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真実━7

 広大な地下室の一角。太古に核シェルターとして作られた、その強固な床が。

 今、人ならざる者の一撃によって大きくめくれ上がった。

「ぐっ……!」

 爆散し襲い掛かる礫の雨を掻い潜り、イルミナは走る。それを追うは黒衣の少年。

 しかしその姿は人といえるものではなかった。

 俊敏な動作で少女を追い詰めようとするそれは、まさに獣。炯々とした赤い光を宿す目に理性はなく、代わりに凄まじいまでの敵意に満たされている。

 目に映るものすべてを破壊せんと振り下ろされる打撃は、どれだけ分厚い鎧でも正面から叩き潰すだけの威力を秘めていた。

 動きやすさを重視して軽量の装備をしているイルミナなど、当たれば即死。痛みを感じる間もなく肉塊へと変えられることだろう。

 再び、鋭い爪がイルミナの背後から振り下ろされた。それを右方向に身を投げることで辛うじて回避に成功する。

 轟音。

 降り注ぐ大小さまざまな礫がイルミナの体を打ちすえ、痣をつくった。

 こんな攻防を何度も続け、もう痛まないところはない。このままではじり貧だ。

 それでも少女は立ち上がり、走り出す。考えるための時間をつくるために。


 後方に気を配りつつ、イルミナは状況を整理する。

 状況は、最悪に限りなく近い。

 セロは変異し、白衣の男の命令によって自分を殺そうと動いている。隣に赤の教団らしき老人がいることから、彼もまた教団に所属する者なのだろう。

 唯一の救いは、彼らが自分に直接手を下す気配がないことだ。どうやらセロに自分を殺させ、それによって彼を精神的にいたぶるのが狙いらしい。

「本ッ当、ロクでもない連中……ッ!」

 二人に対して憎悪が募るが、今はそれを抑えるべきだ。下手に攻撃を仕掛けて、更に状況を悪くすることは避けたい。

 やはり最大の問題は、セロをどうやって元に戻すか。

 前回は彼が自発的に理性を取り戻した。だが、今回もそうなってくれるという保証はない。最悪、もう戻らないことも――。

「……何を馬鹿なことを考えてるんだか」

 自嘲するように吐き捨て、停止しかけた思考を再び動かす。自ら可能性を閉ざしていては、打開策は見つからない。

 何にせよ、まずはセロの動きを止めなくては。


 踏み出した足を軸に、体を反転させる。セロとの距離は十分に開いていた。

 赤く染まった瞳を、真っすぐに見据える。なかなか仕留められない獲物に対する苛立ちを表わしているようにも見てとれた。

 イルミナはベルトから引き抜いた瓶を開け、叫ぶ。

「封じよ――〈水牢すいろう〉!」

 短い詠唱に応じて放たれた液体は、空中の魔力を吸収することで膨張。瞬く間にセロを包みこむ。

 前回はセロの魔術である黒煙によって、魔力によって作り出した檻自体が消されてしまった。彼の魔術は魔力そのものを打ち消す力。魔力を媒介に生成したものは一切通用しない。そんな反則じみて見える能力だが、穴はある。

 魔術自体を、使わせなければいい。


 そんなことが可能なのか――結論から言えば、可能だ。

 身体強化を除いた魔術は、基本的に大気中の魔力を使用する。水中にも魔力自体は存在するため、水中戦も魔術の行使は可能だ。

 しかし唯一の条件として、使う魔力は自分以外の誰にも使用されていないものでなければならない。つまりは炎として具現化された魔力を、勝手に別の誰かが使用することはできないのだ。


 今回イルミナの魔術は、檻として形を具現化しなかった。ただ外壁のみをつくり、その中は液体のまま。

 セロは密閉された巨大な水槽に閉じ込められる形になった。

 中を満たす水の魔力は、イルミナに使用権限がある。それを使ってセロが魔術を発動することは不可能。

「ゴッ……オォ!」

 並外れた膂力も、水中では本領を発揮しない。セロに、脱出の術はなかった。


「……ごめん」

 苦しそうにもがく彼に、イルミナは小さく謝罪を口にする。少々手荒いが、これしか方法が考え付かなかったのだ。上手くいけば気を失わせることで、元に戻るのではないかとも考えられる。

