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プロローグ

切ない過去を持った高校生1年生の女の子、白。

彼女の悲しく、でもとっても暖かい恋愛の物語。

雲を眺めていた。

夕焼けに消えるその雲は一体何色なのだろう。

赤?いいや違う。もうちょっと淡い色だ。

茶色?これも違う。蒼?いやいやもっと明るい。

思えば雲の色を忠実に表現する事なんて出来っこないのだ。


雲は常に流れ、形を変える。私の心のように・・・。



4月9日。一昨日入学式を終え、今日から学校生活が始まる。

私の名は桜木白サクラギシロ。現在登校中。

私の学校は県内で特に目立つ学校でもなければレベルも高くは無い。

学力がいたって普通の私は、いたって普通の学校に入学したのだ。

かといって影が薄い、暗ーいキャラではない。

中学では文化委員長という役目を果たし、得意のピアノでは

多くの賞をとり、比較的目立つ生徒をやってきた。

もちろん高校でも積極的に活動し、ピアノも部活などで生かしていくつもりだ。


「白ー♪おはよっ。」


右肩に圧力を感じて振り返ると、そこには私の右肩に左手をポンと乗せ

息を切らしながら笑うケイがいた。

私は恵に笑い返しながら彼女が走ってきただろう道のりを目でたどった。

結構急な坂道で、歩いていても疲れるこの道。

現に今私も足が痛い。この魔の坂道を恵は走って登ったのだ。


「この坂、一気に登ったの??さすが元陸上部。かっこぃー♪」


「まぁね♪・・・でも元ってわけじゃないよっ。・・・高校でも続けるつもりだしっ☆」


私のひやかしに恵は威張って答えた。

・・・だがやっぱり苦しそうだ。

本日の授業は(学活・国語・物理・歴史・数学・音楽)。

幸いにも英語はないが、4教科の教科書が入ったスクール鞄をしょいながら

この急な坂道を一気に駆け登るのは、いくら陸上部でもきついってわけだ。

私は恵の息切れが収まるまでゆっくり歩きながら、話しかけるタイミングを待った。


「ところでっ今日転校生が来るって言うのは知ってるよね?」


すっかり息切れが収まった恵が私に問いかけた。

さすが陸上部。呼吸を立て直すのも早い・・・。

って・・・え?


「転校生?」


私は目を見開いて恵を見た。その顔がおかしかったのか彼女は失笑した。

恵は笑ったのがばれない様にコホッとせきをして、うん と言った。

そして大きな瞳をパチパチさせ、知らなかったの・・・ とつぶやいた。


「だって入学式は一昨日だよ?なのにいきなり転校生って・・・。」


あんまり意味無いじゃん。 と言おうとしたがなんとなく伏せておいた。


「まぁでもしょうがないんじゃん?家の都合とかあるし。急に決まったのかもだし。」


恵が前を向き、ため息交じりに答えた。

息が白い。もう4月なのに周りはまだちょっと寒い。

そっか。いろいろな事情があるんだもんね。

『あんまり意味ないじゃん』なんて言うもんじゃないや。

長い坂がやっと下りに入った。


その後は さっき私の顔見て笑ったでしょ、と恵を叩いたり、

担任の先生は男がいいとか、委員会は何に入るとか、

高校生活予想図を話したりしながら学校へと向かった。




通学途中に横切らなければいけない、辛い思い出を横目に・・・。





私と恵は1年3組。このクラスで前の中学校から来たのは私達だけだ。

1時間目、2時間目と授業がすすみ、3時間目の物理に入ろうとしている。

授業の合間の休憩時間は10分間。

授業中は、ほとんど顔見知りがいないこのクラス内に緊張の空気が走っている。

そのせいか、この休憩時間は一転してやけに穏やかだ。

他のクラスから友達が来たりしてテンションが上がる子もいる。

私の後ろの席の子もそうだ。2時間目の国語ではプリントを受け取るだけで

挙動不審になっていたのに、今は隣のクラスの子ととても自然に笑っている。

他の子もみんなそうだ。知らない子同士の会話はまだない。

まぁ出会って二日で仲良くなるのも難しいしね・・・。

という私も今日は恵としかしゃべっていない。人見知りは激しい方なんだ。


さて残りあと4分。教科書でも出しているか。


「物理・・・教科書・・・資料・・集っと。ぁれ??」

引き出しから出てきた一冊の本を見て、私は血の気が引いた。


「どうしたの?白。」


引き出しへ手を伸ばしたまま固まった私を見て、恵が尋ねた。


「もしかして・・・なんか忘れた??」


図星。忘れた上、もってきたのは中学の時の資料集だった。

私としたことが・・・何をやっているのだ・・・。

ただ忘れるだけならまだしも、こんな余計なものを持ってきてしまったのか。

せめてこの資料集が鞄に入ってなければ魔の坂道で得た足の痛みも

少しはマシだったろうか。いやいやそんな事言ってる場合ではなくて!

