バイトのおかもち君
『バイトのおかもち君』をのぞいてくださりありがとうございます。
いろいろとなんちゃってなところがありますが、そこらへんは軽くスルーしてくださるとありがたいです。
1/28 途中の視点変更の波線の長さを変更しました。内容に変更はありません。
3/26 文章間の間隔を調節しました。 内容に変更はありません。
俺はしがない中華料理屋のバイトだ。
就職しようにも高卒に厳しい世の中に職はなく、特に何をしようというわけでもなく、何となくここでバイトをはじめ、何となく働き続けている。
そんなに忙しくないし、うまいまかないも出るし、小遣い稼ぎにはちょうどいい。
それにかわいいバイト仲間もいる。
礼ちゃんという娘で、いつも変わらず無表情だが、それを差し引いてもかなりの美女だ。
ちょっとつり目ぎみの感情の見えない瞳。
長いまつげと引き締まった唇はかわいい系というよりクールな感じだな。
流れるような黒髪を一つにまとめて三つ編みにしていて、歩くたびに右へ左へとゆれている。
残念ながら胸は絶壁だが、店長の夢が詰まった大きくスリッドの入った制服からのぞく太ももがとてもおいしそうだ。
「……なんでしょうか?」
彼女をじっくりと見つめていたら、虫けらを見るような目を俺にむけ、ヒールで目をつぶそうとしてくる。
そんなことも様になるのだから、美女は得だな。
俺の雇い主が厨房を一人で切り盛りしているこの店は、普通のお客さんがかなり少ない。
常連さんは毎日のようにやってくるから経営が火の車ってほどじゃあないらしいが、ランチタイムやディナータイムでも客が一人もいないというのもよくあることだ。
かといって、まずくて食えないという訳でもない。
むしろ、店長が本場の料理人に師事したという本格中華料理は絶品だ。
じゃあ、なんで人がいないのか。
まずは立地。
裏通りに面したこの店は、あまり人が通ることがない。
隠れ家的な店と言えば聞こえはいいが、ただの寂れて人が来ないだけだろう。
常連さんの柄が悪いのも一因かもしれない。
うちの常連さんたちが普通の入り口から入ることはあまりない。
裏のほうから入れる二階の客席に勝手知ったるように入り込み、大声で俺らを呼び注文する。
俺はもう慣れたから大丈夫だが、はじめのころはおっかない常連さんに気に入らないことがあったら叩っ切られるのではと戦々恐々としていた。
礼ちゃんは俺がこの店に働きだす前からいたから、いたって飄々としていたが。
はじめの頃はすごく恐かったのではないだろうか。
おびえて涙目になる礼ちゃんかぁ……
「……なんですか?」
なんでもありませんごちそうさまですごめんなさいヒールをかまえないで。
まぁ、常連さんの威圧のせいで一見さんは入りづらいだろうとはおもう。
そして、店長の強面も客がこない一因だと俺は確信している。
店の表に張ってあるバイトの求人チラシの雇用条件に「店長の顔を見ても悲鳴をあげないこと」と注意書きされるほどだ。
まぁ、そのせいで俺みたいな物好きが面接にくることになったのだが。
店長の顔は、普通にしていても子供に泣かれ、ちょっと顔をしかめるとそれを見た者の顔面が蒼白になり、極まれに笑うと大の大人が涙目になる。
なんで接客業をしているんだといわれる代表のような顔だろう。
慣れた俺ですら店長の雷はちびりそうになる。
そんな店長の娘がどうしてあんなにもかわいいのかは永遠の謎だろう。
そんな、飲食店として致命的な欠点をもちながらもなんとかやっていけるのも、やはり店長の腕のおかげだ。
口コミでうまいけど近寄りがたい店として近所で有名になったうちは、お昼時と夕飯時は出前の注文で忙しくなる。
誰も厨房に入れたくないと主張し一人で切り盛りする店長に代わり、だいたい俺が、時たまに礼ちゃんも出前に奔走することになる。
