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第9回:幼馴染の美少女たち

【SIDE:西園寺恭平】


6月のとある日曜日、俺は憂鬱な気分で自分の部屋に引きこもっていた。

 ニート化している意味ではなく、部屋の掃除がてら、整理整頓をしているのだ。

 

「恭平お兄ちゃん、これは?」

 

「あぁ、その棚に整理しておいてくれ」

 

 ついでに我が心の妹である素直も家に遊びに来ていて、お手伝いしてくれている。

 ホンマ、ええ子やなぁ……なぜか関西弁。

 実際に怪しげな本などは彼女がここに来るまでに片付けてあるのだ。

 さすがにアレを見られるのは男として恥ずかしい。

 さて、本棚の整理をはじめて、俺は捨てるものと置いておくものを選別する事にした。

 

「これは……いらない。こっちの本はいるな」

 

 本棚とかってたまに整理するといろんな発見がある。

 なぜか俺の本棚から男同士が抱きしめあう“アレ”的な小説が出てきた。

 

「俺を先生と呼ぶんじゃない。俺は……お前の恋人だろう(抱きしめる描写)」

 

 思わずどんな内容なのか中身を確認、そして棒読みの朗読。

 

「生徒だろうが、男だろうが関係ない。愛に境なんてないのだから」

 

 ……こういうのが乙女には好かれるのか、お兄さんには全く分からない世界です。

 

「俺はお前が……いや、この辺でやめておいた方が俺自身のためにいいと思う。というか、描写的イラストを見ちゃった俺はどうすればいい?」

 

 女の子は男の鎖骨に色気を感じるらしいって本当ですか?

 

「忘れよう、俺には薔薇色の世界は似合わない、絶対に……」

 

 それよりも、なぜ俺の部屋から薔薇色の本が出てきたのだろう?

 それが問題だ、背筋も凍る初夏のミステリー。

 

「や、やめてよ~っ!」

 

 俺が振り向くと身体を震えさせて耳をふさいでいる素直がいた。

 ちょいと待って、俺、もしや危ない事をしてます?

 

「うぅっ、えぐっ……恭平お兄ちゃんが薔薇色の世界の住人だったなんて」

 

 あげくに泣き出しそうな顔をしての非難、誤解です!?

 俺は慌てて否定をする、俺にそっちの趣味はない!

 

「ち、違うぞ、素直。俺がこんな趣味なわけないだろ」

 

BLボーイズラブは犯罪者だよ。この世から抹消されるべき存在なんだよ」

 

 ガタガタと震えている素直に俺は戸惑うしかない。

 そーいや、この子は姉のせいで大のBL嫌いだったか。

 

「これはアイツのだ。俺のワケがないじゃないか!」

 

「ホントに?ホントのホント?あの人の影響を受けてお兄ちゃんまで薔薇色に……」

 

「染まってないから、薔薇色にだけは染まらないから!」

 

 全力で否定すると彼女も何とか納得してくれたようだ。

 ちなみにアイツ、あの人というのは諸悪の根源、悪の元凶である素直の姉だ。

 奴は我が幼馴染ながらBL大好き腐女子だからな。

 その影響か、素直は姉に軽蔑と嫌悪、さらには恐怖すらも抱いていると言う。

 一体、お前は何をしたんだ、とアイツに問いただしたい。

 その後、なんとか復活した素直と俺は整理作業を続ける。

 漫画本を巻の順番に揃えていくと気持ち的にすっきりとするが、どうしても1巻だけ見つからないとものすごく欝になる。

 

「ちくしょう。『24人のメイドたち。ご主人様、愛と冒険の日々』の9巻が見つからないぞ。また新しいのを買えというのか。俺のメイドはどこに行った!?」

 

 そんな憂鬱な気分を吹き飛ばす出来事が近づいていたことを俺達はまだ知らない。

 

 

 

 