借りなきゃ。

最初の授業から忘れ物!

イメージ悪すぎ!!あと3分!間に合うかもっ!!


勢いよく立ち上がって隣のクラスに走った。

恵も必死でついてくる。

走ってる間、『最初の授業で道具を忘れて皆に笑われる私』を

想像してしまったが、大げさに首を振ってもみ消した。

その走りながら首を振る行動を、後ろから走ってきていた恵は

どう思っただろうか。きっと この人変だ と思ったに違いない。


5秒ほど走ってたどり着いたのは1年4組。

たどり着いて初めて気付いた。このクラスには知り合いがいなかった・・・。

でも1組と2組は階が違うので間に合いそうも無い。

ぁーもう!誰か話しかけやすそうな子に頼んで借りるしかないかぁ・・・。

後ろから走ってきた恵は私と違って息を切らしていない。


「借りる気??誰に??」


壁に寄りかかる私の肩はまだ上下に動いている。

答える余裕はなく、ただ辺りを見渡した。

座っている子、しゃべっている子、黒板を消している子、さまざまだ。

このクラスの時間割が目に入った。1時間目 学活。2時間目 物理。

ほっとした。4組はさっきの時間物理を終わらせたらしい。

すこし安心した私は体制を立て直し、再び生徒の方に目を向けた。

話しかけやすい子=優しい子=可愛い子 という私の中の勝手な方程式にそって

目は動く。ロッカー側からゆっくり黒板側に視線を流したそのとき、

一人の生徒と目が合った。

優しそうな子・・・。

可愛い顔してる・・・けど


オトコノコ。


だんだんその子の顔がはっきりしてきた。

ぇっまってまって。こっちに・・・来る??


