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第31回:秋風に揺られて

【SIDE:西園寺恭平】


 夏の終わり、秋の匂いを運んでくる風。

 人はその風を感じて、夏が終わったことを知る。

 全てを色鮮やかに染める秋色、秋の訪れは人に新たな景色を見せる。

 楽しい夏休みも終了、9月に入り、新学期に入った。

 学校では久しぶりに会った友人達との会話に花が咲く。

 今年の夏は魔乳の持ち主、エレナと出会ったりして満足のいく夏を終えた。

 麗奈とも海で遊んだりして仲を深めあった。

 

「……ふわぁ」

 

 今日は新学期初日という事もあってか、ずいぶんと疲れたな。

 俺は欠伸をしながらお風呂に入ろうとしていた。

 

「あっ、お兄さん」

 

「よう。何だ、まだ風呂に入ってないのか?」

 

 いつものようにリビングで麗奈は飼い猫としてすっかりと定着したノゾミの身体をブラッシング用ブラシで撫でていた。

 気持ちよさそうに身体を伸ばすノゾミ。

 麗奈の可愛がる姿に嫉妬すら覚える。

 俺も麗奈にあんな風に大切にしてもらいたいものだ。

 

「今日は何だか眠そうですね」

 

「学校ではしゃぎすぎたな。ちょっと眠い」

 

「それなら、早くお風呂に入ったらどうです?私は後でもいいですから」

 

「そうか?それなら先に入らせてもらうよ」

 

 俺は麗奈に許可をもらったので風呂場に向かった。

 ついでに「麗奈も一緒に入る?」なんて男らしい事は言えない。

 ……ホントは言いたいんだけどね。

 男には我慢する事も大切なのです。

 というわけで、妄想で補完しておこう。

 

『あはっ、お兄ちゃんって背中が大きいね』

 

 泡だらけのタオルで俺の背中を流す麗奈。

 さらに、裸は恥ずかしいからとスク水を使用だ。

 むしろ、それがいいのだよ、そこが萌えポイント!

 

『……エッチな目で見ないよぉ、お兄ちゃん』

 

 そうやって恥ずかしそうに唇を尖らせる麗奈が可愛いなぁ。

 いいなぁ、麗奈とお風呂なんて……。

 中々、一緒に入ってもらえないのでお兄ちゃんとしては憧れるシチュだ。

 

「まぁ、所詮妄想でしか味わえないシチュエーションだろうな」

 

 それが現実、悔しくなんてないよ、妄想で我慢するから。

 俺は鼻歌を歌いながら、風呂場のドアを勢いよく開けた。

 

「――え?」

 

 一瞬、意識が飛びそうになる光景。

 あまりにも予想だにしない事が起きると人間、ホントに凍りつくものだ。

 

「え?」

 

 そこにいたのは由梨姉さんで、つい視線を上から下まで動かしてしまう。

 濡れた髪の毛とあられもない姿。

 タオルがわずかに隠す肌、だが綺麗すぎる裸体のラインに見惚れる。

 男としてここは目に焼き付けておくべきか?

 

「きゃッー!」

 

 なんて考えてる間に女子特有の高い叫び声が響き渡る。

 まさか、こんな定番にして実は発生確率の低いイベントを起こしてしまうとは。

 普段はこうならないようにしていたんだが、つい忘れていた。

 うちの風呂に入る順番は、由梨姉さん、麗奈、俺、両親となっている。

 今日は疲れていてその順を飛ばしたために起きた不幸なアクシデントだ。

 

「えっと……白い肌がとても綺麗ですね。……すみません」

 

「あぅあぅ……」

 

 姉さんは口をぱくぱくさせている。

 というか、何だか薄っすらと涙が……。

 

「……見ないでよ。弟クン」

 

 バスタオルで身体を隠す姿が……何とも言えない。

 

「ごめん!すぐに出て行くから」

 

 俺は身を翻してと扉を開けようとする。

 だが、それを止めたのは我が麗奈だった……。

 

「な、何をしてるんですか!?」

 

 風呂場からの叫び声にかけつけた麗奈。

 状況を改め説明しよう、タオル姿の泣きかけた姉さん、それを見てる俺。

 どう見ても“婦女暴行”の現行犯ですね、すみません。

 

「いつか起こすと思ってましたが、ホントにこんな罪を犯すなんて……」

 

「ち、違いますよ!?コレは事故。事故なんですっ!」

 

「都合のいい言葉で誤魔化さないでくださいっ!この変態!!」

 

 姉さんよりも麗奈がこの状況に怒りを示していた。

 同じ女の子として許せないのだろう、その睨みつける蒼い瞳が怖いっス。

 

「さっさと出ていってください!ほら、早く!」

 

 麗奈に手を無理やり引っ張られながら俺は風呂場を後にした。

 風呂場から聞こえる姉さんの泣き声に俺は心を痛めてた。 

 

