第八話 繰り返しの日々 Ⅱ
朝を迎えるとアラームの音でぼくは目を覚まして起き上がった。
自室の窓から東の空を見上げると明けの明星がギリギリ見えた。
普段、アラームをもう少し遅く設定しているためこの景色を見る事はなかなか無い。
「たまには早起きも悪くないな」
眠い目を擦りながらも東の空に向かって一言、投げかける様に、だけど気持ち小声で言った。
昨日立てた作戦、それはきみに伝えた時間よりも早く到着しておく事で、待ち伏せを成功させる。
簡単に振り返るとそんな作戦だ。
具体的にどれくらい早く着くかを決めてなかったが、これだけ早い時間に起きていれば問題なく待ち伏せを成功させられるはずだ。
余裕を持って身支度を済ませた。
珍しく両親と朝に顔を合わせることになって両親も驚いた様子だった。
いつかの誰も居ない家への一言ではなく誰かが居る家への一言だけ発した。
「行ってきます」
「行ってらっしゃい」
母親の声だ。
このやり取りを最後にいつしたか記憶に無いくらい昔だ。
いつもよりもかなり早く家を出たぼくは、学校の最寄り駅に七時には着けた。
周りを見渡してもきみどころか学生もほとんど居なかった。
相当早く着けた事に満足していた。
少し退屈をしながらも待っていた。
わたしはいつも通りの時間に起床。
周りの景色もいつもと変わらない。
寸分の狂いも無い状態。
一つの異なる事を除いて。
それは先輩との約束だ。
学校の最寄り駅に八時に待ち合わせをして一緒に登校する。
そんな約束をしてきた。
待ち合わせの約束をすること自体には、なんの違和感もなくむしろ嬉しいなって率直に思った。
けど、わざわざ遅い時間に待ち合わせしないといけないその理由がわからない。
そのもやが、昨日からずっとありながらも学校の最寄り駅にいつも通りの時間に向かった。
待ち合わせ時間よりも半刻、早く着いたわたしは仕方なく駅のホームにあるベンチで時間を潰して八時になるのを待った。
普段、人と待ち合わせる事が滅多に無いから時間の流れを遅く感じたわたしは、少し気が立っていた。
八時ぴったりに待ち合わせ場所に向かうと先輩が、先に待っていたので走って向かった。
「先輩っ。 早いですね」
「そうでしょ!」
「先に着いているとは思わなかったです。いつも待つ側なので」
「作戦通りだった!」
わたしはこの発言の意味が分からなくて恐る恐る確認した。
「……さく、せん? どういうことですか?」
「いつも待たせてばっかりだからたまには待つ側になりたいなって思ってネッ」
「え? こんな遅い時間にする必要ありましたか?」
きみの表情が少し強ばってる様に見えたから怒ってるかもしれない。
そう感じたぼくは、ここで早起き出来ない事を理由にするとまずいと思って変な言い訳をした。
「遅刻はしないだろうしさ。それにこの位の時間の方が人少なくて、ゆっくり行けるしさ」
「よくわからないですけど、とりあえずもう行きましょう。遅れたくないので」
「そう、だね」
お互い気まずい空気感でエレベーターに向かった。
今日のエレベーターは列が出来ていた。
【気まずいエレベーター】
エレベーターの中ではどんな状況でも無言の二人だったが人混みがある場合、体と体が触れ合うような距離感でお互い離れる事は無かった。
だが今回は、二人とも離れていた。
まるでお互い知らない人かの様な距離感に位置していた。
エレベーターの扉が開いた。
エレベーターの中は一瞬で二人きりの空間になった。
気まずいながらもいつも通りの順番で降りた。
そこから結局、学校に着いて二手に分かれるまで一言も喋る事無く登校して二手に分かれた。
ぼくは一日中、何が悪かったのかを考えてたから他の事には手が回らなかった。
きみと付き合い始めてから怒らせたなと感じた事が無かったから真剣に考えた。
結果、分からなかった。
ただ、ちょっとしたドッキリをしたかっただけで遅刻をする事も無い時間帯だから怒る意味が分からない。
とりあえず、今日の帰り道は久しぶりに一人だなと思いながら帰りの身支度をして下駄箱に向かった。
わたしは一日中、後悔しながら学校生活を送っていた。
先輩と付き合ってから今日で二週間になる。
そんな日にちょっとした事で怒ってしまって、気まずい空気のまま登校してしまった。
怒ってしまった理由は、待ち合わせる時間が遅かったからだ。
正直、怒るほどの内容では無いかも知れないけど、毎朝早く学校に行くのにはある日課があるからだ。
その日課はランニングだ。
バド部の中で、わたしは体力が無くコーチから体力をつける指示をされている為の朝のランニングだ。
朝のランニングは誰もやらないからそこで差を付けられると確信して毎日取り組んでいた。
最近は毎日やる事でだいぶマシになっていたがそれでもまだ足りない。
体力さえつければもう少し楽しくバドをやれるし、活躍の場を貰えるかもしれない。
その努力は先輩を見てきたからこそ出来た事で、理解して欲しいと押し付けがましくも思ってしまった。
部活終わりにいつもなら先輩の下駄箱で待っているけど、どうするか決心出来ないままとりあえず先輩の下駄箱に向かった。
二人は同時に同じ場所である下駄箱に向かって歩みを進めていた。
「え……」
ぼくは思わず声が漏れてしまった。
「あ……」
わたしはびっくりしすぎて口を開いたまま小さな声が漏れた。
とりあえず話すべきだなと思ったぼくは戸惑いながらも口を開いた。
「てっきり帰ってると思った」
「ちょうど、今帰る所だったんです」
「そう、なんだ」
帰り道にここを通らない事は理解していたが突っ込めなかった。
「先輩こそ今日は早いんですね」
「たまたま早かったんだよね」
いつもなら会話が終わりそうになった所で、ぼくが帰りを促すけど今日は出来なかった。
すると、今までのきみでは考えられない衝撃の一言が出た。
「とりあえず一緒に帰りませんか?」
「え? うん。じゃあ帰ろう、一緒に」
【いつもとは異なる宵の明星】
そんな時。二人は学校を後にした。
二人はしばらく無言で歩いていた。
まるで、朝の繰り返しかと思うような帰り道だった。
結局、一言も喋らずエレベーターに着いた。
今夜は他に人は居なくふたりきりのエレベーターに乗る事になった。
【謝罪のエレベーター】
きみが突然ここしか無いと言わんばかりに朝の出来事に対する謝罪をしてきた。
「ごめんなさいっ! 朝、変な空気にしちゃって」
「いやいや! 俺の方こそごめんっ!」
正直、ぼくは勢いで謝ってしまったが内心、何に対して謝っているのか分からなかった。
お互いに頭を下げているとエレベーターの扉が開いて、慌てて二人はぶつからないように降りた。
改札を通ってからきみは珍しく自分語りをした。
「私、朝の日課がありまして、それのために早く登校したいんです」
「なるほど! そういう背景が合ったのか!」
「でも約束して貰えたの嬉しかったんです! 時間合わせるのとか連絡手段なくて普段、できないですし」
そう、きみはスマホをまだ持っていなかった。
「じゃあ今度からはもう少し早く来れるようにするよ! 約束しちゃうと迷惑かける可能性あるし、約束するのはやめとく!」
「とりあえずはそうしましょ」
その話を終えるとお互いに手を振って二人はホームに向かった。




