第六話 幸せな一日
ぼくは昨日よりも一本早い電車に乗って学校の最寄り駅に向かった。
理由はシンプル。
きみの待ち伏せだ。
これでちょっとしたサプライズになると確信した。
ただ甘かった。
実際着いたらきみはもう居た。
「え、はやっ」
おはようの挨拶の前に思った事を口にしてしまった。
「おはようございますー!」
昨日の涙の心配が払拭される。そんなおはようの挨拶を先にされてしまいつい焦って返した。
「おはようー。元気だね」
「先輩は少し元気無いですね」
「ちょっとまだ起きてないかも?」
「ほんと先輩面白いですね。ベッドから出たら流石に起きて下さいよー。フフッ」
少し気だるく感じながら答えた。
「分かったよー」
この駅は地下駅だからエスカレーターから行くと最終的には、階段を上らないといけない。
階段を上るのを面倒に感じるぼくは、いつもエレベーターから地上に向かう。
そんな理由でぼくはエレベーターに促しながら言った。
「エレベーターから行こう」
エレベーターの列は無かった。
【二人きりのエレベーター】
二人はお互いに開く扉の近くに、立ちながら向き合っていた。
何か言葉を発する訳でも無い。
でもお互い居心地がいい。
そんな空間だった。
エレベーターの扉が開いた。
その瞬間、ぼくの目に映り込んできた景色が普段のそれとは違っていた。
どうしてかは分からない。
隣にきみが居たからただそれだけかもしれない。
呆気に取られてエレベーターの扉が閉まりそうになったその時。
「閉まりますよっ!先輩っ!」
ふと、我に返って慌ててエレベーターを出た。
「やっぱまだ起きてないわー」
渾身のボケのつもりだ。
「そんなこと言ってたら置いていきますよー。フフッ」
なんかあしらわれた感じで少し残念だった。
「まあ……行こう」
「ですね。行きましょうー」
そこからはあまり会話という会話は無く、学校まで歩幅を合わせながら歩いて向かった。
学校に着いてきみと分かれる前に、一緒に帰る事を約束する為に口を開いた。
「また昨日と同じ感じで一緒に帰ろう!」
「もちろんですっ!」
「そしたらまた宵の明星で」
「宵の明星ハマってますね! 嬉しいです!」
「響きとか結構好きになった!」
「また宵の明星で会いましょーう」
分かれ際のきみはとても良い表情でかわいかった。
わたしは先輩と離れてから教室に向かって授業を受けていた。
でもなにかと手につかなかった。
昨日の今日で先輩と付き合えた事が、まだ未だに信じられ無かった。
そして早く全て終わり先輩と帰る時間。宵の明星になって欲しいと感じていた。
やっと全て終わってわたしは先輩が来るのを待っていた。
ぼくはきみと分かれてから教室で授業を受けていた。
昨日とは打って変わって落ち着いていた。
恐らくきみが彼女になった安心感からだろうと思った。
集中をして授業を受けていた。
気付いたら放課後の時間になり、部活もかなり調子が良くて周りにも驚かれた。
かなり充実して宵の明星を迎えれた。
きみが先に待っていた。
慌てて話しかけた。
「ごめんー。部活長引いて遅くなっちゃった」
この時既に半刻は待たせていた。
なのに全然平気そうな表情だった。
「……全然! 平気です」
「なんかありがとうー。なんなら帰っててもおかしく無いなって思ったからさ」
「確かにもう少し遅かったら帰ってました」
「なるべく気を付ける!そしたら帰ろー」
「ですねー」
【一番星の他にも星が見えてきている】
そんな時。二人は学校を後にした。
帰り道ではぼくが今日部活の調子が良かった事を喋った。
「今日はなんでも上手くいく日だったなー。特にサッカーの調子が良すぎた」
「そうなんですねー」
「特に両足でめちゃシュート決めれたし。なんなら無回転のシュート入ったし! 無回転の練習してたから本当に嬉しいわー」
「先輩って努力家ですよね」
「えーそうかな? 嬉しい! ありがとうー!」
嬉しすぎてきみの返事を待たずに喋ってしまった。
「とにかくこんな日がずっと続いて欲しい!」
「ほんとに良い日だったんですね」
なんかきみのテンションが低めだなと思い、疲れているのかなと感じたので喋るのを控えた。
学校の最寄り駅が近付いて来たタイミングできみが口を開いた。
「私あんまり自分の話するの得意じゃないので先輩みたいに、自分の話出来るいいなって思って……。羨ましいなって」
「今日あった事を話すだけでも良いと思う!」
「でも今日は何も手に付かなくて……これと言った話題ないです……」
「まあ少しずつ慣れれば話せるようになるよ! 自分の話とかなんでも!」
「ですかねー?」
「なる! なる!」
気付いたら朝のエレベーターの前に着いた。
なせが自然とエレベーターの方に足を運んでいた。
並んでいる列は無かった。
【二人きりのエレベーター】
朝と同じで何故かエレベーターの中では喋らなかった。
どこか喋るべきでは無い。そんな空気だった。
エレベーターの扉が開くと、ぼくは朝の二の舞にならない様に足を一歩前に踏み出した。
その時。
タイミングが被ってしまって肩と肩が触れ合った。
咄嗟に声がお互いに出た。
「あ……」
また被った事で少し気まずくなったが、先に謝ろうとぼくが口を開いた。
「ごめん! 朝みたいにならない様にって思ってつい焦った」
「いえいえ! こちらこそ気を遣えてなかったです……」
ふと何か糸が切れたかの様に二人は笑みを零した。
この時見たきみの笑顔がかわいすぎてぼくの瞼と言う名のシャッターを切った。
そうして改札を通って二手に分かれた。
「じゃあね」
「じゃあまた明日!」
そう言ってお互いに手を振って二人はホームに向かった。