「誰探してるの?」


彼の意外と男っぽい太い声にびっくりしながらも、

なんとかこの状況を伝えようとした。


「ぁのっ。物理の資料集・・・借りてもいいかな・・・?」


驚いた表情で私を見た彼は 待ってて と言って

廊下から3列目、前から5番目の席へ小走りした。

引き出しから物理の資料集を出すと、また小走りで私の元まで

持ってきてくれた。


「はい。初日から忘れんなよ。」


そういって彼は、鼻の頭に人差し指を当てながらとても可愛く笑った。

癖かな と思って私もつられ笑いをした。照れも少々あるが・・・。


「ありがとう。」



そのとたんチャイムが鳴り、みんながばたばたと騒ぎ出した。

私もいそいで3組へと走る。が、

廊下は来る時とは違ってみんなが移動するので思うようには進まない。

そんな中、後ろを振り向くと彼がまだ立っていた。

よく見るとなんとなく手を振っているように見える。

からかっているのかわからないが、とりあえず手を振り返した。

この人ごみの中でそんなことしても見えていないかもしれないが・・・。


チャイムが鳴り終わると同時に席に着いた。

人ごみの中走ったせいなのか、他の理由なのかはわからないけど

すごくドキドキしてる。


2分間がとても長く感じられた。


とてもしあわせな時間だったように思える。


チャイムが鳴ってからしばらくして物理の教師が来た。

まず自己紹介からはじまって物理の楽しさや

教師になろうと思ったきっかけなどを話し始める。

ユーモアな教師が話す、笑いの含まれたその話にときどき生徒は笑い、

教室の雰囲気が和やかになった。


さて、 と授業にはいった。教科書2Pを開いて、

「中学の復習」というページを目でなぞる。

私は、重要語句にアンダーラインを引いたりノートに写したりと

真剣に授業に取り組んでいた。


「はい、では次のページの写真を見て下さい。これは実際の写真です。

 下のほうに『資料集参照P17〜』と書いてありますね。皆資料集開いてー」


37人分の鉛筆の音とノートをめくる音しかなかった教室内に、ばさばさっという

 資料集を取り出す大きい音が36人分響いた。

その音が1人分足りなかったのは、私が原因。


私は資料集の裏表紙を見るのに夢中だった。



『1年4組  小林 雪』



右下に小さく書かれた名前。

男の子の字とは思えないくらい丁寧に書かれたこの字を、

私は小さくつぶやいた。



  「こ・・・ばや・・・し  ゆき・・・」








放課後、教科書を返しに4組へ向かった。恵も一緒だ。


「ねぇ、さっきの子かっこよかったねぇー♪

 なんて名前だった?へぇー小林雪コバヤシセツって言うんだー☆」


「ぁっ ちょっと!!」


4組までの廊下で、私の持っていた資料集をさっと取り、

彼の名前を読み上げる恵。なぜか奪い返して赤くなる私。

あ・・・そうか、「雪」で「セツ」っても読むんだった。

ユキだったら女の子みたいだしな・・・。

そっかー。セツ君かぁ・・・。

そして小走りで歩き続けた。この行動は恵と距離を測るための

ささやかな反抗だったのだけれど、恵には聞かないみたいだ。

何食わぬ顔で私のすぐ後ろをついてきている。

足の長さの違いか?もぅ・・・。


恵をつれたまま4組に着いた。

4組のドアを開けようとして立ち止まる。

あっ・・・ミーティング中だ。何だろう。

閉められたドアのガラスの部分から、そっと教室内を覗いた。

もちろん恵も。


黒板には「千葉県ちば私立南高等学校」と書いてある。

4組では転校生の紹介を行っていたんだ。これは転校生が元いた学校だろう。

私は顔を思いっきりガラスにくっつけた。よく見えなかったからだ。

教卓の側には先生と、少年が一人いるようだった。


この角度ではよく見えないので、後ろのドアのガラスから覗く事にした。

恵はすでに移動している。さすが恵・・・行動が早い。

後ろのドアに頬をつける。


「あっ、顔見え・・・」


私は言いかけてやめた。黒板に書かれた文字がすべて読み取れた


「千葉県ちば私立南高等学校 小林雪」


━━━━━━━ユキ君!!?



心臓をドアにぴったりつけているせいか、

心臓の音が体を通じて伝わってくる。やけに速い。

なんでこんなに速いのっ。

止まれっ。止まれっ。

いや止まっちゃだめだろっ。死んじゃうから!!

治まれっ。治まれっ。


一人頭の中でパニックに陥る中、恵は冷静だ。


「転校生って・・・あの人だったんだね」


恵のその言葉には驚きの表情があった。


「うんっ・・・!!」


私のその返事には喜びの表情があった。


ガタガタッ・・・

イスが動く音。ミーティング終了らしい。

後ろのドアをあけ顔をのぞかせる。そして彼の席を探す。

確かこっち側から3列目で前から4・5・6番目くらいだったはず・・。

5時間くらい前の記憶を頼りに、目をその方向に走らせると

彼の姿をすぐ見つけることが出来た。

よかった・・・。


にぎりしめていた資料集はすっかり丸まってしまっている。

あっ。これ返しに来たんだった。

さてどうする?大声で『こばやしくーん』って呼ぶの?

でもこのクラスに『小林君』がもっといたら困るし・・・。

『ユキくん』って呼んでみる??

