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第3回:私にいらない義兄が……

【SIDE:西園寺麗奈】


 家族の絆、友愛の絆。

 誰かと誰かが絆という言葉で繋がっている。

 今もこうして繋がっている。

 絆があるから信じられる?

 信じられるから絆があるの?

 私は切れない絆が欲しかった。

 私には兄がいる、血の繋がりのない赤の他人。

 家族と言う名前だけの存在である彼が大嫌いだった。

 心の底からそう思うならどうして今も彼の事を思うのだろうか。

 家族だから、離れたくても離れられない。

 そう自分に言い訳しながら今日も彼と嫌々接している。

 ……私は3ヶ月前にこの家にやってきた。

 私が生まれた時から父はいなかったため、ずっとママと二人暮らしだった。

 だから、私とママは姉妹のような仲のいいそんな親子だった。

 どこに行くのも一緒、私がべったりと彼女に懐いていた。

 だけど……ある日、ママから聞かされた突然の再婚話。

 気がつけば、私は知らない人の家、これから私の家になる場所にいた。

 お父さんになる人、そう紹介された男の人。

 

『これがママの好きになった人なんだ』

 

 初めての父の存在、家族として期待してしまう気持ちもあった。

 それなのに……現実の私は……。

 

「……はぁ」

 

 私は新しい家で与えられた自分の部屋に閉じこもっていた。

 下ではママとパパが仲良く話している声が聞こえる。

 ようするに私は……寂しかったんだ。

 私と一緒にいる時のママは楽しそうに笑う。

 でも、パパと一緒にいる時のママは本当に嬉しそうに、幸せそうに微笑むから……。

 自分だけがこの世界においていかれるような孤独。

 私はまだ引越しのダンボールだらけの部屋で、唯一用意されていたベッドに座る。

 電気もつけず、暗闇でひとりでいるとすごく悲しくなる。

 そんな時、ドアを軽く叩く音に気づいた。

 

「麗奈?……部屋、入るよ」

 

 扉を開けて現れたのは私よりも少しだけ年上の男の子。

 

「夕食が出来たってさ。あれ、真っ暗だ?寝てるのか?」

 

「いえ、起きています」

 

 彼は部屋の電気をつけると、私の顔色を見て心配そうな表情をする。

 

「引越し作業で疲れた……ってわけじゃなさそうだな」

 

 この人とまともに会話をするのはこれが初めてだ。

 自己紹介くらいはしたけれど、今の今までふたりとも引越し作業をしていたせいで、会話なんてしていない。

 彼は私が何に悩んでいるのかを見抜いているかのように、

 

「俺も混乱しているよ。俺だって親が再婚するなんて突然だったからな。もう、ホント驚いたと言うよりも困ったかな。キミもそうだろ」

 

「困る……というより嫌です。貴方は嫌じゃなかったんですか?」

 

「嫌、か。俺は別に。家族が増えるのも、親父が再婚するのも賛成だからね」

 

「どうして……?どこの誰かも分からない人がいきなり家族だって言うんですよ」

 

 私としては考えたくない頭の痛い問題。

 こんな歳の少ししか離れていない男の子と兄妹になるのもそうだけど。

 子供として、まだ若いママが再婚できたという事に喜ぶべきなのかな。

 

「……それでもいいから、俺は家族っていうのが欲しかったんだ。親父は仕事柄、子供の頃は出張とか多くて、家族って憧れだった。そういう風に考えたことない?」

 

「私、そんな風に割り切れるほど大人じゃありませんから。子供の意見でごめんなさい」

 

 彼にそうキツめの言葉で告げる私。

 生意気な子だと思ったかもしれない。

 そんな私の不安とは裏腹に、彼は私の頭をポンポンと撫でる。

 

「無理に大人になる必要はない。子供だからこそ、俺達は俺達らしくやっていければいいと思う」

 

「私たちらしく?」

 

「そう。受け入れるには何でも時間がかかるから。幸せなのは両親のふたりだけ。俺とキミは困惑中。他人なのに兄妹。不思議な感じがするだろ」

 

 撫でてくれる手の温もり。

 男の子なんだ、ふいに恥ずかしさがこみ上げてくる。

 

「でも、あのふたりが幸せなら子供の俺達が出来る事をしてやりたい」

 

「私たちにできる事?」

 

「兄と妹、ふたりが仲良くなることだよ。それがあの人たちにとって、俺達にとっての一番の幸せの近道だから。俺と仲良くしてくれるかな?」

 

「……考えておきます」

 

 似た境遇から湧いた親近感、この人なら信じられる、そう感じられた。

 

「とりあえず、夕飯を食べにいこう。今日はご馳走だってさ」

 

「ホントですか。楽しみですね」

 

 私は先ほどの暗い顔を一転させ、いつのまにか笑顔で答えていた。

 

「あっ……」

 

 本当に不思議だった、彼の存在が私に何かを与えてくれるようで……。

 

「キミの笑顔、子猫みたいで可愛いね」

 

 彼から言われる一言、一言が私の胸に残り続けるようになる。

 お兄さん、それが私にとって”絆”を表す唯一の言葉。

 

 

 

 

 あれから3ヶ月、すっかりと新しい生活にも慣れてきた。

 しかし、私と兄の関係はあの時よりも“悪化”している。

 なぜなら、あの人のよさそうで優しそうに見えた兄は“変態”だったから。

 時々、にやけて独り言を言ったり、わけの分からない事を私に言ってきたり、行動が編だったり、着替えを覗かれたりキスされたり、とあげたら切りのないくらい。

 流石に私もあの人に愛想をつかしてるけど、どこか嫌いになりきれない。

 ……兄と言う存在は私にとって不思議な存在だった。

 自分が妹という事すらそれまでになかった感覚だし。

 家族というモノをあの人は望んでいた。

 ここにはパパもママもいて、姉のように優しくしてくれる由梨さんもいる。

 私にとって家族というのは体験した事のない温かさも与えてくれる。

 本当に不思議……そこにあの人は要らないけどね。

 

「おーい、麗奈。お兄ちゃんだぞ、部屋に入っても良いか?」

 

「ダメです。無期限、室内進入禁止処分と言ったはずでが?」

 

「めっちゃ初耳なんですけど。まぁ、それならいいや。リビングに来てくれ。姉さんがシュークリームを買ってきてくれたんだ。おやつにしよう」

 

「分かりました。それなら、すぐに行きます」

 

 ドア越しの会話にはちゃんとした理由がある。

 以前のキス事件以来、彼を信用していないので部屋には一切入らせない事にした。

 また襲われたら嫌だし、プライベートな空間を見せたくない。

 普通の兄妹なら当然のことだ。

 よく漫画とかであるように「お兄ちゃん、また私の部屋に勝手に入って~」とか言うのが思春期の妹だと思う。

 ……兄妹、いつのまにかその言葉を自然と受け入れている自分がいるなぁ。

 彼は兄としての評価は最低だけど、人間としての評価も低いけど、何となく家族としては認めてきている自分がいる。

 ――お兄さんがいると“寂しさ”だけは感じる事がないからかもしれない。

 

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