記憶喪失の少年と永琳
初めましての方は初めまして、作者の無個性です。
どうかどなたも楽しんでいってください。
感想や質問もお待ちしています。
現代から数えて数千万年前
都市と呼ばれる高度文明を持った人間の住居群から西に数キロ先の地点。
だだっ広いだけの草原の真ん中にその扉は突然に現れました。
突如ありえないものが現れる異様な現象と、一度開けば周囲を吸い込みそうな異様な雰囲気。二つの異様を纏って、外見だけはまともな扉がそこに現れた。
カチリと、扉のノブが開く音がする。
そして、ゆっくりと扉が完全に開けられた。扉の向こうは真っ白な壁のようで、空中にあるのに夜空は広がっていなかった。
周囲にはまだ静寂があった。が、次の瞬間。扉の内が強烈な青の光で周囲を照らし、激しい風が扉を中心に周囲の地形を削り取っていった。
強烈な風と光は吹き荒れ、照り、しばらくして収束し、一本の天を貫く柱のようになった。
柱は竜巻のように周囲を巻き上げ、小規模のクレーターを作ると轟音とともに雲散霧消した。
名残として残ったのは青い靄のような光の粒と小規模のクレーター。
そして、今までなかったもの、一人の少年ががクレーターの底にあった。
莫大な霊力と能力を一つだけ持っていた。
彼の目がさめるのはもう少し先、先ほどの柱と風は何だと都市から派遣された軍隊に見つけられたその瞬間に彼は目を覚ます。
その見の記憶を一切失って。
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「う……ん……」
目を刺すような強い光に、意識を叩かれた。
グルグルと揺れる平衡感覚に耐えながら体を起こす。
揺れる視界に移ったのは、人の群れと思わず眼を細めるほどの光り。
人の群れは自分のほうを向いてざわめいていて、誰も彼もが光る棒を手にしている。
見られているだけの不安に、気が付いたら声を出していた。
「君たちは、誰だ?」
「私達は人間よ。あなたは、人間に見えるけれど、何かしら?」
人の群れからは女の人の声で答えが聞こえてきた。
質問に答えなくってはいけない。頭を少し回してみたが、わからない。
自分が何かわからないことに気づいて、頭が一気に混乱していく。
そして、混乱の中で疑問が溢れだし、その全てに答えられないことがわかって呆然とした。
「俺は何なんだろうか、多分人間だろうが……分からない」
「それはどういうこと?」
呆然としたままの顔で答えると、また疑問が返ってきた。
俺は、今の俺の状況を包み隠さず話すことにした。
「何も、思い出せないんだ。
名前、出身地、住所、目的、どうしてここにいるのか、なぜここに来たのか、どうやってここに来たのか、それまでどうしていたのか、全てが思い出せない。
一応だが、この外見だし動物じゃなくて人間だと思う……多分」
俺の答えに人の群れが沸く。そして、わいた群れは一人が手を上げたことに酔って一気に静まった。
手を上げた人が、人の群れを割きながらゆっくりとこちらに向かって歩いてくる。
その人は、赤と青が左右と上下に対称になるような服を着ていて、腰まで有る銀髪を三つ編みにしていた。
彼女は俺の前で足を止めてしゃがみこむと、俺の目をじっと見つめてくる。そして、しばらく俺の顔を見ていたと思ったら、今度はそのまま俺の手を握り始めた。
彼女の目はまっすぐで、どこか心の奥底を覗きこまれている気がする。ついでに言えば、握られた手はどこか青く光っている気がするし、何かされているのだろう。何かは分からないが。
しばらくじっとしていると、彼女は納得したように頷き俺の手を引っ張って立たせた。
そして、握った手を振りながら笑顔で言った。
「初めまして、名も無き人間さん。私は永琳、この先の都市に住んでいるの」
俺は、彼女につられて少しの笑顔を返し、握られた手を握り返した。
この後、俺は永琳に連れられて、彼女たちの住む都市へ行くことになった。
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少年を見て、簡易的にだが調べた結果の感想は、驚愕以外に適切なものはないだろう。
宿る霊力が都市の人口数十万人を束にしたって足先ほどにもならないほどの大きさなのに、それだけ大量の霊力を受け入れられる『人の体』であること。そして、その強大な霊力に劣らないほど強力で、分離不可能なほどに彼の魂と融合している何かの力。
手に負えない物体を二つも宿した彼は一体何者なのか。
都市へ向かう道中、隣を歩く少年に少し興味がわいた。
そして、興味が湧くまま彼のことを考えて気づいた。彼の名前はどうしよう。
記憶が無いのは本当らしいので、名前が無いのはどうにも不便だろう。
「ねぇ、君。名前はどうしたい?」
「名前? なんでもいい。永琳が付けて」
そう、と頷いて顎に手を当て、彼を見ながら彼の名前を考える。
雪のように白い髪に、緋色の目。日焼けのないきれいな肌。整っているとは言えないが、別に不男という程でもないほどほどの顔。肉付きは細めで背丈は百七十ほどだろう。霊力の器として以外には特に変わっているのは髪の色と色素欠乏症でもないのにその患者よりも真っ赤な目くらいだ。
私の灰色を薄めたような銀髪ではなく。完全に色の抜けた白の髪は、とても印象的で、緋色の目と共にとても目を引く。
ぼう、と彼を観察しながら、名前を考えついた。
「白夜、あなたの名前は白夜よ」
「わかった。じゃあ、今日から俺は白夜だ」
少年は頷いて、こちらに笑顔を向けた。
屈託ない笑顔は輝いて、揺れる彼の髪と合わせてとても綺麗だった。
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永琳との道中。これからのことを考えてやめた。
自分のことがわからないのに、先のことを考えたって何もわからない。
だから、適当でいいのだ。なにか困ることが有るまでは、気にはなるだろうが、ああだこうだと気にはしなくていいい。
なんとなく、衣食住ができていればいい。
そして、今のもちものは名前と服だけでいいだろう。
天下というほど世界は広いのだから、ゆっくり行こう。
そう、なんとなくそう決めた。