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第16回:初体験の感想は?

【SIDE:西園寺恭平】


 俺の部屋にふたりっきり、ベッドに座る春雛。

 初体験、初めてを怖れずに乗り越える、誰もが通るべき道。

 こちらを見上げて、ほんのり赤く頬を染めながら彼女は小声で言う。

 

「キョウ……本当にするの?」

 

「俺はして欲しい。春雛、いいよな?」

 

「うぅ、恥ずかしいわ。私、こういうのは初めてだし」

 

「知ってる。緊張しなくてもいいって。誰でも初めてがあるんだから」

 

 俺は彼女の肩を抱き寄せながら、春雛を安心させようとする。

 今日の春雛はいつもよりも余裕がない。

 

「何かその余裕っぷりが気に入らない」

 

「余裕って何だよ。俺は別に……」

 

「キョウは……した事があるの?経験あるからそんなに余裕なんだ?」

 

「その辺はノーコメントでお願いします」

 

 俺の言葉にもまだ不安があるのか、彼女の表情は緊張したままだ。

 もちろん、俺だってその気持ちも分かる。

 本当に純粋無垢な大和撫子万歳!

 俺は春雛のこういうところが可愛いと思うんだ。

 それでも、俺は可愛い春雛が好きだから、彼女にも理解して欲しい。

 

「今日のためにいろいろ準備してきたんだから」

 

「……キョウ、今、ものすごくやらしい顔をしてる」

 

「そりゃ、今からやらしいことするんだから当然じゃん」

 

「開き直らないでよ。そんな意地悪な事ばかり言うんだから」

 

 バカップルみたいなノリで抱き合いながらも春雛の不安を和らげていく。

 

「拗ねるなよ、春雛。そういうのも可愛いと思うけど」

 

 ぷいっと俺から視線を逸らして、照れるように俺の胸の中に顔をうずめる。

 春雛って普段は大人っぽいくせに意外な所で子供らしさを見せる。

 そのギャップに俺はそのたびにドキッとさせられるわけだ。

 このドキドキ感は男としてはたまらないものがある。

 俺は彼女の背中に腕を回すと、ふわっと香りがした。

 

「何かいい匂いするな、春雛」

 

「……シャンプーかな。今日は香水はつけてないから」

 

 どことなく落ち着く春雛の匂い。

 いつもの香水の匂いがない分、女の子らしい柔らかい香りがするな。

 

「……実は俺って結構匂いフェチなんだよね」

 

「嫌なカミングアウトね、それ」

 

「ごめん。でも、俺は……春雛の匂いって、優しい香りで好きだよ」

 

 俺は春雛の耳元で囁いた。

 

「恥ずかしい事ばかり言って、誤魔化さないで、キョウ」

 

 口ではそういいながら、春雛も満更じゃなそうな顔をしている。

 俺は彼女の長髪をいじるように撫であげる。

 

「本当に綺麗な髪、サラサラしてる。さわり心地抜群だ」

 

「ありがと。でも、キョウはずるいなぁ」

 

「どうして?」

 

「絶対に私が断らないのを知っていて、迫ってくるんだもの。本当にずるい」

 

 可愛く唇を尖らせて言う彼女、その表情の方がずるいぞ。

 春雛は俺の言う事はあまり拒まない。

 ずっと仲のいい幼馴染だったから。

 もちろん、本当に嫌な事は俺がしないのを知ってるからだ。

 

「そういうのはお互い様だろ。春雛もずるい」

 

「何が?」

 

「魅力的過ぎるって言う所が、ずる過ぎるだろ」

 

「……あっ……バカ」

 

 照れながら“バカ”と言われると、愛されてるなって思える。

 うっとりとするように彼女に俺は微笑みかける。

 やばい、これは俺自身、押さえつけるのは無理ってもんだろ。

 

「なぁ、春雛。そろそろいいかな?」

 

「……うん」

 

 こくりと頷いて俺に身体を預けていた彼女はベッドに座りなおす。

 俺の方をしっかりと見つめながら、濡れた唇で彼女は言葉を紡ぐ。

  初めての事に春雛は怯えてるようだけれど、俺はそんな彼女が愛おしい。

 

「見せてもらうぜ、春雛の可愛い所……。俺にもっと春雛を好きにさせて欲しいな」

 

「……うぅ……バカ、キョウのバカぁ」

 

 この可愛さ、罪と言わずに何と言う?

