みかんを上から剥くか下から剥くか
「みかんは上のポッチから剥くのが当たり前やん!」
レイコの罵声。もううんざり。こいつはなんでもかんでも俺のやることにゴチャゴチャ……。うるさい。
「みかんは下からが俺の流儀。いちいち、るっさいっての」
俺には俺のやり方がある。やわらかい下から剥いた方が剥きやすい。そんな事もわからんのか。
「あっのっねっ。ポッチから剥いた方が白いカスがとれやすいねん」
と、レイコはこたつの上から一つ取り、目の前で実践し始めた。
それを横目で見ながら白いカスを気にせずに一房口に放り込む。ひんやりとした冷たさが暖房でゆだった身体に気持ちいい。
「ほらね」
勝ち誇った顔で俺が剥いたみかんの横に自分が剥いたみかんを並べる。確かにレイコの方がカスが少ないように見える。
「そんな変わらんやん」
負け惜しみを言ってみるが当然レイコは自分の完全勝利を確信している。
「ふん」
漫画のように鼻から息を流すと、俺は残りのみかんを丸ごと口に入れ、次のみかんに手を伸ばす。今度はポッチから剥いてみる。
「?」
さっき自分で剥いたのと変わりない。剥く方向じゃなくてゆっくり剥くとかコツがあんのか?
俺が怪訝な顔をしていると、レイコは更に満足そうな顔をしてニヤニヤ笑っていた。めっさ、むかつく!
何もかも面倒くさくなりこたつに深く入り込み寝転がる。
「ちょ、こたつの中狭くなったやんか、もうちょっとハジによりぃよ」
レイコが軽く蹴ってくる。ほんとうざったい。抗議しようと思ったが、口の中にはまだみかんが詰まっていたために、
「んーんーんん」
言葉にならない音だけがでた。
あの後、悔しくてみかんの剥き方を検索しまくった。
下から指を入れ、二つに割り、さらに割った物を二つに割り四等分にする。その際、ポッチ側はくっつけたまま。見た目、花のように開く。そしてポッチ側から起こすように皮から取る。こうすると剥きやすい上に白いカスも取れやすいんだそうだ。
こたつの上に咲いたオレンジの花を見つめていると、
「何しんみりしとん?」
レイコが後ろから話しかけてくる。
「いや、別に」
「あ、なんか面白い剥き方してるやん」
こたつに入りながら、今剥いたみかんを見ている。
「いや、ちょっとね」
「何なに? その剥き方食べやすそうだね。教えてよ」
うざったいなぁと思いつつ、可愛いやつだ、とも思う。
みかんを上から剥くか下から剥くか。結局違いなんて無いのかもしれない。人間が二人いれば価値観の相違なんて数え上げればキリがない。こんな風に結局その違いなんて大した事ないのかもね。
なんて大層な事を考えながら、みかんを口に入れる。どんな剥き方したってみかんはみかんの味しかしない。
(未完)