岡持は意外と重いので、礼ちゃんはもっぱら接客にあたるのだが。
だから、俺の仕事内容としては、開店前の掃除、常連さんや極たまにくるお客さんの接客、それから出前。
そんなに忙しくはないが他の店よりも少し時給の高い(とは言ってもファミレスより30円増し程度だが)このバイトはそこそこ充実していた。
開店前の清掃も終わり、常連のおっさんの「おかもちぃ」という催促にも応えた。
だいたいの常連さんたちは俺を「おかもち」、礼ちゃんはそのまま「礼ちゃん」と呼んで注文や世話話をする。
確かに出前にはよく行くが、それでも「おかもち」と呼ばれるのに納得がいかない。
おかもちじゃあないっすと反論しても、常連のおっさんたちはニヤニヤ笑うだけだ。
とりあえずやることもやってしまい、他の客もいないからカウンター席の一つにすわってぼーっとしていたら、店長の強面が厨房からぬっと出てきた。
手には電話の子機を持っているが、店長が持つと子供携帯のようだ。
店長いわく「ちょっと出前行ってこい。」だそうだ。
「だが、断る。」
と言えるような俺だったら人生120度違ったものになっていただろう。
「あー、5丁目の金久保不動産ビル、ほら、あれだよ、前一階のテナントに弁当屋がはいっていた、そうそう、かのこ弁当だな、うん。 うまかったのになぁ、あそこの弁当。
とりあえず、あそこのビルの4階の棚橋ってやつにミラクルラーメン大盛りを出前してこい。
そんときだが、大通りのほうからじゃなく裏通りからまわって必ず正面の入り口から入って四階までいけよ。
あ”? 遠回りだぁ?
そんなんお前が少し急げばいいだけの話だろうが。」
いいか、5丁目金久保不動産ビル、棚橋、ミラクルラーメン大盛りだからな。とドスの効いた声で言われたら、俺は黙ってうなずくしかない。
ラーメンだということを念押ししているということは、言外に「さっさと済ませてこい」ということだろう。
拒否権のない俺は店長の拳が鳴る前にさっさと出前に出ることにした。
少し前までは赤いスクーターを足として使っていたが、このあいだ大破してしまったため、最近はもっぱらママチャリだ。
右手に岡持、左手にハンドルをもってサドルを踏み出す。
店長はラーメンがのびすぎないようにゆで時間を調節しているらしいから、そこまで切羽詰まって急ぐ必要はないらしい。
だが、のびたラーメンほど味気ないものはないというのが俺の持論だ。
よくインスタントラーメンで「三分以上待って麺を柔らかくしてから食べる」という奴がいるが、そんなのは論外だ。
むしろ2分半で食べ始め、腰のある麺を味わうべきだろう。
いや、好きずきなのはわかっている。
だがしかし、のびたラーメンはもとに戻らないのだ。
それならば、しっかりと腰のあるラーメンを味わうのがラーメンに対する礼儀じゃないだろうか。
そんなことを考えつつ信号待ちをしていたらこの間出前でマーボー丼を届けた家の子に手を振られた。
うちの辛口メニューの辛さは甘辛から地獄味まで5段階になっている。
店長いわく、出前では半年ぶりの地獄味の注文だったそうだ。
岡持の中からでも辛み成分が目を刺激し、涙で前がよく見えなかったからよく覚えている。
手を振ろうにも両手が塞がっているため、岡持をもったまま右手を上にあげてその子にこたえておいた。
裏通りにさしかかったところで、チンピラっぽい奴らがたむろしていた。
こういうのは避けて通るのが一番だが、難なく避けて通れたら苦労はしないだろうと思う。
眼鏡の必要なさそうな兄ちゃんたちは、さっそく俺にガンを飛ばし、がに股歩きでこっちに近づいてきた。
「おい、こいつが例の野郎か?」
「見たところそれほどの奴じゃあなさそうだが……。」
「期待はずれだが、まぁいいさ。 おいお前、とりあえず有り金全部出せよ。そしたら加減してやらんこともない。」