 1時間後、部屋をノックする来訪者の合図に俺は作業の手を止めた。

 

「ん?麗奈か?」

 

 妹だろうと俺は気軽に部屋のドアノブを回すと、廊下に立っていたのは……。

 

「こんにちは、恭ちゃん。可愛い幼馴染が久しぶりに遊びに来たわよ」

 

 外見はよくいうスポーツ少女のような姿、そして、明朗活発な物良い。

 顔つきは美人と言って差しつかえない少女。

 にっこりと微笑む姿に普通の男ならば見惚れるだろうね。

 

「……どちらさまでしたっけ?」

 

 俺は無意識に部屋の扉を閉め、ついで鍵もかけておいた。

 

「わ、私はここにいないって言ってね」

 

 隣の素直は顔を真っ青にして、布団の中にもぐりこむ。

 実姉にそこまでビクつく妹も珍しいが、今はそれどころではない。

 

「何よっ!幼馴染にその対応はあんまりでしょう!」

 

 扉の向こうでドアを激しく叩く彼女。

 

「うっさい!お前がうちに遊びに来てロクな事がないんだ」

 

「美少女幼馴染が年頃の男の子の部屋に遊びに来たんだから、もう少しドキッとするようなピュアな反応してくれても良いじゃない」

 

「お前相手にどう純粋になれというんだ」

 

「あはっ、恭ちゃんだって愛しい私が来て本当は嬉しいくせに」

 

 カチッとドアのロックの外れる音、彼女は鍵のかかった扉をどうにかして開けた。

 俺の部屋の鍵って外から一工夫すれば開いてしまう。

 これも幼い頃から俺の部屋を熟知している彼女だからこそ出来る行為だ。

 くっ、この幼馴染には弱点がないのか!

 

「もうっ、そんなに恥ずかしい事でもしていたの?それとも何か怪しいものでも隠している最中だったとか?ごめんね、恭ちゃんもお年頃の男なんだもんね」

 

 俺の最終防衛線、といってもただの扉を開けて再び登場する少女。

 彼女は俺の部屋に入り込んで「全然、変わらないわね」と呟いた。

 

「彼女の名前は遠藤久遠(えんどうくおん)。遠いという字がふたつもある変わった名前の女だ。可愛い外見に騙されて涙を流す男は多い。ついたふたつ名が“せめて遠くから見てる分には可愛い女の子”という。ごめん、今考えついた」

 

「何で紹介風に私の事を話すのよ。ホントに忘れちゃったの?」

 

「お前の知らないところで世界は回っているのだと言っておこう」

 

 俺はため息ついて、幸せをひとつ逃がした。

 さよなら俺の幸せ、また会えると良いね。

 俺は諦めて久遠を室内にいれることにする、素直は隠れたままだ。

 

「もう、恭ちゃんって照れ屋ね。私に全然会えなくて寂しかった?可愛い事言ってくれるじゃない。ふたりっきりの部屋でいけない事しちゃダメだぞ?」

 

 ぎゅっと俺の腰に手を添えてくる。

 こいつの行動には全て裏があるのだ、騙されてはいけない。

 俺はそれを強引に引き離すと久遠に疲れた声で言う。

 

「耳まで遠くなったか?誰がお前と会えなくて寂しかったんだ?この本を俺の部屋に置いていったのは久遠だろッ!」

 

 先ほど俺達を“憂鬱”という失意のどん底に貶めた薔薇色の本を彼女に突きつける。

 どう考えても、これ系趣味の犯人は久遠しかない。

 俺は覚えてますよ、中学時代に無理やり朗読させられたあの忌々しい記憶をっ!

