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第21回:地上に舞い降りた小悪魔

【SIDE:西園寺恭平】


 季節は暑くて嫌になるくらいの熱帯夜が続く真夏。

 

「……ふぅ、冷たくて美味しいですね。やっぱり、夏にはカキ氷が1番だと思います」

 

「その意見には同感だ。このシャリシャリ感は夏の暑さを吹き飛ばしてくれる」

 

 家庭用カキ氷器で俺が作ったカキ氷を麗奈とふたりで食べていた。

 カキ氷ってどうしてこんなに暑い時に美味いのか。

 たまに頭が痛くなるが、夏の必須フードである事に間違いない。

 俺はシャリシャリとカキ氷をスプーンですくい口に入れていく。

 

「知ってます?カキ氷を食べる時に頭が痛くならない方法があるんですよ」

 

「そうなのか?俺は知らないが……どういうものなんだ?」

 

「ゆっくりと食べるといいんですって。いきなり勢いよく食べると頭が痛くなるそうです。だから、そんなに勢いよく食べてると……あ、もう手遅れですね」

 

「うぐっ、い、たい……うぉおお……!」

 

 麗奈の忠告も空しく俺はアイスクリーム頭痛と呼ばれる痛みに苦しむ。

 うぅ、この激しい頭の痛みさえなければ……ガクッ。

 頭痛で悶え苦しんでいる俺に麗奈はくすっと微笑みながら言う。

 

「ふふっ、お兄さんって相変わらず、天然系ですね」

 

 麗奈さん、それはフォローになってません。

 

「あ、何だか美味しそうなものを食べているじゃない」

 

 リビングに顔を覗かせたのは久遠だった。

 こいつが勝手に家に来るのはいつもの事なので、文句は言わない。

 そういや、最近は素直がうちに顔を出さないな、何かあったのだろうか。

 

「おぅ、久遠。どうした、俺に何か用事か?ついでにかき氷でも食うか?」

 

「カキ氷はこれをもらうわ。……うん、冷たくて美味しい」

 

「待て、それは俺のスペシャルだ。くっ、奪われてしまった。ちくしょー」

 

 俺の食べかけのカキ氷を久遠に奪われてしまう。

 

「お前、人の食べかけをとるとは恥らいがないのか、女の子だろ!」

 

「だって、恭ちゃんのが1番美味しく作るでしょう?」

 

「うぐっ、確かにそのスペシャルは氷の削り方から工夫してあるが……」

 

 仕方ないので俺は自分用に再びカキ氷を作る事にする。

 家庭用カキ氷器を手動でハンドルを回して氷を削る。

 シャリシャリ、シャリシャリ、シャリシャリ……地味に回すのが疲れるな、これ。

 

「久遠さんって、お兄さんと仲がいいんですね?」

 

「ん。まぁ、昔にいろいろとあった仲ではあるわ。ねー、恭ちゃん?」

 

「その辺はノ~コメントで」

 

「……もしかして、過去に付き合っていたりして?何て、ありえませんよね?久遠さんとお兄さんじゃ全然釣り合いにもなりませんから……。どうなんですか?」

 

 何気にひどいよ、麗奈……。

 俺は泣きたくなる気持ちを抑えながらカキ氷を作り上げる。

 メロン味……いや、ブルーハワイ味のシロップをかけて、食べ始める事にした。

 ブルーハワイ味はいつも思うが危ない色をしているよな、食べ物で青ってありえない。

 基本的に色が違うだけで他のと味は一緒の気がする。

 

「ありえないねぇ。私と恭ちゃんが付き合うなんて、地球滅亡シナリオでもありえない話よ。恭ちゃんもそう思わない?」

 

 久遠が俺に笑いかける、嫌味なやつだよ、本当に。

 俺は麗奈の手前なので話をあわせてやる。

 

「久遠がもう少し俺好みの可愛い女になってくれたら考えてもいいぞ?」

 

「それはこちらの台詞。……無理だわ、私と恭ちゃんじゃいい所まで行きそうにない」

 

 久遠の言葉に麗奈はクスッと微笑んだ。

 俺達の実際の関係、彼女が知るとどう思うんだろうか。

 話すつもりはないが、ふとそんな事を思ってしまう。

 

「ですね、見ていたら分かりますよ。仲がよくても、友達どまりみたいな」

 

「だって、実際にそうだし。私は恭ちゃんの望む都合の良い女にはなれないもの」

 

「はいはい。こちらから遠慮します。それで、お前の用事は何だ?」

 

 彼女は口にスプーンをくわえて、俺に指を指す。

 俺に話があるらしい、また変な話ではない事を祈ろう。

 

「最近、うちの妹、素直の様子がおかしいのよ。どうにも、変なの。部屋に閉じこもったりしているし、中々、外に出てこない。怪しいと思わない?」

 

「それは確かに。俺の家にも来ていないな?」

 

 夏休みが始まった頃はよく来ていたのだが、8月に入ってから姿を見ていない。

 

