第一章 満月の夜、僕は使徒になる。【3】
……あれ?
ふと、身体に違和感。血が抜かれたからか、少し貧血気味だけど、それでも頭ははっきりと思考を可能としている。
さっきまで動かなかった肉体の動きが解放されている。
加えて、どうしてか血を抜かれる前よりも軽いような気がする。なんでだろ。
それはまぁいい。
おいておこう。
とりあえず、今は首筋に噛みついた少女を、っと。
そう思ったのだが、すでに少女は僕から牙を抜いている。
息を荒くしていたさきほどまでの様子とは打って変わって、安らかに、寝息を立てて眠っている。
血を吸ったおかげで、回復したのかな。
首筋に手を伸ばしてみる。
そこには確かに小さな穴のようなものが二箇所ある。
触れた手を見てみると、赤い血痕がそこには残っている。
やっぱり、吸われたんだよな。
そう自覚して、それでも生きていることを不思議に思う。
大抵のフィクション作品とかだと、吸血鬼に血を吸われた人間は死んでしまうか、吸血鬼のしもべになるかの二つの結末に分類される。
だけど僕は生きている。
だとしたら、僕は後者――吸血鬼のしもべになったのかな。
少しありえない妄想だけど、でも、実際に血を吸われたし。
考えても答えはでない。
答えを持つのは、僕の腕の中で眠りこけている少女だけだ。
僕は少女の身体を背に乗せる。
ここに残していくわけにもいかないし、なにより、僕がこの少女に一目惚れをした、もとい、少女のことが気になってしまっているのだ。
とりあえず家に連れて帰るけど、決して誘拐ではない。
それだけは言っておく。
でないと僕が本当に犯罪者になってしまうから。あくまで彼女を保護することと僕に起きた状況を把握するためなのだ。
誰にするでもなく、心の中で言い訳を残して、僕は少女を背負って帰途に着いた。