これまでとこれから
一か月ぶり。
割と完全にスランプ入ったもんで、二話投稿。
それから先のことは、記憶が曖昧になってしまっている。この話をするときには必ずこう言うことにしているのだ。
だから平宮の話を聞き終えた大黒正は不満そうに口を尖らせ、
「お前、そっから先が大事じゃねーか。中には、なんだっけ? やおなんとかってのは居たのか?」
「覚えてないよ。中学一年のころの記憶なんだからさ」
「今俺らが高三だから、五年くらい前ってことだろ? 信じられねーよ」
午前中の授業を終え、帰宅の途についている二人は何の気なしに頭上を見上げた。大きな羊雲と消えかかった飛行機雲が夏の到来を表していた。
あの日も、こんな風に暑かったように思える。檻の中には、確かに彼女は居た。しかし、日を経つごとにその現実は陽炎のように掴みどころが無くなってしまったのだ。
あれは現実だったのか、退屈すぎて見えてしまった白昼夢だったのか。どちらにしても忘れないようにこうして口に出して誰かに聞かせているのだ。
照り付ける夏の日差しに目を細めながら思う。あの日もこんな夏の一日であったなと。
お前さあ、と大黒が尋ねる。
「先週面接試験で、受かったようなもんなんだろ」
「うん。指定校だからね」
「そっからどうすんの」
「んー、一人暮らしかなあ」
こちらの回答に不服なのか、彼は頭を掻きながら面倒臭そうに言う。
「なんのために行くんだってことだよ。将来の具体的なビジョンとか決まってんのか?」
「まだ、かなあ。そういうのは大学行ってから考えようかなって」
石ころをけっ飛ばしながら答える。石はころころ転がって排水溝に落ちていった。
「同じようなもんか、俺もお前も」
少し安心したような男の口調に平宮が聞き返す。
「そっちも決まってないんだね」
「そうだな。いまいち、自分の人生ってものと向き合っていないんだよな。だから将来の夢も曖昧で具体的なビジョンがない」
悩ましげに頭を抱える振りをしていた大黒は我に返って告げる。
「まあ、それもこれも大学入ってからだよなあ。じゃ、俺はこっちだから。さらば」
「四年後までに見つけていれば、大丈夫だよ。きっと」
本当だろうか? と自分の心に尋ねながら。彼は夏の住宅街を歩いていた。