チンピラA、チンピラBは俺を誰かと人違いしているらしい。
というか、こいつらの中でボコるのは確定なんかい。
「おい、無視してんじゃねぇぞコラ。」
無視して通り過ぎようとしたら、チンピラたちは逆上、いつの間にやら鉄パイプを持ってこちらに襲いかかってきた。
あー、めんどくせ。
つきあっていたら時間がかかりそうだし、ラーメンのびちまうし、手早く済ましてしまおう。
自転車から降りて、チンピラBの手を蹴り飛ばし鉄パイプをはじき飛ばす。
「いってぇ……」
そのまま頭を蹴り飛ばし、ちょうどいたチンピラAの頭と衝突させる。
おーおー、結構いい音したなぁ。
そのまま倒れ込むようにアスファルトに衝突したチンピラたちは、頭を強く打ったのかもう起き上がってこない。
さて、急がなければラーメンがのびちまう。
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「店長? あいつ一人でいいんですか?」
相変わらずの表情のなさで礼は店長に訪ねる。
常連さんたちにはもっと愛想がよければ集客率もあがるんじゃないかとよく言われる。
しかし、礼は愛想をよくするつもりなどはさらさらなかったし、そのようなことを言ったお客様には地獄味のトッピングをサービスしておいた。
「なんなら私も行きますが。 お得意様ではなかったのですか?」
店長はわざとらしくため息をつくと、女の子がそんなことをするもんじゃあないと礼をいさめたが、店長が仕込んだのではと即座に反論された。
店長は額に手をあて、あきれたというような表現をしたが、端から見ると店長が爆発一歩手前のように見えてしまい、たいていの人が被害を被る前に退却するだろう。
そんなことを全く気にしない礼に、店長はあれは自衛のためだと言い返した。
「塚原にそんなことさせるつもりはねぇし、今回は加藤一人で十分だ。 少しはあいつを信用してやれや。」
信用? 信用に足るほどのことをしてもらったことはない。
だが、店長がそう言うなら信用しなければならないのかもしれない。
なぜなら、店長が”そう言った”のだから。
店長に対しての盲目的なほどの忠誠心というべきか、はたまた依存というべきか。
礼がそのようにを考えているとはつゆ知らず、「まあ、備品の弁償はしてもらうがな」と店長はカカカと豪快に笑っていた。
二階のほうから「れーいちゃーん」と声が聞こえる。
あれは常連の後藤さんだろうか。
昼間からビールをたしなむ後藤さんの用事は、たいていおつまみの追加の注文か、もしくは世話話。
ちびちび飲んでる様は、どう見ても”怒り虎”とひと昔恐れられていたとは思えない。
ほら、呼ばれてるぞと店長に促され、礼は常連さんの注文をとるべく二階まで駆け上がっていった。
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金久保不動産ビルは一階から三階まではテナント、四階は事務所となっていた。
かつては弁当屋やオフィスとして使われていたのだろう。
ただ、不景気だからだろうか、今では四階以外は空室のままだ。
空き部屋の窓に張られたままのポスターが物寂しさを感じさせる。
かつての活気が失われたこのビルは、寂寥という表現がもっともふさわしいだろう。
が、その男にとってそんなことなど二の次どころか三の次である。
「……やーべぇ、めんどくせぇ。」
今、俺は柄の悪そうなガキンチョからドスのきいたおっさんまで、ぐるっと野郎どもに囲まれていた。
それぞれの手には鈍器を持っていたりいなかったりはするが、目だけは全員ギラギラしてやがる。
店長には正面から入るように言われたが、見たところ階段はビルの中。
言われなくても選択肢なくね?
