表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕の愛しい吸血姫  作者: 大成ケンジ
第一幕―満月の夜、僕は使徒になる―
2/170

第一章 満月の夜、僕は使徒になる。【1】

世にも綺麗な少女が倒れていた。



満月の月灯りに照らされて、その存在を主張するように燦然と輝く金色の長髪を乱れさせて、アスファルトに横たわる少女。



その日の僕は、いつも通りに学校に行って、授業を受けて、家から徒歩五分のコンビニでのアルバイトを終えて、家に帰宅する途中だった。



その道中に倒れていた少女を、僕はすぐさま駆け寄り、抱き起こした。



「大丈夫ですか?」



返事はない。


整った顔には少しの汚れと汗が見られる。僕はポケットからハンカチを取り出してそれを拭う。



規則的に繰り返される呼吸は荒く、少女の様態が悪いことを示している。



すぐさま最寄りの病院を思い浮かべてみるが、一番近い病院でも二十分はかかってしまう。携帯で救急車を呼ぶという手もあるけど、残念ながら、バッテリーが切れてしまっているので無理だ。



「…………血…………」



少女の小さな唇から、吐息のように小さな声が漏れた。



『ち』という音。



それを聞いた僕は、少女がどこか怪我をしているのじゃないかと思い、少女の四肢を見渡す。



少女はいわゆるゴスロリ服と呼ばれる服装に身を包んでいて、変に露出している箇所が多いので、これはなかなか嬉しい……いや、目のやり場に困るのだが、見た限りでは出血している箇所は見受けられない。



もしかして、僕は少女の『ち』という音を間違って解釈したのかもしれない。それか、『ち』という音以外にもなにかを言っていたのか。



「ねえ、だいじょ――」



訊ねようと、少女の顔を見ようとして、僕は固まった。



あまりにも近過ぎる。それこそ、ほんの数センチどちらかが身動きを取れば、唇と唇が重なってしまいそうな距離に、少女の顔があった。



蒸気して赤くなった頬。ふっくらと盛り上がった桃色の唇。美しく長いまつ毛。少女が僕に身体を寄せたことにより、密着した腕に伝わる胸の感触。



どれもが僕の心臓の鼓動を高まらせ、思わず唾をごくりと飲んでしまう。



下手に動かすと、僕がわいせつ罪に取られてしまうような危険性もあるため、しばしの膠着状態のままでいると、不意に少女が力を失くしたようになだれ込んできた。



それを受け止めると、僕と少女は地べたで抱き合うような形になってしまった。こんな綺麗な娘を抱きしめられるなんて、とんだ役得だよなぁ……とか思っている場合じゃなかった。



僕の肩に顎を乗せる少女の荒い息はそのままで、僕はどうすればいいのかわからず、とりあえず少女の背を撫でることしかできない。



それでどうにかなるかはわからないが、病気の人にはよくこうしているような気がする。



こういうときには、自分に看病の経験がないことを恨みたくなる。



といっても、僕も妹も身体が頑丈だから、滅多なことがない限り病気なんかしないので、仕方がない。



不意に、首筋をなにかがなぞった。温かくて、ざらざらしていて、それでいて水っ気あるなにか。



全身を駆け巡る悪寒。


脳内に鳴り響くレッドシグナルに、僕は反応することができない。



金縛りにあったかのように、凍りつく肉体。



動かない。



動かすことができない。



指先から足先まで、まったく動かない。



何者かに身体のイニシアティブを握られたように、こちらの命令を一切受け付けない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