を浴びて美しい光沢を放つそれを持つ者はそうそういない。

 傭兵会社アースラの上位ランカー、イルミナ・ルシタール。

 セロがこの世界に来てからずっと世話になりっぱなしの存在でもあり、つい最近起こった事件でも、彼女には大いに助けられた。もし彼女という存在がなければ、セロはここにはいなかっただろう。感謝してもしきれない人物だ。

 ただ、今の彼女は明らかに「怒ってます」という雰囲気を纏っていた。そのせいか、時折ものすごい速度で通り過ぎていく荷馬車と同じくらい、周囲の人は彼女から距離を取っている。セロにしてみれば、むしろ彼女の方が怖い。

 こういう時の彼女には、あまり近づかないほうがいい。これまでの経験でそれを知っているセロではあったが、今現在、彼はそれが許されない状況にいた。

 

 エンシャントラは、目下厳重警戒体勢にある。その発端は、赤の教団の一人、白衣の男ことドクターの「エンシャントラを潰す」という宣言だ。それを受け、エンシャントラではこれを機に動き出す犯罪者を取り締まるため、複数の傭兵会社が合同で国全体の見回りに当たっているのだ。

 今日の見回りのペアとして、傭兵会社アースラからはセロとイルミナが選出されたのだが――。

「あの、イルミナ……さん?」

「……何?」

 僅かな間を置いて、ぎろっ、と鋭い眼差しがセロへと向けられる。この時点で、早くも「何でもないです」と会話を打ち切りたい気持ちがこみ上げてきた。しかし、まだしばらくは相方として任務に当たらなくてはならない。それを自らに言い聞かせ、どうにかその気持ちを抑え込んだ。

「何で、そんなにイライラしてるんだ? ひょっとして、さっきルイスのヤツが邪魔してきたからか?」

 さっき、というのは今から十分ほど前のことだ。

 巡回中、急にルイスが二人の前に飛び出してきたのだ。湧いて出たような、いつものような突然のエンカウント。同じくいつものように、イルミナが視界に入るなり殴り飛ばし、彼は後から来た他の騎士二人に回収されていったのだ。

「……別に、あれはいつものことだし」

「あぁ、そうなのか……」

 そういえば、騎士の二人も「お疲れ様です」と憐れむように声を掛けていった。騎士にとっても、この一連の出来事は見慣れた光景らしい。しかし、だとすると一体何が原因だというのか。

