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幼稚園日記!  作者: fumia
1/8

第一話:初めての通園日

>>薫

「桜、早く来なさい。」

「はい!ママ!」


 幼稚舎の制服を身に付け、赤い通学鞄を左肩に掛けた娘の手を引き、僕は玄関から外の廊下へ出て、戸締りをきちんと確かめる。


「じゃあ、行くわよ!」

「うん!」


 桜と一緒にエレベーターでマンションの1階に降りると、僕は彼女を胸に抱き上げた。そして、ロビーを突っ切って気持ち良い位に澄み切った群青色の大空の下に飛び出し、小走りで駐車場へ向う。


 そして、和樹の黒いアルファードの右側に駐車した僕のUC1型のインスパイアの前期モデルの左側の後部座席に桜を乗せてシートベルトで固定し、自分も運転席に乗り込んでエンジンを始動させた。


 僕の車にはどの車にも車内に、ETC、ルームランプに白色LEDランプ、カーナビと一体型の社外品のオーディオと、ダッシュボードのセンターパネルの上に左から電動の油圧計・油温計・水温計が並んだ三連メーターと乗員変更なしのタイプの6点式のロールバーが取り付けられている。ロールバーを付けた所為で車両自体は事故車扱いとなって価値が目減りしてしまったが、元々前世紀末頃に造られた、製造されてから優に30年から40年位たった廃車や事故車をレストアした、小さな傷と凹みだらけのボロボロの車ばかりで価値など元々無いに等しいから、僕自身は特に気にはしていない。

 さらにそのロールバーの助手席と運転席にサイドバーも増設し、ロールバーの運転席側のAピラーの所にシートベルトカッター付きの特殊ハンマー、助手席下のダッシュボードの所に、発炎筒と並べてスプレー缶タイプの消火器を常備している。

 そして全ての窓ガラスに防犯性能も備えた透過率70%の黒いガラスフィルムを貼って車内の様子が見えにくくし、2枚ある字発光式のナンバープレートの内、前にあるプレートの電力を遮断し、赤外線カメラに反応するとストロボを焚いてナンバーが読み取られる事を防ぐ機械を取り着けている。

 足回りとエンジン周りの改造に力を入れ、後ろのマフラーはステレンスの左右二本出しの直管低音マフラーに取り替え、ホイールを20インチのアルミに替え、ブレーキも4輪ディスク化して、大口径のディスクに4ピストンの対向ピストンキャリパーを組み込んでレーシングカーのそれの様に仕上げ、サスペンションをエアサスに替えて最低車高を10cmまで落として、サイドテールとフロント・リアエアロを取り付けてフルエアロ化している。

 僕の車には全てフォグランプが付いている。ヘッドライトと一体型になっている古い型ならそのままにして、フロントバンパーのエアロ部分のフォグ部分にそのままハザードランプを持ってくる。ハザードとヘッドランプが同じレンズ内にあって、フォグランプがバンパーに取り付けられた比較的新しい車ならそのままフォグランプをエアロに組み込む。そして、Y33や150クラウンの様にフロントバンパーにハザードとフォグが並んでいる車の場合はエアロにはフォグランプだけ取り付けて、ハザードランプはスモールランプと共にLED化して一体化させ、白いLEDで車幅灯を点灯させ、黄色いLEDでウインカーを明滅させる。そもそもフォグランプが付いていない車は、GT-R34のようにエアロを取り付けるときハザードの下に増設するか、エアロにはフォグランプだけにしてスモールランプにハザードも持ってくるような細工を施す。そしてGTウィングを着けたGT-R以外の車両にはトランクに赤いLEDの細長いハイマウントストップランプが付いた小型のリアウィングを取り付けている。そして汚れが目立ちにくいという理由で全部同じようなシルバーメタリックで車体が塗装されている。

 エンジンはターボならツインターボにして、必要ならボアアップや載せ替えても3L6気筒、NAなら3.5L以上の6気筒エンジンにしてスーパーチャージャーを着けて500馬力程度は出せるようにし、勿論ミッションも強化ATに交換し、リミッターも外し、200km/h以上は余裕で出せる位にはチューンアップしている。

