第十話 繰り返しの日々 Ⅳ
昨日、約束してから帰宅したわたしはほとんど寝れなかった。
色々考え込んでいた。
感情の起伏が、ここまで激しく動いた一日を過ごした事が無かったからだ。
次の日を迎えていつも通りの時間に起床。
周りの景色もいつもと変わらない。
寸分の狂いも無い状態。
一つの異なる事を除いて。
それは先輩との約束だ。
ただ今回は時間を決めないでいた。
前回の失敗があって学んだわたしは先輩の事を気にして登校できないのが嫌だった。
結果として一緒に登校するという約束をしただけになった。
いつも通りの時間に学校の最寄り駅に着いた。
正直、着いた瞬間に先輩が居るのでは無いかと期待をしていた。
周りを見渡して確認をしたけど先輩の姿は無かった。
遅刻ギリギリの半刻ほど時刻が経っても先輩の姿は現す素振りもみせる事は無かった。
流石に遅刻をしてまで待つのは嫌だったから駅を出て学校へと向かう事にした。
最近はエレベーターからの登校がほとんどだけど、今回はわたし一人なのもあるし遅刻ギリギリなのもあってエスカレーターから向かった。
道中はスカートなのもあって普段の全力より少し抑えて走った。
学校の正門をくぐって下駄箱で上履きに履き替えてから教室に向かったら、すれ違いざまに少しずつ生徒が体育館に向かう姿が確認出来た。
駆け足で階段を上ってやっとの思いで教室に着くとクラスメイトはほとんど居なかった。
『遅刻、した事無いのに……』
出そうになった言葉を呑みながらカバンを机の上に置き、体育館用の上履きを持って教室をまた駆け足で出た。
体育館に着いたらクラス周りも含めて全校生徒が、集まってる雰囲気では無くかなり広く感じれた。
どうやら遅刻でも無さそうで安堵しながらわたしは体育座りをした。
しばらくして広く感じれていたスペースが無くなってきた時に終業式は始まった。
終業式は当然の如く長丁場。
ただ、この長丁場の終業式での内容は一切耳に入って来なかった。
先輩の姿が一向に見えなかったからだ。
そもそも周りを見渡しても確認出来るほどの距離感に、先輩のクラスが無い事は分かっていた。
それでも、わたしは心配でならなかった。
『もしかして、事故とかじゃ……』
変な妄想だけが膨らんで胸がしめつけられる思いだった。
結局、終業式が終わりわたしが先輩の姿を確認する事は出来なかった。
終業式が終わった事で人が居なくなっていく体育館。
わたしは一人、体育座りのまま体育館に取り残される形になってしまった。
先輩の事が心配でならなかった。
すると一人、先輩にしては背格好が合わない男性が体育館の外からわたしの元に駆け寄って来た。
わたしが居るクラスを担当している先生だった。
心配した様子の先生を逃げるようにかわして教室へと向かった。
教室に着いて席に座ったわたしを先生は確認すると一学期のまとめをし始めた。
まとめだけだったのもあり早々に解散となった。
ほとんどのクラスメイトは先生が喋っている時に帰り支度を済ませていたのだろう。
気が付くと教室は数えられるほどの人数になっていた。
わたしも含めて残った人達は落ち着いて帰り支度をし始めた。
すると、先生がわたしの元に歩み寄って来て慌てて準備を済ませて教室を後にした。
下手に心配を誰かにかける事だけはしたく無かった。
いつもだったら先輩の下駄箱に向かっていただろうけど今日は一人で帰る事にした。
なんとなく心配から呆れに心が変化していたからだ。
わたし自身の下駄箱に向かうと遠目で見ると一人の男性が待ち伏せするかの様子で立っていた。
恐る恐る近付いた。
昨日、約束してから帰宅したぼくは絶対に早起きをするためにも、ちょうど明けの明星が見える時間にアラームを設定して早く寝た。
次の日、鬱陶しい音で一回起きたぼくは眠さに負けて二度寝をしてしまった。
そして、次起きた時には明けの明星が見えなかった、それ所か遅刻の時間になってしまっていた。
朝の支度を直ぐに済ませて家を出た。
家の最寄り駅であるホームに着いた時には、たまたま電車が待っていた。
電車の中では本当に気が気でなかった。
理由は、きみがまだ待っているのではないか。