 

 

 リビングまで連れ戻されると、俺はソファーに正座させられた。

 麗奈は未だかつてない怒りの瞳を俺に向けている。

 

「……覚悟はできてますか、犯罪者さん?」

 

「な、何の覚悟かな?」

 

「兄妹として関係の破棄です。……さよなら、兄だった人。もう他人ですね」

 

 ……ふふふ、終わった……俺の恋が秋風と共に砕け散る。

 まるで威嚇した子猫のような顔をしながら、麗奈は怒り心頭のご様子で堂々とそんな宣言をしたのだった。

 俺は麗奈に嫌われて、すっかりと意気消沈していた。

 でもね、言い訳なんてしたくないけど俺にばかり非はないよ。

 

「言い訳させてもらうなら、麗奈が先に行ってもいいという許可がおりていたんですけれど。この場合の過失は全て俺にだけあるのでしょうか」

 

「……うっ。い、言い訳なんて見苦しいですよ。変態なら変態と罪を認めてください。私は被害者じゃありませんから、別に何も言いません。が、貴方のしたことは犯罪ですよ、犯罪!ひどい人ですね、本当に……」

 

 兄妹の絆のピンチは別問題ですか?

 責められ続ける俺は自分の行動が悪いこともあり、反論はできない。

 

「弟クンは悪くないよ、麗奈ちゃん……。私がカギをかけてなかったのも悪かったんだから。そう責めないで、私は気にしてないし。ちょっと驚いただけで、何かされたわけでもない」

 

 そこに現れた救世主、姉さんは風呂上りでパジャマ姿に頭にタオルを巻きつけていた。

 髪が長いって大変ですね……という、現実逃避。

 

「本当に?こんな人に裸を見られたんですよ」

 

 兄とはもう呼んでくれないのね、お兄ちゃんは寂しいよぉ。

 

「別に弟クンにならかまわないもの。ちょっとは恥ずかしかったけどね」

 

 照れるようにして頬を赤く染める姉さん。

 

「……わかりました。よかったですね、お兄さん。私、お風呂に行きます」

 

 麗奈はそれが気に入らないのかそのままお風呂場へと消えていった。

 再び、俺のことを兄と呼んでくれるのか!!

 麗奈との絆はこの程度で切れるものではないのだ、ははは!

 心の中で高笑いする俺に、姉さんはすまなさそうに、

 

「ごめんね、弟クン」

 

「謝るのは俺の方だよ、姉さん。覗いてごめんなさい」

 

「事故だから、ね。それに弟クンもそういう年頃だからしょうがないよね」

 

 うわっ、その納得のされ方はされたくないなぁ。

 

「そうだ。ちょっとベランダの方に出ない?話したい事があるんだ」

 

「いいよ。あ、アイスでも食べる?」

 

 冷蔵庫からアイスを2本取り出して、俺と姉さんはベランダの外へと出た。

 ベランダは夜空だけでなく、心地よい風が吹いてる。

 

「風が気持ちいいなぁ」

 

 爽快さを与えてくれる涼しい風に吹かれて姉さんはそう言った。

 

「ああ。もう夏も終わっちゃったし、秋の風だな」

 

 秋風の優しい風に抱かれて、俺と姉さんはアイスを口にした。

 味はラムレーズン、両親が買ってきてくれたものなのだが、初めは大人向けっていうか、ちょっと手が出なかった。

 しかし、食べてみると意外に美味しいものだと気づいた。

 

「甘いねぇ。私、この味好きかも」

 

「俺もこの味が好きだな。それで話って何?重要な事?」

 

「ううん。ただ……弟クンと話がしたかっただけだよ」

 

 風に乗って漂うのはシャンプーのいい匂い。

 風呂上りの美少女って最高ですね。

 清潔感溢れる匂いに身を任せながら、

 

「……由梨姉さん」

 

 俺は彼女の名前を耳元で囁く。

 くすぐったそうにして「くすっ」と微笑すると、姉さんは俺によりかかった。

 

「何か懐かしいよ。子供の頃、一時的に姉さんの家に預けられてた頃があったじゃないか。その時、今みたいにベランダでくっついて涼んでたよね」

 

「弟クンが私に甘えてくれて、私は嬉しかった。私にとってホントの弟だもの。だから、悩みがあるなら何でも言ってね」

 

 ベランダで寄り添う俺たちは秋の風を一緒に感じている。

 彼女の優しさは俺に亡き母を思い出させる。

 

「うん。その時は頼りにさせてもらうよ。それより、その、胸が当たってるんですけど」

 

「もうっ!弟クンのエッチ!そう言う所は成長しなくていいの!!」

 

 恥ずかしがりなら俺を軽く叱る由梨姉さん。

 俺にとって大事な人、それが彼女であることは間違いないんだ。

 

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