「私も見ていません。素直さん、どうしたんでしょうか?」

 

「気が向いたらでいいからさ、麗奈か恭ちゃんのどちらか、様子を見てあげて。私じゃ無理なの。部屋に近づけば枕がとんでくるもの。困った物よ、今日もぬいぐるみを投げつけられたわ。あはは……」

 

「それってよほど、お前が嫌われてるってことだ」

 

 ふむ、素直が引きこもりか……これは何かありましたな。

 

「私も声をかけてみる事にします。最近は少しは話せる仲になりましたから」

 

「よろしくね。同い年の麗奈の方が話し相手としては都合がいいかもしれないわ」

 

 そんな感じで、素直の様子がおかしいと言う話をしていたら、トルル……と電話がなったので、俺は電話に出ると、義母である美優さんからの電話だった。

 

「もしもし?どうしたんですか、美優さん」

 

『あ、恭平君?麗奈がいるなら変わってくれない?』

 

「いいですよ。麗奈、美優さんから電話だぞ」

 

「ママからですか?何だろう?」

 

 麗奈に電話を渡すと彼女は不思議そうに電話に出る。

 うちの妹は祖母がアメリカ人のために瞳が蒼い、いわゆるクォーターって奴なのだ。

 なので、ハーフである彼女の母は金髪で外国人にしか見えない。

 髪色は受け継がなかったのか、麗奈の髪が黒いのには以前から少し疑問に思っていた。

 

「……え?あ、あの、ママ……それって本当なの?」

 

 どこか嬉しそうな顔をする麗奈。

 俺と久遠は不思議そうに彼女を見つめていた。

 

「何だろう、誰か来るのか?」

 

「男じゃないの?昔、付き合っていた男との再会。再び恋が蘇えるのよ」

 

「冗談だろ。そんなのはこの俺が許さんっ!」

 

「……ふっ。許さないっていえる立場になってからいいなさいよ」

 

 久遠は俺の痛い所を突っ込んでくれる。

 麗奈は何やら報告を受けて、楽しそうな様子を見せている。

 

「今のうちに部屋を片付けておかないと。お兄さん、これから部屋を整理してきたいので後片付けを任せますね」

 

 電話を切ると、焦った様子で部屋に戻ってしまう。

 何が麗奈にあったか分からんが、麗奈がこれまでにないほど危機感を抱いてるな。

 麗奈を見送ったあと、再び美優さんから連絡を受けた。

 

「はい?麗奈なら部屋に帰ってしまったんですけど?」

 

『もうっ、あの子ったら……。実は今日から2週間、姉さんの子供をこちらで面倒を見る事になったの。恭平君は初めて会う子だと思うんだけど。麗奈と彼女は昔から相性がよくなくて。……悪いんだけど、駅まで迎えにいってあげてくれないかしら?』

 

「別にいいですけど、俺は顔を知りませんよ?」

 

『きっと大丈夫よ。外見ですぐに分かると思う。彼女にはこちらから連絡しておくわ。今日は私達は帰りが遅くなりそうなの。あとはお願いするわね』

 

 美優さんが言うにはその麗奈の従妹は金髪らしい。

 この辺で外人っていうのもあまり見ないからな。

 というわけで、俺は久遠と別れ、バイクを走らせて駅まで少女を迎えに行く事にする。

 駅について、バイクを止めて改札口で彼女を待つ事にする。

 麗奈の従妹というからには美人なんだろう。

 どういう子なのかな、可愛い系だったらいいなぁ。

 

「……おっ、そろそろ来るかな?」

 

 改札口から出てくる人の顔を見ながら待っていると、女の子がこちらにやってくる。

 輝くような金色の長髪をなびかせる碧眼の美少女。

 小柄な背格好からして歳は麗奈と同じくらいだろうか?

 

「ねぇ、貴方が麗奈のおにーさん?」

 

「あぁ、初めまして。麗奈の義兄、西園寺恭平って言うんだ」

 

「……ふーん。うん、顔は悪くないね。むしろ、カッコよさには合格かな?」

 

 彼女はそう言うとぎゅっと俺の腕に自分の腕を絡ませながら微笑みを見せた。

 お、おおっ、麗奈にはまだない魅惑の感触が腕に……。

 彼女はそのまま軽くウインクをして、自己紹介する。

 

「初めまして。麗奈の従姉で赤羽エレナ(あかば えれな)って言うの。今日からしばらくの間、よろしくね。“恭平お兄さん”とならいい夏休みがおくれそう」

 

 薄いピンクの唇が囁く言葉にゾクッとする。

 

それはまさしく、小悪魔系美少女特有の微笑みだったのだ。

 

「もちろんだよ。こちらこそよろしくな」

 

 エレナが我が家に“台風”をもたらす事など知らぬ俺は笑顔で受け答えていた。

 今年の夏はどうやら大きな波乱を含んでいるらしい。

 それにしても、中々に発育がよろしいですなぁ、この子。

 ……いえ、やましい意味ではないですよ?

 

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