名もなき修復者、世界を救う
第一章
灰の庭で、彼女は名前を捨てた
その庭には、季節がなかった。
花は咲いているのに香りがなく、木々は青いのに風に揺れない。空はいつも薄い灰色で、朝とも夕ともつかない光が地面に落ちている。まるで世界そのものが、呼吸を忘れてしまったみたいだった。
――ここに来るたび、私は「生きている感じ」が薄くなる。
石畳の上を歩きながら、私は自分の足音を数えた。一、二、三。数えられるうちは、まだ大丈夫だと思うための癖だった。
この庭に長く留まりすぎると、人は自分が何者だったのかを忘れる。少なくとも、私はそうだった。
庭の中央には、円形の泉がある。水は張られているのに、波紋は一切立たない。まるで磨かれた鏡みたいに、空をそのまま映している。
泉の縁に、ひとりの男が立っていた。
背が高く、痩せていて、年齢はよく分からない。白い外套を羽織り、顔の半分は影に沈んでいる。
この庭の管理者――いや、「管理者」という言葉すら生ぬるい。彼は、ここに来る者すべての選別者だった。
「来たか」
低く、乾いた声。
私はうなずく代わりに、胸の奥で小さく息を吸った。
「呼ばれましたから」
「呼ばれた、か。そう言う者は多い」
男は泉を見下ろしたまま、こちらを振り返らない。
「だが正しくは違う。君は選んだんだ。この場所を」
違う、と言いかけて、私は口を閉じた。
否定するだけの自信が、もう残っていなかったからだ。
ここに来る前の記憶は、ところどころ穴が空いている。
燃える街。叫び声。逃げる背中。
そして――血。
それらは断片として残っているのに、「なぜ」「どうして」という理由だけが、きれいに削ぎ落とされている。
「名前を」
男が言った。
「君の名前を、聞かせてほしい」
その瞬間、胸がぎゅっと締めつけられた。
名前。それは、私がまだ私である証だった。
「……答えたら、どうなりますか」
「答えれば、君はまだ“元の世界”に戻れる可能性を持つ」
「答えなかったら?」
男は、ほんのわずかに口角を上げた。
「ここに残る。名前を捨て、役割を得る」
泉の水面に、私の顔が映る。
目の下に影があり、唇は色を失っている。見覚えはあるのに、どこか他人のようだった。
「役割、って……」
「この世界を修復するための歯車だ」
男はようやくこちらを向いた。
その目は、驚くほど静かで、感情がなかった。
「壊れた物語を、正しい形に戻す。それが君の仕事になる」
「物語……?」
「君の世界も、私たちの世界も、本質は同じだ。すべては積み重なった選択の連なりでできている。だが今、それが歪んでいる」
彼は泉の水面に指先を触れた。
初めて、波紋が広がる。
「修復者が必要なんだ。感情を知り、後悔を知り、痛みを知っている者が」
私は視線を落とした。
痛み、という言葉が、やけに現実的に響いたからだ。
「……私じゃなくても、いいんじゃないですか」
「いいや」
即答だった。
「君でなければならない理由がある。だが今は教えない」
ずるい、と思った。
理由を知らされないまま、選択だけを迫られる。
「考える時間は?」
「ない」
男は一歩、こちらに近づいた。
灰色の庭に、彼の影が長く伸びる。
「君の世界では、すでに時間が動きすぎている」
胸の奥が、ざわついた。
まるで、大切な何かが、もう取り返しのつかない場所へ流されてしまったような感覚。
私は目を閉じた。
名前を呼ばれた記憶。
誰かが笑っていた記憶。
守れなかった約束。
全部が、遠い。
「……名前を捨てたら、私はどうなるんですか」
「過去から自由になる」
「未来は?」
「保証されない」
正直すぎる答えに、思わず笑いそうになった。
「ひどい取引ですね」
「それでも、多くの者が選ぶ」
男は、静かに手を差し出した。
「さあ。決めるといい」
泉の水面が、私を見つめ返している。
そこに映る顔は、もう少しで輪郭を失いそうだった。
私は、ゆっくりと息を吐いた。
「……名前は、答えません」
一瞬、庭の空気が揺れた気がした。
「後悔は?」
「してます。たぶん、一生」
「それでいい」
男はうなずいた。
「後悔できる者だけが、修復者になれる」
彼は指を鳴らした。
泉の水面が光を放ち、私の足元から白い霧が立ち上る。
「これから君は、“名を持たぬ者”として、いくつもの世界を渡る」
霧の中で、視界が歪む。
「壊れた因果に触れ、選択を見届け、ときに介入する」
身体が、ふわりと浮いた。
「感情を持ちすぎれば、世界に引きずられる。