 要するに走り屋仕様の、ドリ車仕立のVIPカーが僕の愛車達…という訳である。


 話を戻そう。

 さて今日は、前日に行われた入園式を除けば、桜が初めて聖リリカル女学院・幼稚舎へ初めて通園する、ある意味記念すべき日だ。

 幼稚舎からは、23区内や他の都内各所に住む子供達の為に通園バスを走らせているらしいが、僕は自分が車を運転できる事と我が家が近い所にある事から、バスは利用せずに家から直接桜を送り迎えする事に決めていた。


 幼稚園は、麗奈ちゃんとか聖羅ちゃんとか、同じ年頃のお友達が沢山いる楽しい所だ、と話した事が功を奏したのか、ハンドルを握る僕の後ろで、桜は膝の上に赤い通園バッグを抱き、ウキウキしながら鼻歌を歌っている。

 ただ、喜んでいるのは幼稚園にいけるからだけではないらしい。最近になって思い至ったのだが、どうやら桜は自動車でドライブするのを心の底から楽しんでいるようだ。やはり僕の子供だという事か……。

 それとも、単に母親の僕と一緒に居られるから楽しめている、と考えるのは親の自意識過剰だろうか?


 兎も角、車を飛ばせばたったの20分もない道程だけれども、僕は桜と談笑しつつ幼稚舎へ向かって車を走らせた。


 幼稚舎の正門を通り抜け、敷地の中へ乗り込むと、園舎のエントランスの正面に僕は車を停めて降車した。そして右側後ろのドアを開け、シートベルトを外して桜を地面に下ろすと、車を施錠して娘の手を引いて目の前の建物に向かって歩き出した。


 園舎の玄関の中へ入ると、もう通園バスが到着していたのか、桜と同じ深緑色の、胸の右側、丁度校章が刺繍された胸ポケットと対になる場所に花や昆虫等の形を模した可愛い名札を付けた制服を着た子供達が、何人かの先生達の間をうろちょろして騒いでいる。

 そんな中、僕は濃い紫色のトレーナーに紺色のミニスカートを履いて、その上から薄いベージュのエプロンを着たショートヘアの年若い女の先生を見掛けた僕は、

「佐々木先生!」

と、彼女に向かって声を掛けた。

 此方に気付いてパタパタとスリッパを鳴らしながら走ってきたこの女性の名は、佐々木……確か名前は希美とか言ったかしら?今年度、桜が所属する年少さんの『ゆり組』の担任を務める先生である。


