第一章 満月の夜、僕は使徒になる。【7】
少しして、僕が渡した服に着替えたアリーシアが戻ってくる。
「説明、してもらえる?」
開口一番、アリーシアは言った。
「うん、説明するよ。その前に、ちょっとソファに座ってくれないかな?」
「なにするつもり?」
「大丈夫。やらしいことはまだしないから」
「……まだ?」
「冗談です。しないから、ちょっと座ってよ」
アリーシアは渋々ながら、ソファに腰掛けた。
僕は洗面所に向かって、そこから櫛と髪留めのゴムを持ちだして、居間へと戻る。
ソファに座るアリーシアは訝しむように僕を見ている。
僕はそれに両手を上げて、なにもしないことを示すけど、どうにも信用されていないらしい。
鋭い視線に少しドキドキしながら、僕はソファに座るアリーシアの後ろに回った。
「こんなに綺麗な髪をしているんだから、丁寧に扱わないと」
「ん」
櫛でアリーシアの髪を梳かしていく。
よく妹の髪を梳かしていたから、こういうのは慣れたもんだ。
アリーシアの髪は引っかかることがなく、とても手入れが行き届いていることが窺える。
梳かされている間、アリーシアは僕の行動を不審に思いながらも、時折、気持ち良さそうな表情を浮かべていた。
ある程度整えて、最後に長い髪を、ゴムを用いて後ろで結う。
「よし、これでいいかな」
「……なんでこんなことするの?」
「僕が君を愛でたいから、かな」
……。
「冗談だよ?」
「冗談に聞こえない」
「まぁ半分は本気だからね」
「今すぐにでも離れたいけど、事情を聞かなきゃならないし……」
なんというか、もうすでに変態扱いを受けている気がする。