見世物小屋にて
初投稿です。
R15タグがついていますが、予定は未定ですので全年齢のものに変容する可能性もございます。
この作品は私の自己満足、私の書きたいものを書こうと思っているので、萌え萌えな女の子や秀逸なギャグが飛び出すことはありません。
そんな感じでどうぞ、よろしくお願いいたします
何をしようにもやる気が起きない。そんな時期というのが人生には必ずある。
だから僕、平宮隆平に与えられたその見世物小屋はまさにうってつけの暇つぶしと思えたのだ。場所は自宅から程近い公園、真夏の昼下がりに突然、外出をしようだなんて思ったのはどう考えても不自然だった。
今にして思えばその時から僕は大きな運命の手のひらの中に引き寄せられていたのかも知れない。今となっては安っぽくなったこの言葉も、僕と彼女の出会いに関してはぴったりの表現だ。そうに違いない、そう信じてる。
偶然に偶然が重なった運命、そう思い込んではいるものの確たる証拠は無い。ただ、彼女との出会いはあまりにも衝撃的だったのだ。自分が運命に選ばれた物だと考えてしまうほどに。
夏休みも半分が過ぎたある日、僕は公園で奇妙な見世物小屋の前に立っていた。年季が入ったテントには『見世物小屋』の看板が吊るされているが、客が入っている様子は見られない。
「こんなもの、いつの間に出来たんだろう?」
普段からあまり外出をしない流石の僕も近所の公園の施設は把握している。しかし、子供の為の遊具や今となっては大人の為のものとなっている、引退したSL以外にこんな大きなものは無かったはずだ。
それにしても、年号が平成となって久しいこの時分に見世物小屋の存在を実際に目の当たりにすることになるとは夢にも思って居なかった。
見世物小屋と言われれば胡散臭い化け物が登場するイメージしかない。しかも、それは全部作り物で子供だましと呼べるレベルのものらしいじゃないか。今の時代、そんなことは誰でも知ってる。大人はもちろん、子供も同じだ。
だからこの静寂さも納得というものだ。きっとここの座長も客が入らなくて泡を吹いているだろう。むしろ今日までよく巡業を続けられたものだ。
いや、ひょっとしたらこの公園が初お披露目という可能性もある。テントはどこかから拝借した上での初巡業、ありえない話ではない。
いつもなら『だからなんだ』と鼻で笑っているだろうが、この時の僕は退屈さと真夏の日差しにウンザリしてしまっていた。だから、肝を冷やすのと日陰を求めて、恐る恐るだがそのテントの中へ足を踏み入れてしまったのだ。
中に入ると開けてビックリ玉手箱。みたいなことは全く無くて、屋内は狭苦しい客席とステージはステンレス製の棒で仕切られているだけの簡素なものだった。
ガタガタと何か硬い物を運ぶ音が聞こえたかと思い、前を向くとステージの中央に一人の男が立っていた。
男は風情もクソも無いような作業着を身にまとい、紅のカバーに覆われた鉄の箱に向けて何かを試みている。
見てはいけない舞台裏かも知れなかったので、僕が踵を返して立ち去ろうとすると、
「どなたさん?」
作業着の男がこちらを見てそう尋ねてきた。カバーから身を出し、中身は窺わせないといった配慮がみられる。無精髭を生やした男の年齢は三十代後半くらいで、意外と若い。
「外の見世物小屋っていう看板に引かれてつい……準備中でしたか?」
素直に僕がそう言うと作業着の男は憮然とした表情で、
「準備中だが。ボウズ、お前には友達が居るか?」
突拍子も無いその質問に対し、反射的に頷いた僕に向かって男は言った。
「ここ、俺が経営してるんだけどよ、見世物小屋なんて珍しいだろう? けど、所詮は子供だましとか言っちゃってお客さんが入らないであろうことは俺も重々承知しているんだよ。だからなら、ボウズ。俺が言いたいのはな」
「子供のようなピュアな心を持ち続けてくれ、ですか?」
「全然違う。そんな偏見をぶちこわす為の特別先行公開をしたいと思ってるんだよ」
笑顔を見せる男だったがその真意は全く掴めない。どうして僕なのだろうか。
「ボウズが『凄い!』 って思ったなら友達にも教えてやってくれ。宣伝になる。だから、俺は今からボウズにこのとっておきの見世物を見せてやるから、素直な感想を聞かせてくれよ」
「……分かりました」
とりあえず、そう頷いておいた。よいしょっと、男はカバーを外していくが掛け声と作業着の所為でおどろおどろしい雰囲気は全く無い。
「そんな遠くじゃなくてもっと近くに来いよ……よし。んじゃ、行くぞー。これは日本の山奥で発見した女性……」
今年で七百三十七歳になる、八尾比丘尼様でございます。と言って男はカバーを剥がした。