 佐々木先生は僕と桜の前に立つと軽く会釈をし、挨拶をした。

「お早うございます。」

「お早うございます。」

「先生!おはよう、ございます!」

「はい、桜ちゃん、おはよう!今日から一緒にがんばろうね!」

「はい!」

「先生、今日から桜の事、どうぞ宜しくお願い致します。」

 そう、僕は深く頭を下げて娘を託した。

「分かりました。どうか、わたし達に御息女の事をお任せ下さい。」

 先生から胸を張ってそう言われると、親としては心強い。

「それでは、下園時間になりましたら迎えに参りますので……。失礼します。」

「はい、畏まりました。お待ちしております。」


「桜!先生の言う事は、ママの言う事と同じようにちゃんと聞いて、お友達と仲良くして良い子で過ごすのよ!」

 別れ際、僕は娘にきちんと言い聞かせた。

「うん、桜、良い子にする!」

「よし、良い子良い子。」

 僕が頭を撫ぜてやると、桜は目を細めてニコッと笑った。が、

「じゃあ、ママ、幼稚園が終わった頃に迎えに来るからね。バイバイ。」

と、車へ向かって踵を返そうとすると、途端に彼女の態度は激変した。

「え?あれっ?ママ!ママ!何処に行くの?待ってよ――!桜、置いて行かないで!ママ!ママ――!」

 狂ったように手足をばたつかせ、大粒の涙をボロボロと流して泣き喚きながら、桜は僕の後ろから抱きつくように僕のスカートの裾を握って執拗に引っ張った。


「こらっ!たった今『良い子にする』ってママと約束したでしょう?」

 僕は溜息を吐き、後ろへ体を向けると腰を落としてしゃがみ込み、桜と真正面から向かい合った。

 そうして娘の肩を優しく摩ってどうにかして宥めようと試行錯誤してみたものの、効果がないのか彼女の嗚咽は止まらない。

「桜、いい子にするから!いい子にするから!だから、ママ!行かないで!行っちゃダメ――!」


 単純に、母親と離れ離れになるのが嫌で嫌でしょうがないらしい。勿論そうして母親を求める仕草は愛らしい物があるし、親としては凄く嬉しい事には違いないが、何とも歯がゆい。何せ、通園バスを利用せずに保護者や介添人が直接送迎しているのは、我が家だけではない。全体の割合としてはずっと少数派かもしれないが、引っ切り無しに表に車が停まっては、母親とか父親とか、時にメイドや運転手といった使用人が幼稚舎に子供を預けて去って行く。無論中には桜のように泣き始める子だっていない訳では決して無いが、大多数はそのまま素直に別れ、他の園児達と合流してそれぞれの教室へと消えて行く。そうした様をまざまざと見せつけられていると、やはり居心地が悪くて恥ずかしく感じる。


 でも、やっぱり一定数こういうケースは毎度存在するのか、それとも幼児教育のプロとして元から弁えているのか、

「ねえ、桜ちゃん。桜ちゃんのお母さんはね、大事な用事があってどうしても行かなくちゃいけないんだって。……少しの間寂しくなっちゃうかもしれないけれど……。ほら、お友達も沢山いるし、先生も居るから、寂しくなんかないよ。ね、先生とあっちで一緒に遊ぼう。」

と、手馴れた感じで佐々木先生が助け舟を出してくれた。だがしかし……。

「やだ――!ママと一緒じゃなくちゃ、や――――!」

 全くもって効果なし。気の所為か、寧ろ火に油を注いでしまったようにも感じられる。

「すみません、ウチの娘が……。」

「いえいえ、初めての通園ですし。年少さんのような小さな子だと、こういう事はよくある事ですから。」

 仕方ないですよ、子供なのだから。そう優しく声を掛けられるのが却って辛い。


 途方に暮れて、どうしたものかと思案していると、また表に車が停まった音が聞こえた。

 余程上流階級のお嬢さんが乗ってきたのか、

「ここでいいわ。ご苦労様、柏木!」

「それではいってらっしゃいませ。お嬢様。」

と、少し仰々しいませた幼女と、その侍女かメイドらしい若い女性の声の会話が耳に入ってきた。

 それだけだとさっきからも何度か見聞きした遣り取りだが、突然その少女が、

「あら、桜、と薫小母様、じゃない!お~~い!」

と、何故か僕と桜の名を叫びながらトテトテと此方へ走り寄って来た。


 振り返ると、それは麗奈ちゃんだった。

「あ、お姉ちゃま……。」

 知っている顔に出会ったからか、急に桜が泣き止んだ。

「ごきげんよう、桜。今日から、一緒に幼稚園で過ごせますわね。」

「…………。」

「楽しみですわ。さ、行きましょう。」

 そう言って麗奈ちゃんは桜の制服の上着の左袖を引っ張ったが、

「でも……。ママも一緒じゃないと、やだぁ!」

と、桜は首を横に振って頑として動こうとしなかった。


「でも桜、幼稚園ではお母様と一緒にいる事は、出来ないのよ。誰も、お母様と一緒に居ないでしょう?」

「…………。」

 周りの園児達を見回して、誰も母親に付き添って貰っている子が居ないという事実を目の当たりにして恥ずかしくなったのか、桜は急に沈黙して下を向いた。


「……わかった。」

 突然顔を正面へ上げてはっきりとそう口にすると、桜は麗奈ちゃんの左手を自分の右手でしっかりと握りしめ、僕に背を向けた。

「じゃあ、ママ、もう行くから。終わった頃に絶対迎えに行くからね!麗奈ちゃん!桜の事、お願いね!」

「任して下さい!小母様!さあ、桜、行きましょう。こっちよ。」


 先生と麗奈ちゃんに導かれて靴箱へ向かい、中から出した白い上履きにきちんと履き替えて校舎の廊下の奥へと去って行く桜に声を掛け、車へ引き返す。

 ああは言っても未練がましくチラチラと僕の方を振り返る桜の様子に若干の不安を覚えたが、歳の割にしっかり者の麗奈ちゃんもいるし、きっと大丈夫だろう。無理矢理にでもそう思い込まないと娘の事が心配で辛かった。