 顔を真っ赤にさせる春雛は軽く深呼吸してから、

 

「……心の準備、出来た?」

 

「出来てない。出来てないけど、頑張る……」

 

 春雛が自分の服に手をかけ始める。

 俺がその行動をマジマジと見ていると、春雛は俺を一瞥して言う。

 

「こっちを見ないでよ、変態。後ろを向きなさい」 

 

「……すみません」

 

 怒られる前に俺は壁側を見る事にする。

 これからする事の方がいやらしいと思うのだが、春雛は怒ると怖いので素直に従う。

 女の子らしいじゃん、そういうのってさ。

 でも、服を脱ぐ衣擦れの音とか聞こえて逆にやらしいのはお約束だ。

 しばらくして、彼女はようやくOKの合図を出してくる。

 

「もう……いいよ」

 

「……わかった」

 

 俺が振り向いて……思わず、身体が硬直してしまう。

 そこに立っているのは俺の見た事のない春雛の姿。

 

「うぅっ、さすがだ、春雛」

 

「きょ、キョウ……」

 

 恥じらいの表情を浮かべ、俺を見つめる彼女が口を開く。

 

「何か言ってよ。黙ってられると……余計に恥ずかしいじゃない」

 

「……綺麗だと思う。本当に……春雛って可愛いな」

 

 俺は春雛の白い肌が見え隠れる身体に触れて抱きしめた。

 

「――本当に似合うよ、そのメイド服」

 

 王道である紺色を基調とし、白色フリルのついたドレスタイプのメイド服。

 数あるメイド服タイプの中でも、清楚な春雛にはぴったりな印象だ。

 最近はメイド服も種類が増えてきて、メイドマニアとしてはたまらんのです。

 推定Fカップの春雛のためにオーダーメイドで仕上げた春雛専用メイド服。

 これも春雛に似合って可愛いんだ、えへへ。

 ……長々とまわりくどい言い方をしてすみませんでした。

 なぜ彼女がコスプレ姿をしているかというと前回のストーカー事件で俺に春雛は「お礼に何でもひとつだけしてあげるわ」と言ってくれたのだ。

 ふっ、このチャンスを逃す男はいないだろう。

 

「コスプレ初体験、おめでとう。春雛、猛烈に可愛いぞ」

 

「うぅ、あまりそう言われても嬉しくない。私も軽率なことを言ったわね」

 

 羞恥に赤く頬を染めて、春雛はもう一つのラブリーアイテムを装着。

 ネコ耳メイドならぬ、それはもうひとつの伝説。

 

「ここにまたひとつの伝説が誕生した」

 

 俺は感動に涙しながらその名を口にする。

 

「その名もウサギ耳メイド!!」

 

 ぴょこっと可愛い白いウサギ耳カチューシャも装着したラブキュートなウサ耳メイドの春雛がそこにはいた。

 思わず見惚れる胸の大きい彼女に合わせて、全体的なバランスを調整し、艶かしい印象を受けるメイド服との究極コラボレーション。

 コレに感動せずに何に感動しろ、と?

 

『キョウ。ご主人様って呼んでもいいかしら?』

 

 春雛が俺の専属メイドさん!?

 

『ウサギは寂しいと死んじゃうから。たっぷりと可愛がってね、ご主人様』

 

 胸の谷間のちら見せ効果もあり、ウサ耳メイドである春雛の魅力は倍増する。

 ……いいなぁ、ウサ耳メイド、俺の中でネコ耳メイドを越えたなぁ。

 網タイツバニーさんとは違う、ウサ耳メイド用のたれ耳気味なカチューシャ。

 お値段は数千円だが、これもセットでつけて正解だった。

 俺が内心、大興奮していると春雛は自分の格好を鏡で眺めながら、

 

「恥ずかしいわよ。こういうの……初めてだし」

 

「……その初々しい感じがいいよ。それじゃ、少し脱いでみようか?」

 

「キョウ、あまり調子に乗ると笑えなくするわよ」

 

「すみません」

 

 目がマジです、春雛も調子を乗って怒らせると超怖い。

 ……俺はある程度の興奮を抑えながらもメイド姿の春雛を抱き寄せる。

 

「怒らないでよ、春雛。本当に可愛いんだから……ウサ耳メイド服、最高」

 

「キョウの趣味は何か変。幼馴染の今後について検討しましょうか?」

 