この野郎どもはどうしてしがないバイトである俺を取り囲んでいるのかわかんねぇが、すんなりと通してくれそうにはない。
まぁ、とりあえずファーストコンタクトってのは大切だろう。
みんなラーメンが待ちきれずにわらわらと待っていたのかもしれないし。
出前接客術その1、とりあえず下手にでるべし。
「……えっと、こちら出前ですが、この中に棚橋さんという方はいらっしゃいますか?」
おおっと、ただでさえぴりぴりとした空気だったのが、刺すような殺気に変わった。
俺の正面にいるスキンヘッドのおっさんの青筋が立つのがよく見える。
ピキピキッって音が直に聞こえてきそうだ。
「糞が、なめやがって。 若頭になぞ会わせるわけなかろう。」
「野郎ども、やっちまえ!」
お、おい、ちょっとまってくれ、俺は出前に来ただけなのだが。
老いも若きも目つきの悪い野郎どもは、一斉に得物を構えた。
相互理解のための話し合いをしようにも、目の前の殺気立った奴らに話は通じなさそうだな。
何を言っても無駄そうだし、あんまり時間をかけるとラーメンがのびる。
くっそめんどくせぇけど、まずは通路を作るしかないな。
岡持を左手に持ち替え、それから右手で自転車のハンドルの真ん中をつかむ。
どいつもこいつも目ぇギラギラさせやがって。
まとわりついて歓迎されるのは女の子であって、野郎がきてもしか吐き気しかしないんだよ。
足腰にぐっと力を入れ、迫りくる野郎どもをブンッと勢いよく自転車を振り回し、なぎ倒す。
信じられないものを見たような目で、野郎どもの歩みがぴたっと止まった。
野郎どもがあっけにとられているうちにもう一度ぶん回す。
んでもって、そのまま遠心力にしたがって思いっきり自転車をぶん投げた。
巻き込まれ、倒れ込むチンピラたち。
よし、これで入り口への通路ができたな。
塞がらないうちにさっさと通り抜けちまおう。
「させるかっ!」
顎に傷のあるおっさんが胸元から拳銃を抜き出し、こちらに向けた。
その一瞬は恐ろしいほど長かった。
指が引き金を引く様がおかしなほどはっきりと見えている。
裏通りに響く銃声。
放たれた鉛玉は三発。
薬莢がアスファルトに落ちる乾いた音がやけに耳についた。
ひたひたっと滴り落ちる鮮血。
「あ、あぶねえ……。」
いや、本当ヤバかった。
とっさに岡持で防いでいなかったらかすり傷じゃあすまなかった。
跳弾や流れ弾が近くにいたにいちゃんの腕やら足やらにあたったようだ。
俺の足にできたほんのちいさなかすり傷よりもあっちの方が重傷だろう。
響く悲鳴と誰かの倒れ込む音。
「兄貴ぃ、なにやってんですかい?!」
野郎どもの注意がおっさんに向いてる隙に、今度こそビルに侵入する。
首筋にザワッと悪寒が走る。
とっさに岡持を構えると、ギンッと鋭いものが岡持にあたった音がした。
そのまま岡持をスイングして入り口に待ち伏せていた奴との距離をとる。
刈り上げ金髪のそいつの手には日本刀。
「てんめぇ、ふ 」
バランスを崩した所を狙い岡持で刀身をはじく。
勢いを殺さぬまま、俺はそいつの顎を右手の拳で思いっきり殴り、脳みそを揺らしてやった。
床に倒れるそいつと乾いた音をたてて滑っていく日本刀。
「てンめぇまてゴラァ」
待てと言われて待つ奴は相当のお人好しだろう。
そのまま通路から奥の階段に進むとまぁ出るわ出るわ。
前から押し出すように次々と出てくる野郎どもはいままでどこにいたんだか。
狭くて跳弾するから拳銃ぶっ放すアホがいないのは幸いだな。
とりあえず、向かってくる奴ら適当にボコって転がせば後ろの奴らも追いづらいだろう。
前方から殴り掛かってきた奴を下から岡持振り上げてアッパー喰らわす。
勢いよく振り下ろしてもう一人沈め、まとめて下に蹴り転がす。
次の奴はみぞおちを殴りつけ、そいつの振り下ろしていた鉄パイプで後ろの奴を巻き添えにする。
いくらつぶしても上からも下からも際限なく湧いてくる。
あー、キリがねぇ。
後ろの奴らもなにげにめんどくせぇ。
いっそ、まとめてやっちまったほうが速いかもしれねぇな。
自分の口角が上がったことを本人は自覚していなかった。
しかしながら、にやりと笑ったその顔を見た者たちはのちに口をそろえてこう言った。
”あれは、人じゃねぇ。飢えた獣だ”