 家に帰っても、やはり懸念は拭い去れない。

 ちゃんと新しく知り合っただろうお友達と仲良く過ごせているだろうか?多分無いだろうし、そうである事を切に祈るが、我儘を言って先生達を困らしていないだろうか?それとも大ポカをして嘲笑されてないだろうか……?気に病んだところでどうしようもない事は百も承知だが、嫌でも気になって家事にあまり身が入らなかった。


 簡単な昼食を拵えて食している間も、あの娘がちゃんと僕が作った弁当を食べているか?弁当の出来が地味過ぎたり、逆に派手過ぎたりして、他の母親達が子供に持たせた物と比べて変に浮いてないだろうか?そんな些細な事が逐一心の中に思い浮かんで、悩ましいったらありゃしなかった。


 ただ、買い物へ行く時に限ってどうしてか、僕は桜の事から精神的に解放されたような気がした。

 単純に、今日の夕飯や、明日の朝食や夫と娘のお弁当の献立を考えたり、頭の中で冷蔵庫の中の食品をリストアップして必要な物を整理したりと、色々と画策する事が多過ぎて子供を慮るところまで手が回らないだけかもしれない。もしくは、本当に心が開放的になっていたのかもしれない。何故なら、今までは桜を外へ連れ回す事に気が引けて、何日かに一度の機会に大量に纏め買いするしかなかったが、これからは必要な分を必要な分だけ毎日小分けして購入する事が可能だからだ。

 タイムセール時を狙わなければ、子供が居ない内に面倒な外の用事は全て済ませる事が出来る。たったそれだけの細やかな事柄でも、子供という縛りとか柵から解き放たれて心の安息を得る事が出来る。


 これから、もっと時が過ぎて、あの娘が小学校、中学校と進んで、どんどん手が掛からなくなって僕から離れるようになれば、こんな風に安堵出来る時間が比例して増えていくのだろうか?何時か、その時が訪れたら、僕はどんな感慨に浸るのだろう……。心の底から嬉しいと思うのか、それともほんの少しでも寂しさを心に内在させるのか……。願わくは、後者でありたいと切に思う。


 買い物から帰ると、結構な時間が経過していたのか、そろそろ桜を迎えに行って上げないといけない時刻が目前まで迫っていた。僕は冷蔵庫にしまわなければいけない食品だけ手際よく片付け、外に出られる位の最低限の化粧をし、服を着替え、下に降りてGTOのエンジンに換装した2代目後期のディアマンテに乗り込むと、幼稚舎に向かって出発した。


 朝に来たのと同じ様に、園庭の一角に車を停めると、僕は園舎の玄関に向かって歩き出した。

 もう既に幼稚舎の通園バスは園児達を乗せて出立した後なのか、幼稚舎の建物の中は今朝と違って閑散としている。それでもたまに、玄関から見える廊下に並んだ教室のドアの隙間から、子供達が遊んだり話したりする声や先生の声が漏れ聞こえてくる。まだ保護者の迎えを待つ子がかなり残っている事が窺い知れた。


 土間から一段上がったエントランス部分の、土足厳禁の廊下に繋がる所に折り畳み式の長机とパイプ椅子が置かれ、そこに中肉中背でショートヘアの、丸いレンズの眼鏡を掛けてやや濁ったピンク色のトレーナーと青いジーンズのパンツを着た中年の女性の職員がどことなく退屈そうな面持ちで腰を掛けていた。