「そういう言い方はマジでへこむからやめてください」

 

 痛い、春雛の視線がかなり痛いよ……。

 俺は春雛のご機嫌とりをしつつ、いかに春雛が可愛らしいかを褒める。

 

「……可愛い。春雛って、何でも着こなせるからすごいよな」

 

「褒められているのかしら?」

 

「本当だって。だから、今度はこっちの別タイプのメイド服も着てみてくれない?」

 

 俺が笑顔で春雛にもう一着を見せながら言うと、彼女は笑いながら俺に囁いた。

 

「調子に乗ると笑えなくするって言ったわよね。……そうだ、今度はキョウが着てみてよ。コスプレ初体験……きっと似合うわ。ええ、本当に似合いそう」

 

 め、目が笑ってませんよ、春雛さん?

 俺は春雛の怒りが爆発したのを悟りつつ、冷や汗を浮かべながら、 

 

「お、男はメイドではなく執事服が似合うのだと思うのです」

 

「キョウのメイド姿が見たいなぁ。可愛い恋人だって言ってくれるなら、私のお願いくらいは聞いてくれるわよね、私の大好きなキョウくーん?」

 

 まるで俺の幼馴染、久遠を彷彿とさせる小悪魔的な微笑み。

 ……やばい、俺は春雛の変なスイッチをいれてしまいました。

 ジリジリと俺は身の危険を察してベッドから後ろに下がっていく。

 

「俺には女装趣味ないですよ?知識はあっても経験はないです」

 

「私にもこういう趣味はないわ。それなのに、私にだけさせておいて、自分だけ満足するって不公平だと思わない?……私にも楽しませて欲しいわ」

 

 俺はいつしか、壁際まで追い込まれて、そのまま春雛に押し倒される。

 ウサ耳メイドに襲われるご主人様!?

 ……なんていう興奮も俺は襲われる立場に動揺してそれどころではない。

 

「世の中、男の女装は見たくない人が大半だと思うんだけどさ」

 

「私が見たいから。それに美男子の女装なら需要があるってこの前久遠も言ってたし」

 

 何を春雛に吹き込んだ、久遠。

 俺は押し倒されたまま、服に手をかけられて焦りまくる。

 マズイ、このままだと“キミが主で俺がメイドで”状態になってしまうではないか。

 そんなバニーメイドに襲われている最中、俺の部屋の扉が開いた。

 

「――お兄さん、仔猫の飼いかたについてネットで調べたいので、パソコンを借りたいんですけど……。あれ、春雛さん?そ、その格好は……失礼しました」

 

 麗奈の思わぬ登場に助けられた俺、ある意味ピンチにも追い込まれたが。

 唖然とした麗奈、ドン引きした様子は春雛相手なので控え目だ。

 何も見なかったことにしよう、と麗奈が部屋から去ろうとする。

 

「待って、麗奈さん……」

 

「え?春雛さん?私、別にそう言うのに興味ないですから、存分に兄と変な世界に入り込んでください。そ、それじゃ、私はこれで失礼しますから。お願いします、は、離してください。私は誰にも言いません」

 

「残念……逃がさないわ。麗奈ちゃんも着てみてよ」

 

 有無を言わさないというのはこういうことだ。

 麗奈を掴まえた春雛はにっこりスマイルで言う。

 よほど、このコスプレが気に入らなかったのだろう。

 ひとりで恥は味わいたくないと、道連れとして麗奈を俺の前に差し出してくる。

 

「キョウ、彼女にも何か衣装を用意してあげて。もちろんできるわよね?」

 

「分かりました。すぐに用意するから……ハッ!?」

 

 麗奈がものすごく怖い顔でこちらを睨みつけている。

 春雛や久遠には逆らえない麗奈の怒りはこちらに向けられていた。

 

「きっと麗奈ちゃんも可愛いわよ。ふふっ、絶対に逃がさないからね」

 

「……うぅ、部屋に早く帰りたい」

 

 嘆く麗奈、今日ばかりは同情をする。

 俺はダブルメイドの桃源郷をしばらくの間楽しむのだった。

 ちなみに言わずとも分かるだろうが、妹の好感度はめっちゃ下がりました。

 

「――コスプレ好きの変態な義兄を持った我が身の不幸を呪います」

 

 うおぉ、俺と麗奈の距離は果てしなく遠くなるばかりだ。

 

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