 だが――。


「何を謝っているのかね――彼を止めることもできない己の無力さを、かな?」

 白衣の男の薄い笑みは、健在。

「え……?」

 信じられない光景に、イルミナは目を疑った。

 セロの手に、黒い球体が生成されていた。

 それが炸裂し、内側から水槽を消し飛ばす。

 解き放たれた大量の水が、飛沫となって撒き散らされた。

「何で……あの状況で、どうやって魔術を!?」

「残念ながら、我々は魔術の発動方法が特殊でねぇ。体内で必要な魔力を生成しているのだよ」

 どうやって、という疑問は出てこなかった。

 それよりも早く、黒い影が弾丸のように突っ込んできたからだ。

 顔目掛けて振り抜かれた右腕の一撃を、咄嗟に体勢を左に傾けることで躱すことに成功する。回避できたのは偶々だ。

 だが、代償として完全に体勢が崩れた。次の攻撃は避けられない。


 死。明確に浮かぶ数秒後の自分の姿を、イルミナは振り払った。

 考えろ。闇の中で、光に縋れ。次のための生を掴め。

「――ああああッ!」

 刹那の中で、選び取った答え。

 ゆっくりと姿勢が下へ傾く中、無理やり体をセロの方へと反転させる。

 そして左脚を、セロの踏み込んだ脚へ。彼の全体重が乗せられたそれを、蹴り抜いた。

 骨が、筋肉が、無理な稼働にミシミシと悲鳴を上げる。

 だが、死ぬよりはマシだ。


 勢いのついていたセロの体は、支えを失ってしたたかに床に叩きつけられた。当然、ダメージなど期待できない。その程度で効いていれば、苦労はない。

 反動でイルミナも床に体当たりをかます羽目になったが、即座に跳ね起きる。

 右足に、内側から焼けるような鈍痛があった。もしかすると筋肉を傷めたのかもしれない。だが痛みなど二の次。その程度は覚悟していた。

――はずだった。


「ッ……!?」

 力が入らず、その場に膝を突いてしまう。原因は、右の足ではなかった。

 その逆、左のももの辺りが、いつの間にか大きく裂けていたのだ。足を引っかけた時、どうやら反撃を受けていたらしい。

 かなり深い傷らしく、血が止まることなく流れ出ている。放っておけば出血多量になりかねないほどだ。

――まずい。早く、この場所を離れないと……。


 イルミナの視線の先、セロが再び立ち上がろうとしていた。

「ハハッ……いいぞ! さぁセロ、さっさと止めを刺したまえ」

 白衣の男が、これから訪れる光景に口角を吊り上げた。邪魔者が消え、仲間が手に入る。彼にとっては待ちに待った瞬間。

 しかし、それは叶わない。

「なっ……!?」

 その場にいた三人は、驚きに目を見開く。

 突如として飛び込んできた紫の閃光。それがイルミナへと迫ろうとするセロの体を吹き飛ばしたのだ。

 こんなことができるのは、一人しかいない。


「何を驚いている……? 獣人ごときに、俺が手間取るとでも?」

 王国騎士団長、ロイ。彼が、イルミナの目の前に立っていた。

「そんな……バスクは!?」

「一人で俺達を止められると考えたのなら、思い上がりも甚だしいな。奴などあの馬鹿一人で十分だ。そろそろ、決着が着くころだろう」

 その言葉を肯定するかのように、上の階から轟音が響いた。それがどちらの勝利を意味するものなのか、またはさらに続く激闘の一点でしかないかは分からない。

「バスク……」

 上の状況が知れないことに歯噛みをするも、自分にはやらねばならぬことがある。