 首を捻っていると、再び彼女の視線がセロを射抜いた。

「……それよ」

「は?」

「そ・れ! 左手に持ってるやつ!」

 言われるがままに、セロは自分が左手に抱えているものに目をやる。そこには、先ほど店で買った揚げ菓子のようなものが袋に詰まっているだけだ。

「あー……欲しかったんなら言ってくれれば――」

「じゃなくて、今は任務中でしょうが! セロもあの馬鹿(ルイス)も、緊張感ってものをどこに忘れてきたわけ⁉」

 ずいっ、と恐ろしい顔が迫ってきたので、反射的に後ずさってしまうセロ。たじたじとしながらも、必死に弁明を試みる。

「いやほら、『腹が減っては戦は出来ぬ』っていうし……あと、ものすごく美味そうだったから、つい……いる?」

 苦し紛れに、彼女の眼前に袋を差し出してみる。

 その立ち上る香ばしい匂いに、一瞬だけ彼女の頬が緩んだように見えたが、すぐにそれは引き締められてしまった。

「そ……そんなの、いらな――」

 その時、きゅるる、と可愛らしい音下から聞こえた。

「なっ……」

 怒りとは別種の感情で赤く染まる頬。イルミナは慌てて自分の腹を押さえるも、時すでに遅し。

「うん……まぁ、昼飯まだ食べてないしな」

 涙目で見上げてくる少女に、セロは曖昧に苦笑を返した。

 再び差し出された袋に、イルミナは悔しそうに手を伸ばす。それでも、一つ掴むや否や即座に背を向けてしまった。

「……別に、負けたわけじゃないからね」

「何の勝負だよ」

 一人で早々と歩き出してしまったイルミナを見て、呆れたように小さく肩を落とす。同時に、しばらくの間抑えてきた疑念が、ふと心を過る。

 ここのところ、何故か彼女の自分に対する態度が素っ気ない気がするのは気のせいだろうか。

「……やっぱ俺、避けられてんのかな」

 頭の中では、数週間前の「あの事件」の顛末がぼんやりと浮かび上がっていた。


 数週間前に起こった、セロの捜索作戦。

 埋め込まれた真紅の王の細胞によって暴走し、セロはアースラという唯一の居場所を離れた。そこで教団の研究所を探し出したイルミナ、バスク、リン、エレナの四人は、そこにセロがいることを信じて突入作戦を敢行。途中、王国騎士や教団メンバーによる妨害もあったが、激戦の末、彼らはそれぞれの戦いに勝利を収めた。

 そしてセロ自身も、自分の中に眠る真紅の王の分身との勝負に打ち勝つことで、暴走を乗り越えたのだ。

 ただ、その一連の出来事の説明には、セロの「異質さ」を抜きには語ることはできなかった。アースラに帰り着くと、セロは社長であるウルスを加えたメンバーに事情を説明した。


 自分が教団メンバーの試作品であり、本質的には彼らと何ら変わらないこと。そして、自分が魔術の普及したこの時代ではなく、科学という別の技術で繁栄した時代の人間であることも。

結果として、今はアースラのほとんどの者――、いや、ロイが国王に伝えた可能性を考慮すると、一部の貴族や他の傭兵会社も情報を持っているかもしれない。

 全ての説明を終えた時、話を聞いていた仲間達の向けた視線に差別的なものは一切感じられなかった。耳にした真実に、少なからぬ動揺があったはずにもかかわらず。


 そして今日まで、彼らは今まで通りに接してくれている。

 それが彼らの本心だと信じたいが、それは自分勝手と言うものだろう。何せ、未だセロについては分からないことも多い。言ってしまえば、暴走の危険が本当にないのかを知る術もないのだ。

 セロ自身は、もう暴走はしないと感じている。以前からあった、心の中の黒い渦のようなものが消えたのだ。おそらくは、それが真紅の王の分身だったのだろう。

 だが同時に、それは他人に信じてもらう証拠としては弱すぎることも分かっている。

 だから、不意にこう考えてしまうのだ。


――もしかしたら、皆は無理をしているだけなのではないか、と。


「なぁ、イルミナ……」

 そんな不安から、思わず呼んだ名前。しかし、いくら待てども返答はない。

 不審に思い、俯けていた顔を上げた先――そこに、見慣れた少女の姿はなかった。

「……あれ?」

 すぐさま周囲をぐるりと見渡すが、行き交う人々の中にあの美しい金色の髪を見出すことはできない。

つまり、だ。

「……また、はぐれたのかよ」

 己の情けなさに、がっくりと肩を落とす。

 基本的に二人で行動するつもりだったセロ達は、特に巡回ルートは決めていない。つまり、こうなった場合の対処法は決めていなかったのだ。

 人々は突っ立ったままの彼を邪魔そうに避けて通っていくが、今の彼にそれを気にする余裕はない。さっきの今で見失ったとあれば、今度はどんな雷が降ってくるか分からない。思わず想像してしまった未来に、肩を震わせる。

「いや待て、まだ大して時間は立ってないんだ。じゃあそんなに遠くには行っていないはず……」

 ならば、どこかの路地に入ったのではないか。そう考えたセロは、とりあえず目についた脇道に入ってみることにした。

 見たこともない果実が並べられている商店と、戦火を恐れてか、既に閉められた商店の間に見つけた小道を左へと折れる。しかし大きめの木箱が並べられた道を進むうちに、見知らぬ十字に分かれた場所に行き当たり、更なる選択が迫られる。 

 散々迷った挙句、悩むだけ無駄、という結論に辿り着いたセロ。何となく右に曲がろうとした、その時だ。

 曲がろうとしていた角から、何かが飛び出してきた。それが、簡素なローブで全身を覆った人物だった。向こうこちらも、まさか急に人が出てくるとは思っていなかったために、ブレーキが遅れた。

