目覚めた少年
ごぽり。
少年は自分の意識がゆっくりと闇の奥底から浮上していくのを感じる。
それにつれて、眠っていた五感が活動を始めていく。
始めに少年が感じたのは、体中を襲う鈍痛だった。
次いで少年の周りを満たす適度な温度に保たれた液体の心地よさ。
そのギャップが少年に不快感を抱かせる。
ここは何処だろう。
少年は今まで閉じられていた両目を開く。
そこに映るのは橙色の世界。
その時初めて、自分が卵形の巨大な容器に閉じ込められているのだと気が付いた。
中は濃い橙色の液体で満たされているため、外部がほとんど見えない。
少年の口には覆うようにしてマスクが付けられており、酸素を送り込むことで彼が溺れないようになっている。マスクにつながる管はその装置の底の部分から延びていた。
体中には何本ものチューブがつながれ、それが痛みを生じさせているらしい。
鬱陶しい。
少年は力任せにその管を引き抜き、ついでにマスクも毟り取る。カプセルが防音機能を備えているのか、警報らしきものが鳴り始めるが、それは微かにしか耳に届かない。
続いてカプセルの壁面に右手を当て、力を込めた。
それは笑ってしまうほど簡単に粉砕し、けたたましい音をたてて破片が床に落下する。カプセルがその中に閉じ込めていたものを勢いよく排出し、少年も外に押し出されて床に叩きつけられた。
そこはどうやら何かの実験室であるらしい。
狭い部屋の中央には先ほど少年の出てきたカプセルが置かれ、その周りを囲むようにして飾り気のない机が並んでいた。その上にはコンピューターや難しい言葉でびっしりと埋められた図のようなものが見受けられる。
辺りを見回すが、人の気配は皆無。
案の定、警報が少年の鼓膜を破らんとばかりに響いていたが、彼はそこに別の音が混ざっていることに気が付いた。それは――。
「戦いの……音?」