 必ず生き残るというバスクとの約束を、今は信じるしかない。

 ロイは、セロを消すつもりだ。

 しかし動くことすらままならない、この状況で何が出来るのか。

 その答えは、思わぬ形で現出した。


「――散れ、愚者がぁああああ!」


 淡く輝く幾つもの印が、中空に突如として出現した。

 それが何かを察したイルミナは、咄嗟に魔術を発動する。

「貫け――〈千の水槍(サウザンド・ランス)〉!」

 ほとんどの砲口がロイに向けられたものだったが、幾つかは自分に直撃する角度で出現していた。それら目掛けて放たれた槍は見事に紋章を射抜いたが、さすがに全ては撃ち落せない。

 次の瞬間には閃光が周囲を包み、遅れて地を揺るがす様な砲声が轟いた。

 光に、音に、爆風に。どこが床か天井も分からぬくらいの勢いで吹き飛ばされ、気が付けば硬質な床に盛大に叩きつけられていた。

「ぐっ……あ――」

 体を抜ける衝撃が、全ての感覚を途切れさせる。しかしそれも一瞬。

「先の雪辱ッ! 今ここで晴らす!」

「チッ……奴を倒した方がよさそうだな」

 爆炎の中、クロードの方へと駆けるロイの背が目に入った。刹那の間に、あれだけの攻撃を躱したのだ。

「どんだけ人間離れしてんのよ……」

 場合によってはそんな男を相手に、セロを元に戻さなくてはならない。イルミナがそんな現実に呆然としていた時だ。

「グ……ルゥ――」

 背後から、苦しげに呻く声がした。振り向けば、ロイの強打によって吹き飛ばされたセロがすぐ近くに横たわっている。雷による魔術で体が麻痺しているのか、うまく動けないらしい。

 おそらくこれが、最初で最後のチャンス。


「お願い……動いてッ……!」

 今だけでいい。たった数歩。彼の元まで行ければ。

 未だに焼けるような痛みが残る脚を、無理やり前に踏み出させる。最後は倒れこむような形にはなったが、何とかセロの傍まで来れた。

「セロ……? 私だよ、分かる!?」

 赤く染まりきってしまった瞳をのぞき込むように、叫ぶ。

変化はない。そこにあるのは変わらぬ攻撃の意志のみ。体の自由が戻れば、自分は即座に一撃を受けることになるだろう。

 それにも構わず、イルミナは続ける。

 心に浮かぶは、セロがアースラから連れ去られてしまった日のこと。

「あの時は……助けに行けなくてごめん。あんなことになったのは私のせいなのに……セロは、自分がああなることが分かっていて、私を助けてくれたはずなのに……ッ!」

 あの時残ったのは、ただ後悔のみ。ルイスの足止めなど、言い訳にしかならない。自分が行けばどうなるか、その恐怖が先行してしまったのは確かなのだから。

「裏切られたと思われても、仕方がないよね……? こんなくらいじゃ、許されるとは全然思ってないよ……でも……ッ!」

 怖い。もし、この叫びが、思いが、目の前の少年に、届くことがなかったら?

 あの日のように、拒絶されてしまったら?

 そんな考えを頭から追い払い、少女は叫ぶ。


「――それでもまだ……一緒にいたいの! 私のこと、もう一度、仲間だって言ってくれるかな……信じて、くれるかな……?」


 知らぬうちに、熱いものが目頭から零れていた。それが頬を伝い、少年の胸に落ちる。

 最後の方はほとんど嗚咽交じりになってしまった言葉。

 それは、果たして少年の元に届いていたのか。

 