 僕は、その机の前に立つと、

「あの……。」

とその女性に声を掛けた。

「すみません。」

「はい?」

 女史は顔を上げ、僕の方をじっと見上げ、静かに口を開いた。

「何でしょう?」

「年少のゆり組の富士之宮 桜の母でございます。娘を迎えに来たので、担任の佐々木先生にお伝い願えないでしょうか?」

「少々お待ち下さい。」


 歳の所為だろうか、少し掠れた声で淡々とそう言うと、その女職員は静かに立ち上がり、廊下の奥へと歩いて行く。

 そして、ある教室の前で立ち止まると、その部屋の扉を開け、中に向かって大声を発した。

「佐々木先生!佐々木先生!富士之宮 桜ちゃんのお母様がお迎えに来ていらっしゃるから、桜ちゃんを連れて来て上げて!」


 言うだけ言ってしまうと、また職員は此方に向かってすたすたと早歩きで戻って来た。そして椅子に腰を下ろしつつ、

「失礼致しますが、もう暫くお待ち下さい。今、担任の先生が御息女を連れて参りますから。」

と、やけに恭しく愛想笑いをする。どう考えても僕より相手の方が年上なので、はっきり言ってむず痒く感じて却って肩身が狭い思いがする。まあ、俗に言うセレブが多い園だから、敢えて職員も丁重な対応をしているのだろう。


 しかし、それにしても少し遅くないか、桜を呼び出して貰ってからもう5分も過ぎようとしている。

 不穏な物を感じてドキドキしながら、永遠とも感じた時間を過ごして待っていると、教室から佐々木先生に手を引かれた桜が現れた。


 佐々木先生に礼をし、お気に入りの小さな桃色のスニーカーに履き替えた桜の手を握って幼稚舎の建物から外に出る。

 少し赤く染まった白い太陽の光が当たる場所まで歩いてきた途端、桜が僕に向かって不満気にぽつりと呟いた。

「ママ、もっと遅くても、良かったのに……。」

「あら、ぞんざいな言い草ね。今朝、ママと離れたくないって泣いていた子は誰だっけ?」

「む――――っ!」

 僕がからかうと、桜は怒ったように口を真一文字に結んだ。相変わらず仕草が愛らしいので、僕の口元も思わず緩む。


「そう言えば、さっきは凄く遅かったようだけれど、何をしていたの?」

 車を解錠して左の後部座席のドアを開け、桜を抱き上げてシートの上に座らせつつ、僕は彼女にそんな事を訊ねた。

「あのね、桜ね、聖羅ちゃんやカリンちゃん達とね、おままごとしていたの!」

「そうなの。それは良かったわね。」

 明るく元気良く答えた桜を見て、嬉しさの余り顔が綻びる。この娘なりに上手く友達を作る事が出来たと知って安心した僕は、

「さあ、ドアを閉めるから手を引っ込みなさい。」

と子供に注意した。

「は――い!」


 ドアを閉めて運転席に回り込みエンジンを掛ける。するとまた桜が僕に話し掛けてきた。

「でも、ママ。」

「なあに?」

「ママが来るのが、もっと遅かったら、もっと遊べたんだからね!」

 偉そうに威張った桜のこの言葉を耳にして、僕は不覚にも吹き出してしまった。勿論、彼女の機嫌が斜めになったのは言うまでもない。

「む――――!何がおかしいの?」

「ふふっ!ごめんね。もしかしたらママが早く迎えに来なくて泣いているんじゃないかって心配だったものだから。」

「桜、泣かなかったよ?」

「ええ、そうね……。だからママ、安心したわ。……それで、幼稚園はどうだった?」

「うん!えっとね!あのね……!」


 桜は堰を切ったようにお喋りを始めた。幼稚園でしたお遊戯の事、玩具で遊んだ事、麗奈ちゃんとも遊んだ事、先程出てきた少女達の他にも友達が何人か出来た事……。色んな話をたどたどしく話したが、全てに共通して解った事は、結局僕の不安は杞憂に終わった、と云う事だけだった。


「そう言えば、ママ!お遊戯でね……。」

「はいはい、帰ってからゆっくり聞くからね。そろそろ帰りましょう。」

「うん!」

 僕は、ブレーキを踏んでシフトをPからDへチェンジすると、ゆっくりとアクセルを踏み込んで車を家に向かって発進させた。

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