スマホが無いきみへの連絡が取れないために学校の最寄り駅が、近付けば近付くほどに焦りが増してきていた。
学校の最寄り駅に着いた時、きみの姿が無かった。
その瞬間、安堵したと同時に少し嫌な予感がしたが気にしなかった、時間に余裕が無いから出来なかった。
遅刻をしているぼくは、いつも通りでは無くエスカレーターから向かう事にした。
道中はまるでサッカーの試合をしている時みたいな全力疾走をして学校に向かった。
学校の正門をくぐった時には人の気配が全く感じれなくて焦っていた。
『こんなはずじゃ……』
とりあえず下駄箱に向かって上履きに履き替えて教室へと向かった。
誰ともすれ違う事も無く教室に着くとぼくの席意外は荷物が置かれている状態。
体育館用の上履きは逆にぼくのしか残っていない状態となっていた。
息を切らしながらも体育館に向けてまた全力疾走をした。
空気の重い体育館に着くとぼくのクラスの担任教師である女性が、目を凝らしながら立ち塞がっていた。
とりあえず中に入ると校長先生が話をしている真っ最中だったからか、目配せで座る場所を指定された。
そこにはクラスメイトではなく色々な生徒が混ざりながら全員が正座をしていた。
『遅刻組か』
少し嫌な気持ちになりながらも仕方なく空気を読んで正座をした。
途中からだったのもありそんなに長くはない終業式となったが、足がまるで使い物にならなかった。
終わってから立とうにも立てなかったから少し時間を置いた。
教室に戻ろうとする仲の良い友達に手を差し伸べ貰って、どうにか立ち上がりやっとの思いで歩けた。
教室に着いてからは担任教師に怒られる事を覚悟していた。
意外にもお咎めなしで一学期のまとめをクラス全体でして解散になった。
最中、ぼくはまだ怒られる可能性が捨てきれないから、早く帰るためにも帰り支度を済ませて直ぐに教室を出た。
いつもならきみに待ってもらっているぼくの下駄箱には、あまりにも早かったのもあり誰一人としても居なかった。
そして、きみの下駄箱に向かう事にした。
きみの下駄箱で待っていると、一人の女子が向かってきた。
きみだった。
慌ててぼくは声を掛けた。
「……ごめん」
「なにがですか?」
「え?」
「別に、気にしてないですよ」
「そうなの?」
「……はい」
「とりあえず帰ろっか」
「……そう、ですね」
【姿を現してない宵の明星】
そんな時。二人は学校を後にした。
流石に空気が重い中、何も声をかけないのは違うと思ったぼくは考え無しな話題を出してしまった。
「そう言えば、宵の明星が見えない時で一緒に帰るの初めてだね」
「……ですね」
何も話題が見つからなかったぼくは無言になってしまった。
そして二人は何も喋らずに淡々と歩いた。
その空気が続く中、エレベーターに着いて今回は昨日と同様で誰一人としても居なかった。
気まずい空気感だった事自体は初めてでは無いが前回よりも増していた気がぼくには、していて戸惑いながらエレベーターを無言で待っていた。
わたしは怒っている訳では無かった。
わたしはもう呆れて言葉も出なかった。
わたしにとって何にも変えられない瞬間。
わたしはその瞬間ですらも嫌になっていた。
ただひたすらに無言でエレベーターを待った。
【二人きりのエレベーター】
二人はお互いに開く扉の近くに、立ちながら向き合っていた。
何か言葉を発する訳でも無い。
いつもとは違い居心地が悪い。
そんな空間だった。
エレベーターの扉が開いた。
いつもならきみから先に出るが様子がおかしい。
ぼくはエレベーターを開けながらきみに声をかけた。
「開いてるよ」
「……はい」
ぼくも出てきみの直ぐ後ろを歩いていると立ち止まって急に振り返って変な質問をしてきた。
「私の、どこが好きですか?」
「え? 急に? どうしたの?」
「答えてください」
「え、か、かお?」
「そうなんですね」
「う、うん。だけ?」
返事は帰ってこないまま改札口を通っていくきみの背中をぼくは追う形になった。
そのままいつもみたいに手を振る事は無くきみはホームに向かって行ってしまった。
その背中を追いかける事をぼくは出来ずにホームに向かった。