 全ては、ただの偶然だった。

 セロの右腕が、少女の体を貫かんと突き出されたことも。

 未だ続く麻痺によって、その腕が再び力なく垂れてしまったことも。


――それが、イルミナの胸に置かれてしまったことも。


「――ふぇ?」

 突然のことに、間の抜けた声が漏れた。

 一瞬、何が起こったのか分からなかったのだ。しかしのろのろと動き出した思考は、ある事実をはっきりと伝えてくる。

――セロに、胸を触られた、と。

 対するセロ自身も鋭利な爪で彼女を引き裂こうとしているようだったが、その動きが火に油を注ぐものであったことは知らなかった。

 イルミナの頬が一瞬で紅潮する。

 年頃の少女が胸を触られ、揉まれた末に、取る行動は一つだろう。


「……ッ! 何――してんのよぉおおおお!」


 反射的に、手が出た。

 渾身の右ストレートが、少年の顔面に叩き込まれる。短い断末魔と共に、セロの頭部が床にめりこんだ。

 ハッと我に返ったイルミナ。

 自分のしでかしたことと、ぴくりともしなくなった少年を見る。

「あ――ご……ごめんね!? いやでも今のは君が……」

「――本当に、何をしてくれているのかね」


 聞きなれない声と同時、イルミナの体は後ろに投げ飛ばされた。転がった末に目に映るは、正面に立つ白衣の男。

 いつの間に接近されたのか。全く気が付かなかった。

「まさか倒されるとは思ってもいなかったが……まぁ、いい。先ほど気が付いたのだが、君はあの時の子どもじゃあないか」

「あの時……の?」

 男の言っていることが理解できない。だが、状況がまずいことは確かだ。両脚がまともに動かない状態で、勝てる相手だとは思えなかった。

「ククッ……これは思いがけない拾い物だ。適正はどうか分からないが……まぁ、駄目だったらその時だ」

 冷たい微笑を浮かべる男が、懐から何かを取り出す。

 それは、緑色の液体が入った注射器。それを手に、イルミナに迫る。


「――君も、我々の仲間に加えてあげよう……!」



 沈んでいるのか、浮いているのか。こうなってからどれだけ経つのか。

 何も分からない。

 

 暗く冷たい闇の中に、セロはいた。

 ここはどこなのか。

 そんな疑問が浮かぶが、追求しようとはしない。

 この場所から出ようとさえも思わない。


 もう、どうだってよかった。

 ドクターという男から聞かされた真実。それはどこまでも残酷に、自分を否定した。

 今まで戦った意味は何だったのか。

 結局どれだけ足掻こうが、たどり着く場所は決まっていたのだ。

 赤の教団。そこにしか、自分バケモノの居場所はない。


――それは違うよ。セロの居場所はそこじゃない。


「……誰だ?」

 どこからかは分からないが、確かに聞こえた。どこからでもなく、しかしどこからでも聞こえるような、そんな感じだ。

 誰のものかは思い出せない。しかし、ひどく懐かしい気がする。


――君には帰るべき、帰らなきゃいけない場所があるでしょ? みんな待ってるよ?


「帰れないよ。そこに居たら……俺は、誰かを傷つける」


――君はそんなことはしないよ。


 ぎりっ。

 歯の擦れる音がする。それが自分のものだということに、セロは気が付かなかった。

「知ったような口を利くなよ! あんたに俺の何が分かる!? 俺でさえも、自分のことが分からないっていうのに!」


――怖いんだね……自分が誰か、大切な人を傷つけるのが。


「……当たり前だろ」

 

――でも、君は今まで誰かを傷つけた?


 やめろ。もう話すな。これ以上迷わせないでくれ。

 耳を塞いでしまいたかった。実際そうしたが、声は消えない。


――まだどうにかなるかもしれない。それなのに、諦めるの?


