第八話 噂
処刑からどれほどたったんだろう。
あれから見る夢はすべて真っ赤だった。そのたびに飛び起きては、荒い息を繰り返し吐く。額に光る嫌な汗が、ほほを伝って下に落ちる。
それの繰り返しだった。
しかも、そうなるたびに横で寝ているクロウを起こしてしまうのが何となく嫌だった。気がつくと朝になっているのはあいつが頭をなでてくれるからかもしれない。
そういえば昔夜眠れないときは兄貴が頭をなでてくれていた。
そんなときの兄貴と、クロウが重なるたびにセリアは胸が締め付けられた。
それがなぜなのかセリアには分からない。
ただ一つ
彼に対する感情は少しずつだが変化していった。
「おい・・・・おい・・・・いい加減に起きろよ・・・おいって・・・・。」
「ん・・・・うっせ・・・もうちょっと・・・・。」
枕に頭をうずめてうなるセリアの体を、クロウが嫌味ったらしく揺さぶってくる。やめろ。脳みそがシェイクされるじゃないか。朝っぱらからやめてくれ・・・・。
「ん・・・や・・・・・っていってんだろ・・・もすこし・・・ね・・る・・・・。」
「いい加減にしろよ、毎朝毎朝。」
「俺は低血圧なの・・・朝はこうなんだよ・・・・・。だからもうすこし・・・・ねる・・・・。」
「だからだめだっつってんだろう!」
布団を無理やりはがされて、しかも抱き抱えあげられ、ベットから無理矢理出させられた。
「てめぇ・・・・なにすんらよ!」
「呂律まわってねーし。」
「うっせぇ・・・・頭ぼぅっとすんらよ邪魔すんら!おろせぇ!」
「やだ。いつまでも俺のベットを占領するな。」
「じゃあ、ほかの部屋用意してくれよ・・・・。」
「やだ。夫婦は同室で寝てるもんだろ。」
「俺はまだお前の嫁じゃねぇ!!」
「ふーん・・・まだ・・・ね?」
「!まだもこれからもないからなぁ!」
着替えをすませ、ご飯を食べた後、セリアは一人城の中を出歩いていた。とくに何をするわけでもなく、散歩のようなものだった。セリアはまだ一人で城外に出ることは許されていなかったためである。
「ふぁ・・・まだ眠いし・・・・。なんであいつはあんなに起きれるんだよ・・・夜だって俺のせいで寝れてないだろうし・・・・。」
「・・・・・・・・・・・・・そうよ・・・・。」
その時、わずかにあいた部屋のドアから、侍女たちの話声が聞こえてきた。聞こうとも思わなかったのでそのまま通り過ぎようとした時だった、セリアは聞いてしまったのだ。彼女らの口から放たれたセリアの家族の名を・・・。
「負けたんですもの、仕方ないのよ。」
「この国に楯ついたんですものねぇ・・・・当然の報いなんじゃないのかしら?」
思わず心が、きりりと痛んだ。言われているのは全部自分に関することだったからだ。
なんで・・・なんでそんな言い方できるんだよ・・・まるで死んで当然みたいなそんな言い方しなくたっていいだろう・・・。自分たちはよくったって・・・俺は・・・俺はまだ・・・信じられないのに・・・亡骸はなくなって・・・・もう形見といえるものは何もなくて・・・俺一人ぼっちで・・・正直さびしくて・・・悲しくて・・・・。今も眠れないほどだというのに・・・・あんな風に言われるなんて・・・。
セリアは言い返そうとドアノブに手を差し出したが、それを横から現れた手に阻まれた。
「え・・・・?」
クロウがそこにいた。そしてクロウはセリアの手をつかんだまま、彼自身を自分のほうに引き寄せた。必然的にセリアの顔が、クロウの胸に収まる。そしてクロウはその部屋のドアを開けたのだ。もちろん、その部屋で噂話をしていた侍女たちが驚かないはずがなかった。
「死んで当然な奴なんかこの世にはいない。そんなつまらない話してんなら、とっととほかのところを掃除でもしてろ。」
クロウにそう言われ、侍女たちはあわてて城の中に消えていった。
「・・・・んだよ・・・静かにしてておっそろし・・・。」
「別に・・・・。」
「泣いてんのか?」
「違う・・・・。」
「・・・・・笑ってんのか?」
「・・・・・。」
ほんとはどっちも。
ああ言われていることを知って、悲しかった。
ああ言ってくれる人がまだいることがうれしかった。
「お前いい奴だな・・・・。」
「やっと認めたか、おっそいんだよ。」
「性格だけはな・・・・。」
「おいっ!」
ああ・・・・・・・
俺まだ笑えてる・・・・
お前すごいよ・・・・・クロウ
俺、少し見直したよ
ほんのちょっぴりだけどな・・・・・・・
俺のためって思っていいんだよな・・・・さっきのこと・・・・・・
忘れないからな・・・・・絶対に
セリアは静かに、笑いながら涙を流した
更新が滞ってしまいすみませんm(_ _)m
のろのろ更新にどうかお付き合いしていただけると嬉しいです。