 

「懐かしい本を見つけたわね。恭ちゃんの部屋にあったんだ?」

 

「もういいから、とりあえずそれ持って家に帰れ」

 

「だから、遊びに来たって言ってるじゃない。幼馴染同士、旧交を温めあいたいだけなのに。そんなに邪険にするといらぬ噂でも学校に流すわよ。例えば恭ちゃんは私の奴隷だってね」

 

 彼女は無茶苦茶言いながら、我が物顔で俺のベッドに座り込んだ。

 

「むぎゅっ!?」

 

「んー、なぁに?誰かいるのかしら?子猫ちゃん?」

 

 彼女は楽しそうに素直がもぐりこんでいる布団に乗りかかって遊ぶ。

 

「ぎゅー」

 

 苦しそうにうめく素直。

 明らかに素直がそこにいるのに気づいてやがる、なんてひどい姉なんだ。

 

「それよりも……お前、どうやって家に入ってきた?」

 

「麗奈に案内してもらってだけど?ほら、廊下で待ってるでしょ」

 

 俺は部屋の外に出るとティーセットをもった妹の姿。

 コイツの暴走に呆れているのか、ついてこれなかったのか、複雑な顔をしていた。

 

「相変わらずですね、久遠さん。これ、飲んでください」

 

「ありがとう、麗奈。お兄さんと違って優しい気遣いが嬉しいなぁ」

 

 麗奈は俺に3人分のティーセットを預けるとそのまま自分の部屋に戻っていく。

 

「……ほら、我が愛しの妹、ナオちゃんも出てきなさい」

 

 ナオと呼ばれた素直は仕方なく布団から出ると俺にしがみつく。

 

「うぅ~っ。こっちに近づくなぁっ」

 

 警戒心バリバリです、毎度のことながらこの姉妹は仲が悪い……。

 俺はのん気に紅茶を飲んで、横目に見ながらそう思う。

 

「やぁだ、そんなに警戒しないでよ。妹にそんな目をされるとお姉ちゃんは悲しい」

 

「……黙れ、姉なんてここにはいない。目の前にいるのは悪魔だもんっ」

 

 うわぁ、否定できない……こいつは確かに誰もが認める悪魔だ。

 久遠はどこ吹く風と余裕に受け流して、紅茶に口をつける。

 

「はいはい。残念ながらナオちゃんにお姉ちゃんは必要ないのね、恭ちゃんを兄と慕う方がよっぽど危ないと思うのは私だけかしら?」

 

「……少なくとも素直にとっては俺の方がいいんだろう」

 

 素直は俺から離れようとせずにいるので、クッキーを口元に運んで見る。

 

「まぁ、素直。これでも食べて癒されてくれ。美味しいクッキーだぞ。あーん」

 

「あむっ……ん、美味しいよ。恭平お兄ちゃんっ」

 

 俺の言葉と共に素直は小さく口を開けてクッキーを食べる。

 この小動物にエサをあげるみたいな仕草が可愛いのだ。

 

「すっかりと恭ちゃんに妹を手なずけられてる。つまんないなぁ」

 

「で、妹をビクつかせるために我が家に来たわけではあるまい?幼馴染さんよ。何を企んでいる?お前がこんな風にうちに来るのは何かなければおかしいって。俺の幼馴染としての勘がそう告げている」

 

「うわっ、いつのまにか恭ちゃん自慢の美少女フィギュアコレクションが姿を消してるじゃない。美少女のお人形さんたちはいったいどこに?」

 

「無視かよ。フィギュアの趣味ならとっくにやめた。いつの話をしているんだ」

 

 少し前まではそんな趣味もありましたが、麗奈が家に来て真っ先に否定したのがそれだったので泣く泣くやめたのだ。

 義妹に「……人形趣味とはど変態ですね」と真顔で言われた俺の気持ちが分かるのか。

 プレ値のついたお宝フィギュア達が……ぐすっ。

 

「うーん。私的には今は1分の1美少女フィギュアにでも手を出してるのかと」

 

「俺が等身大フィギュアを抱いて寝ているような印象があるんですかねぇ?」

 

 発想がどこかに飛んでいってる、こういうヤツだと忘れていた。

 