「うわっ⁉」

「きゃあ⁉」

 どんっ、と避ける暇もなく不意打ちの突進を受け、セロは背後へ、相手の体はそれに重なるように大きく傾く。

 背後には、大きな木箱。突っ込んできたのは誰か知らないが、このままだとその者がぶつかってしまう位置だ。

「っぐ……」

 セロは相手を抱え込むようにして、上体をねじる。そのおかげで、倒れた時にその者は無事だったようだ。代わりに、自分が強かに背を強打する羽目になったが。

「は……ご、ごめんなさい! 大丈夫ですか?」

 腹の上に載っていた重さが消え、ようやくセロは上体を起こすことができた。

 見れば、目の前で簡素なローブが小さく頭を下げた。フードを深めに被っているために顔は見えないが、声からして、どうやら女性らしい。

「あぁ、俺は大丈夫。そっちこそ、怪我は?」

 身体能力は赤の教団の者と同じであるため、頑丈さには自信がある。この程度なら、なんともない。

 苦笑するセロを見て言葉に嘘はないと分かったのか、彼女も胸を撫で下ろした。

「はい。あなたが庇ってくれたので、私も大丈夫――」

「――おい、こっちだ!」

 不意に、少女の来た方向から何者かの声が聞こえてきた。次いで、どたばたと足音も聞こえてくる。

すると、少女の様子が変わった。

「あの……重ね重ねすいません! 少し匿ってくれませんか⁉」

「……へ?」

 セロが答えるより早く、少女はするりとその背後へ回り込んでしまう。

「おい、ちょっと⁉」

 一体どういうことか。尋ねようとしたその時、先ほど少女が走って来た方向に、二人の男が目に入った。

 見覚えのある緑色の隊服に、鷹のエンブレム。思わずあの何の感情も映さない瞳を思い出しそうになるが、しかしその顔触れは知らない男達のものだった。

 彼らはセロに近づいてくると、切羽詰まった口調で尋ねてくる。

「ちょっと君、すまない! 先ほど、ローブを着た者が通らなかったか⁉」

「えー……と」

 ちらっ、と背後の木箱に目をやるも、仕方なく右の通りを指さす。

「たった今、あっちに」

「そうか、ありがとう!」

 セロの言葉を信じ、再びそちらへと駆けていく男達。一抹の罪悪感に際悩まされながらそれを見送ると、セロは木箱を軽く叩く。

「……あんた、何かやったんじゃないだろうな」

 物陰から姿を見せた少女を、思わずジト目で睨んでしまう。一方で、フードの奥からは涼し気な笑みが洩らされた。

「ふふっ、秘密です」

「……怪しい奴は捕まえるように言われてるんだけどな。一応、顔を見せてもらってもいいか?」

「……んー、じゃあ特別ですよ?」

 尚もくすくすと笑いながら、少女はフードの端に手を掛ける。そして、ゆっくりと面の覆いを外した。

 まず、金色の滝のように滑らかな髪が、肩に沿って流れる。次いで露わになるのは整った顔立ち。特に目を引かれたのは――海色の、澄んだ瞳。

 その顔を露わにした少女は、口に手を当てて優雅に微笑んだ。

「……私の顔に、何か付いてます?」

「あ……いや、そういうわけじゃ」

 ようやく、自分がどれだけ彼女の表情を見ていたかに気が付いて慌てて視線を逸らす。

「その……俺の知り合いに、似ているんだ」

 その言葉の通り、彼女の顔はイルミナに酷似していた。しかし、確かに纏う雰囲気はどこか違う。その仕草一つ一つが気品を漂わせているのだ。

 その言葉を聞いた時、ぴくり、と少女は眉を動かした。だが、それはすぐに先ほどと同じ笑みに戻る。

「あなたの知り合い、ですか。不思議なこともあるんですねぇ」

「あ、あぁ……そうだな」

 もし平時なら、セロは彼女が一瞬だけ見せた表情の変化に気付いたかもしれない。しかし今現在、イルミナと似た顔をしていることへの驚きに、彼の心はかなり動揺していた。

 辛うじて生返事を返したセロに、更に少女がその笑みを深める。

「……それで、私は怪しいヤツと判断されてしまうのでしょうか?」

 その言葉に、ようやく本来の役割を思い出したセロ。出発前に頭に叩き込んだ、警戒すべき犯罪者の特徴と彼女の顔を頭の中で照合するも、その中にイルミナと似た人物がいなかったのは、考えるまでもない。