でも恵の言うとおり『セツくん』だったらどうしよう・・・。

それになによりこんなところから大声で叫んだらみんなの注目あびちゃうっ。

雪君にも迷惑だよ・・・。


私が悩んでいる中、隣にいる人物がじれったい というように

叫んだ。


「小林くーん。いるー??」


「けっ 恵っ!!」


遅かった。


彼を含め4組生徒36人の視線がいっせいに私達に注がれる。

これは・・・想像以上に恥ずかしい・・・。


「ああっ。ワスレンボちゃん。」


そういって彼は歩み寄ってきた。

どうやらこのクラスに小林君は彼しかいないようだ。

ホッ とため息をつく。

クラスの人の3分の1がまだこっちを見ている。


「これっ、遅くなってゴメン。ありがとうね。じゃぁ・・・。」



早く用事を済ませて、みんなの視線を避けたい私は

丸まった資料集を彼に押し付けてこの場を去ろうとした。が、

またも好奇心旺盛な恵がしゃべりだした。


「あっ待ってよ白。小林君!名前、セツっていうの??かっこいいね♪」


「白・・・??それあんたの名前?」


小林君は恵の質問より私の名前の方に興味を持ったようだった。


名前を呼ばれたことでびっくりした私は

おもわず足を止めてしまった。そして下を向きながら答えた。


「うん・・・。桜木白といいます」


なんで敬語なのー。という恵の笑い声が聞こえた。

人見知りの激しい私はすっかり顔が赤くなってしまっている。

こんな顔は見られたくない・・・。

でも私はその後の彼の反応が気になったのでやっぱり顔をあげる事にした。

おそるおそる顔を上に向けると、彼の脚が目に入り、胴、首、と見えた。

最後に目線を合わせたとたん、心臓が激しく波打った。


彼は、鼻の頭に人差し指を当て、ニッコリと笑っていた。


「珍しい名前だね?」


その瞬間 緊張が解け、回りの時間が動き出した。

自然に笑うことが出来た。

変な名前だよね と笑うと そんな事ないよ と彼は言った。


その瞬間放送委員の手によって、各教室には下校の音楽が流された。

ショパンの『トロイメライ』だった。

気付けば周りに人はほとんどいない。

まだ友達の少ないこの校舎から、皆帰ってしまったんだ。

4組前には私と恵。それから雪君だけ。

単純な私はその曲を、彼と私が出会った記念の音楽みたいに思ったんだ。

私は話しかけた。


「転校生だったんだ。」

びっくりしたよ・・・


「うん。でも微妙な時期に来ちゃったみたいだな」

あっ 笑った・・・


「入学式一昨日やったばっかりだからね。」

私変な顔してないかな


「そうそう。でもクラス中みんな他人みたいだから

同じスタートふめるし、結構いいぜ」

あっまた鼻の頭に人差し指おいて笑ってる・・・


クセなの?と聞こうとしたとき 恵が「あっ私今日塾だ!!」と叫んだ。

私は一気に現実に連れ戻された。

恵が帰ってしまったら私は雪君と二人きりになってしまう。

だめだ、私も帰らなきゃ!!


「じゃあ私もそろそろ・・・」


「うん。じゃあね白ちゃん。」


わざと名前に『ちゃん』を付けてからかう彼に、

私はなんだか心地よい照れくささを感じた。



3組へ戻る途中、恵は何回も4組の方を見て、私に


「いいじゃーん。セ・ツ・君♪」


と小さい声で言って来た。


不思議な余韻に浸っていた私は上機嫌で、そんな恵を怒りはしなかった。

恵が何回も振り返っている所からして、雪君はまだ4組前の廊下に

立っているのだろう。

私は勢い良く振り返って、そして叫んだ。


「じゃあねー!!ユキ君♪♪」


なぜかためらいはなかった。

「セツ」君かもしれないのに。

すると今まで「いいじゃんセツ君」とひやかしていた恵が

私の言葉に驚き、雪君に


「小林君、セツ君じゃないのー!?」


と叫んだ。そのときの私はなぜか落ち着いていた。

自分が彼の名前を間違っているとは微塵も思わなかった。

彼の名はユキ君だ と、保証も無いのに信じきっていたんだ。

私達は歩き続ける。

恵は4組の方を向きながら、私は3組の方を向きながら

歩き続ける。






「ユキだよ!!」






 小林君の返事。恵が尋ねた質問なのに、その声は私に返って来たような気がした。

 

 私は彼に背を向けているが、分かる気がする。


 きっと今彼は・・・雪君は笑ってる。


 鼻の頭に人差し指を当ててニッコリ笑ってる。




そんな雪君を想像して、私は鼻の頭に人差し指を当てて思いっきり笑ってみた。







誰もいない3組。

今日使ったばかりの、新品の私の机。

私はこの机に今日の事をきざもうと考えた。

そして机の右側の手前の角に


[高校生活スタート 4/9]


と書いた。



なんだかすきとおった気持ちになった。


窓を開けると空は快晴。


雲ひとつないキレイな空。


この色は真っ青とはいえないが


水色でもない。


しばらくこの空の色にふさわしい色を


探してみたが見つからない。


空の色は、24色の色鉛筆の中には無いんだ。






                小林 雪 君。



    過去に悲惨な恋愛をした私にとって、あなたは特別な人になりました。


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