「ないとは言い切れないのが恭ちゃんなのよね」

 

「ちょっと表に出て話しようか?」

 

 さすがの俺もそこまでの趣味はしてません。

 俺の幼馴染ながら相手にするのが疲れるね、本当に。

 

「冗談よ。ホントにただ遊びに来ただけ。ナオちゃんも遊ぶ~?」

 

 今度は妹に手を伸ばす、それに素直は過敏に反応して逃げ出す。

 

「くっ……、今日はもう帰るっ!またね、お兄ちゃんっ」

 

「おー、お手伝いありがとうな」

 

 挨拶を終える前に彼女は部屋から逃げ出していた。

 よっぽど目の前にいる久遠が嫌いな様子だ。

 

「……どんな事したらあそこまで嫌われるのやら?うちよりひどいぞ」

 

「ちょっとBL趣味に引きずり込もうとしただけよ?手荒な事はしてないわ。それにそれがなくても、子供の頃からお姉ちゃんは嫌われてるし。妹と接するのも大変なの」

 

 苦笑いを浮かべる久遠、あれでも姉としては妹を可愛がってるつもりらしい。

 昔から何かと問題の多い久遠を姉に持つ真面目な素直としては許せない事も多々あるのだろう。

 もはや修復できるのかは分からない姉妹の溝だがな。

 

「これでも私なりに惜しみない愛を持ってナオちゃんには接してるつもりよ?」

 

「その愛が歪んでいる事に気づいてやれ、BL趣味も含めてな」

 

「うーん。ボーイズラブ、男の子同士の愛情は人類の神秘なのに。それを理解できないなんて人生の半分以上は損してるわよ、ふたりとも。私はこの出会いを神に感謝したくらいなのに」

 

 俺も素直もそんな薔薇色の世界には一生関わりたくねぇよ。

 久遠は妹をいじめていたという反省する素振りもみせずに、

 

「それにナオちゃんをからかって遊ぶの大好きなの。可愛いじゃない」

 

「……それが1番の問題だと思うが」

 

「ふふっ、私は恭ちゃんと遊ぶのも好きよ。アンタの反応も見ていて楽しい」

 

「――そういう事を平気で言えるから悪魔って呼ばれるんだ」

 

 ホントに今さらだが、この久遠の扱いだけは要注意なのだ。

 本気で悪い奴ではないと思いたいのだが、否定はできそうにない。

 

 

 

 

 結局、彼女は俺と話をするだけして、夕方になると部屋を出る。

 

「それじゃ、そろそろ帰るわね」

 

 彼女を玄関まで見送ると、家の中でノゾミの散歩をしていた麗奈と会った。

 

「あら、可愛い子猫。ペットを飼ったんだ。麗奈、この子の名前は?」

 

「ノゾミです。ほら、ノゾミ。久遠さんに挨拶して」

 

 麗奈はノゾミの前足を持ち上げると、久遠は子猫と握手する。

 微笑ましいねぇ、実に……いつもこんな平和であってほしいものだ。

 

「……また、今度、私のお願いを聞いてくれる?」

 

 小悪魔な微笑に俺は直視できずに視線をそらす。

 

「嫌だね、お前のお願いは無茶が過ぎるからな」

 

「ひどい~っ。でも、今度は少しだけ真面目な話だから聞いてもらうわ」

 

 この笑顔に騙されると痛い目にあうのは確実だからだ。

 一体、何が目的だったんだろうね、うちの幼馴染さんは。

 彼女が帰った後、ようやく一息をついた俺に今度は妹からの質問。

 

「ずいぶんと仲のよさそうなう雰囲気でしたけども久遠さんとは幼馴染以上の付き合いがあるんですか?」

 

「……ノーコメントでお願いします」

 

 色々とあった関係ではあるけども、妹に語ることではない。

 こうして、俺は幼馴染に振り回されながら日曜日の休日を終えたのだった。

 

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