「いや、大丈夫。怪しんで悪かった……でも、何で騎士に追われてるんだ?」

「そうですね……簡単に言ってしまえば、黙ってお家を出てきてしまったから、ですかねぇ」

「……つまり、家出か?」

 そんなことで騎士が出張るのだろうか、と考えたセロ。しかし彼女がどこか高名な貴族の出だとしたらどうだろうか。今の街の状態を考えれば、確かに親の身としては娘の身は心配だろう。だから仕方なく騎士が付き合っていると考えれば、ありえなくはないのかもしれない。

 溜め息を吐き、セロは尚も微笑を浮かべている少女を見る。

「何があったのか知らないけどさ、外出するのは控えた方がいいぞ? 今はあまり治安が良くないから」

「ええ。もう用は済んだので、これから帰ろうと思っていたところですの」

「あぁ、そうなのか」

 正直、セロは内心で胸を撫で下ろしていた。もし彼女に帰る気がないのなら、その気になるまで保護していた方がいいのではないかと考えていたからだ。

「あんまり、家族を心配させるなよ。それじゃ、俺はこれで――」

「ロゼット」

「……え?」

 突然口にされた単語に、何のことかと戸惑うセロ。そんな彼に、少女は己の胸に手を当てて、もう一度同じ単語を口にした。

「ロゼット。私の名前ですわ」

「あ……あぁ、そういうことか。俺は――」

 ――ゼロ。

 以前告げられた真実が、チクリと胸を刺激する。が、どうにか喉まで出かけたその言葉を飲み込んだ。

「……セロ。アースラって会社で傭兵やってる」

「セロ様ですね。ふふっ、また会えるといいですね」

「あぁ。じゃあ、気を付けてな」

 緩く振られる手と穏やかな笑みに見送られながら、セロは彼女に背を向けた。思いもよらず時間を食ってしまったが、早くイルミナを探さなくてはならない。

「あまり怒ってないといいな……」

 溜め息と共にそんな言葉を吐きつつ、少年は再び歩き出した。



「……ここにおられたのですか」

 少女の背に、静かな男の声が掛けられる。彼女は振り向き、その声の主を確認するとその整った顔立ちに苦笑を浮かべた。

「あら……わざわざ出て来なくても、そろそろ帰ろうと思ってたのよ――ロイ」

「何度も申していますが、我々に黙って外出するのはおやめ下さい」

 名を呼ばれた騎士――ロイ・クロウラーは、この時ばかりはその目に僅かな呆れの色を覗かせた。

 そこに佇む少女がフードを取っていることに、堪えきれなくなったため息を漏らす。

「ジェイン様もおっしゃったと思いますが、ご自分のお立場を――」

「仕方がないでしょう。どうしてもお会いしたい方がいたんですもの」

「……ならば、呼び寄せればいいのでは?」

「もう、そんなの失礼でしょう!」

「……それで、その方にはお会いできたので?」

 理解できん、と思わず顔をしかめそうになるロイの質問に、頬を膨らませていた少女は一気に表情を輝かせた。

「ええ、ついさっき! 聞いていた通り、素敵な殿方でした」

 殿方、というフレーズにさらに眉間の皺を深めるロイ。しかし、今はそんなことを言っている場合ではないと切り替える。

「では、戻りましょう。あまりここに長居するべきではありません」

「……せっかくなのですし、ちょっと遊んで――」

「いけません」

 きっぱりと言い切られ、大げさに肩を落として見せる少女。そうこうしているうちに、連絡を受けたのか、先ほどの騎士達もこの路地に入って来た。先頭に立つ少年が、「あ、姫さん発見!」と叫んだのが聞こえる。

「……第一王女という地位も、なかなかに窮屈ですねぇ」



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