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静かになったビルの中、一人の男が窓の外を見下ろしていた。
部屋には大きな執務用のデスクと革張りのソファー。
神棚の下に立てかけられた日本刀が、ここが特殊な現場であることを主張している。
あらゆる音が塗りつぶされたような空間に場違いなノックの音がやけに響いた。
「開いてますよ。」
ややこわばった声で応えたこの男はこのビルにおける最高権力者であり、狭く深い組のヒエラルキーにおいて重役にいる人間でもある。
一筋縄ではいかない部下たちをまとめあげる冷酷無比な切れ者として”銀狼”と呼ばれ恐れられる若頭。
そんな男がこんな顔をするのを見たら、部下たちは天変地異の前触れかと恐れ戦いたであろう。
だが、今この部屋にいるのは彼一人である。
油のちゃんと引いてある高そうなドアを開け、恐る恐るのぞきこんだ出前は「棚橋さんですかぁ。」と拍子抜けするような声で聞いてきた。
肯定の意を伝えると、そいつは安堵したようにドアを開け、部屋のなかに入ってくる。
開けっ放しのドアから通路で腹心が気絶して倒れ込んでいるのを見た俺は、こいつをぶっ飛ばしてやろうかと一瞬本気で考えたが、
「失礼しまーす。 ご注文の、えーっと、ミラクルラーメンの大盛りで、890円になります。」
という気の抜ける声であっけなく出ばなをくじかれてしまった。
どこか嘘くさい笑いを顔に貼付けた男。
散々殴り合いをしていたろうに、右ほほが少し腫れているほかに目立った怪我はないようだ。
手に持つ岡持は側面にほんの少し凹凸ができているほか、角の所に赤黒いものが少しだけ付着している。
それらとさっきまでの喧噪がなかったら、ただの出前のにいちゃんに見えていただろう。
「いやぁ、すいません。 ちょっと手間取ってしまいまして時間がかかってしまいました。
ちょっとした不可抗力なので、店長には黙ってもらえたらうれしいですねぇ。」
何が不可抗力だ。
支部であれども組の拠点に単騎でカチ込み、俺の部下を全滅させるなどもはや人間業ではない。
「あ、大丈夫ですよ。 ラーメンはいっさいこぼれてませんから。
実はこの岡持、特注品なんすよ。
二重になっていまして中が、確か……ちきゅうごまだったかな?
まあ、とりあえず、この岡持は一品しか運べない代わりにひっくり返しても全く大丈夫なんすよ。」
いやあ、便利ですよねぇ。
そういいながらラーメンの上にかぶせてあるラップを取り、磨かれた机の上にラーメンをことんと置いた。
なるほど、こいつは化け物だ。
「なるほど、噂に違わぬ野郎だな。 なぁ、”岡持”。」
”岡持”は最近裏で有名な喧嘩屋だ。
ターゲットのにされる所には、多かれ少なかれ後ろ暗い所がある以外の共通点はなく、喧嘩を売られて返り討ちにできた組はひとつもない。
もちろんメンツを丸潰れにされて黙っている組はない。
やられた組は組員総動員で居場所を突き止めようとするが、神出鬼没でしっぽがつかめないうえに、岡持という得物の印象が強く、姿形に特別目立った特徴もない。
狙われたところは後ろ暗いところもあるので多方面から恨まれているだろう、よって依頼者から割り出すことは不可能だ。
かくいううちの組も、思い当たる節がありすぎて判断材料になりはしないだろう。
突然やってきたと思ったら岡持を振り回し、あらゆる障害を叩き潰していき、出前のラーメンを置いて帰っていく。
まるで竜巻のように訪れ去っていく奴は、裏ではいつしか”岡持”と呼ばれるようになっていた。
「やだなぁ、そんな大層なもんじゃあありませんよ。 俺、ただのバイトですし。」
それじゃあ、容器は外に置いておけば後で取りに伺うのでー。
そういい残してそいつはあっけなく去っていった。
後に残ったのは気絶し通路に転がされた部下たち、至る所に散らばった得物や割れたガラス、それと大量のトッピングがのったのびきらないラーメンだけだった。
読んでくださりありがとうございます。
なんちゃってヤクザ等突っ込みどころ満載でしたが、いかがでしたでしょうか。
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