「それは……」

 言葉に詰まったセロは、何かを見た。

 それは、此方に向かって差しのべられた手のようだった。

 

 自分はまだ足掻けるのだろうか。

 差しのべられた手にすがれば、希望はあるのだろうか。

 そんな思いで、セロも手を伸ばす。

 しかし、見えたものは確かに手ではあったが、セロの考えていたものとは少し違う。

 寸前で、気が付いた。



「痛ぇ!?」

 妙な叫びとともに、跳ね起きる。

 殴られた。意味が分からない。何故殴られなければならないのか。

 そんな思いと共に、セロは周囲を見渡す。

 そこは、あの地下室ではなかった。

 全てが真っ白で、何もない空間。狭いのか広いのかも分からない。

「またわけの分からない場所に……」

 此処は何処なのか。

 突然の事態にどうするべきか嘆いていた時だった。


「――あれ、起きちゃったんだ?」

 不意に聞こえた、まだ幼さの残る声。先ほどのものとは別のもの。

 少し離れた場所に、見たこともない少年が立っていた。

 見た目からして、年は自分よりも下のように見える。体の線も細い。

 白髪で、白いシャツに色褪せたズボン。所々が擦り切れたそれを身に纏いながら、何故か違和感は抱かない。まるで不自然な存在が不自然を纏うことで、あたかもそれが自然になってしまったような。

 そして、最も目を引く特徴。

 それは、緋色の瞳。教団の者が魔術を発動する際に見せるそれとは少し違う。確かに教団の者ではあるのだろうが、子ども特有の、吸い込まれそうなほどに純粋な澄んだ目だ。

 それが、セロをじっと見据えている。見たこともない昆虫を見つけた、好奇心旺盛な少年みたいだ。

「誰だ……お前」

「もう全部投げ出しちゃったんじゃないかと思ったんだけど。でも、起きてくれて嬉しいな。ずっとこうして会えるのを楽しみにしてたんだから」

 彼は此方の質問に答えなかった。しかし、敵意は全くと言っていいほど感じられない。むしろ友好的にさえ思えた。

「……まぁ、諦めたくなったのは本当だよ」

「へぇ、でもそうはしないんでしょ? ねぇ、何で?」

「何で、って……」

 教団の者らしき相手と普通に会話をしているという事実に、思わず苦笑してしまう。相手が見せる幼さゆえか、友達と会話しているような錯覚を覚える。

「声が、聞こえたんだ」

「声?」

 少年が首を傾げ、その先を促す。

「あぁ、『何勝手に諦めてるんだ』って、怒られた」

 その言葉に、少年はさも可笑しそうに笑い始めた。やはりこちらを攻撃する意思はないらしい。

「あははっ……それで復帰? 随分単純なんだねぇ。面白いよ、君」

「そりゃどうも……で、そんな単純な俺はある解決策をたった今、思いついた」

「解決策? 確かに一つだけあるけど……いいよ、答え合わせをしてあげる」


 最初自分は、彼に「誰か」と尋ねた。しかし、今思えばそれは聞くまでもないことだったのだ。セロ自身、薄々感じていた答えではあったから。

 自分の中に植え付けられた、もう一つの存在。変異の原因そのものの正体。

 名だけは聞いていたが、まさかこういった形で会うことになるとは思っていなかった。


 セロは右手を水平に振るう。それが、紅の剣を出現させる合図。ある程度は魔術を使えるようになってきたようだ。

 その切っ先を、真っ直ぐ少年に向けた。


「俺の中にいるあんたを倒して、元に戻る――そうだろ、〈真紅の王〉」


「……へぇ」

 唐突に、少年の笑みが不敵なものに変わる。幼さはまだ残っているが、纏う雰囲気が変わった。

 存在するはずのない者。まるで幽霊のような非現実的な存在が目の前に立ちはだかっているような、そんな気味の悪さを抱かせる。

「あんまり驚かないんだね」

「十分驚いてるよ。けど、今日はもうそんなのばっかりだったからな」

「ちぇっ、残念」


 悠然と立つ、幼い少年。見た目からすれば今まで対峙した中で最も幼いだろう彼が、どんな相手よりも強大な壁であることを、セロは今更ながら実感した。


「――じゃあ、いくよ?」


 微笑はそのままに。アンデッドの王は開戦を告げる。

 アンデッドを創生した、神とまでうたわれた存在。

 その計り知れぬほど巨大な牙が今、セロへと向けられた。


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