持たなさすぎれば、修復に失敗する」
男の声が、遠ざかっていく。
「その狭間で生きろ」
最後に、彼はこう言った。
「――ようこそ、修復者」
次の瞬間、世界が反転した。
私は知らない空の下で、知らない地面に膝をついていた。
土の匂い。風の音。遠くで鳴る鐘。
灰の庭は、もうどこにもない。
けれど胸の奥に、確かな感覚だけが残っていた。
私は、もう後戻りできない。
そうして、私の最初の物語が始まった。
第二章
最初の世界は、だいたい最悪だ
――落ちる、と思った。
次の瞬間、私は地面に叩きつけられていた。
「いっっ……たぁ……!」
全身に走る衝撃。
反射的に身体を丸め、転がる。砂と土が混じった感触が頬に張りついた。
「ちょ、ちょっと待って! 初任務で受け身なし!? 聞いてないんだけど!」
誰に向かって叫んでいるのか、自分でも分からない。
あの灰の庭の管理者はもういないし、文句を言う相手もいない。
私はゆっくりと起き上がった。
そこは、荒れ果てた平原だった。
空は鈍色。雲が低く垂れこめ、遠くでは黒い煙が立ち上っている。風は冷たく、鉄と焦げた木の匂いが混じっていた。
「……戦場?」
嫌な予感しかしない。
服装は、いつの間にか変わっていた。
くすんだ色のマントに、動きやすそうな革の服。腰には短剣が一本、違和感なく下がっている。
「装備、勝手に用意されてるのは親切なのか不親切なのか……」
短剣を抜いてみる。軽い。
でも、刃はよく研がれている。冗談抜きで「使え」と言われている気がした。
そのときだった。
「おい! そこのお前!」
男の声。
反射的に振り返ると、数人の人影がこちらに向かって走ってくるのが見えた。
全員、武装している。
剣、槍、弓――完全にアウトだ。
「待って待って待って! 話せば分かるタイプの展開でしょこれ!?」
私は両手を上げた。
「敵意はない! 迷子です! 観光です!」
「意味が分からん!」
そりゃそうだ。
一番前を走っていた若い男が、足を止めた。
年は私とそう変わらなそう。短く刈った髪に、焦ったような目。
「この辺りは立ち入り禁止だ! 民間人が来る場所じゃない!」
「ですよね! 私もそう思います!」
「じゃあ何でここに――」
その瞬間、地面が揺れた。
ドンッという重い音。
遠くで、何かが爆発したような衝撃波が伝わってくる。
「くそっ……来やがったか!」
若い男が舌打ちした。
「全員、配置につけ! 第二防衛線だ!」
他の兵士たちが、一斉に動き出す。
私は完全に取り残された。
「え、ちょっと!? 説明とかなし!?」
誰も答えてくれない。
次の瞬間、空気が変わった。
ぞわり、と背筋が粟立つ。
本能的に、これは「やばい」と分かった。
霧のような黒い影が、地平線の向こうから押し寄せてくる。
それは人の形をしているが、人ではなかった。輪郭が曖昧で、顔がない。
「……あれ、何」
影たちは、音もなく進んでくる。
兵士たちが弓を構え、剣を握る。
「影喰らいだ! 近づけるな!」
誰かが叫んだ。
「影喰らい!?」
ネーミングが不穏すぎる。
兵士たちが一斉に攻撃を仕掛けた。
矢が飛び、剣が振るわれる。
――けれど。
「効いて、ない……?」
斬られた影は、霧のように散るだけで、すぐに形を取り戻す。
「くそっ、数が多すぎる!」
さっきの若い男が、こちらを振り返った。
「お前! そこにいると巻き込まれる! 逃げろ!」
「逃げろって言われても!」
逃げ道がない。
影は、すでにこちらにも迫ってきている。
そのとき、胸の奥が熱を持った。
――何かが、引っ張られる。
灰の庭で言われた言葉が、頭をよぎる。
『壊れた因果に触れ、選択を見届け、ときに介入する』
「……まさか」
私は、影の一体に視線を向けた。
すると、世界が一瞬だけ「ズレた」。
影の向こうに、糸のようなものが見える。
絡まり、ねじれ、無理やり結ばれた因果の線。
「見える……?」
直感で分かった。
あれが、この世界の「歪み」だ。
「やるしか、ないか……!」
私は短剣を握りしめ、影に向かって踏み出した。
「うおおおお! 初戦闘がこれって、聞いてない!!」
半ばヤケクソで短剣を振るう。
刃が影に触れた瞬間――
パキンと、何かが砕ける音がした。
影は悲鳴もなく、完全に消滅した。
「……え?」
周囲が、一瞬静まり返る。
「今の、何だ……?」
兵士たちが目を見開く。
私自身が一番驚いていた。
「え、倒せた……?」
胸の奥の熱が、すっと引いていく。
「お前……何者だ」
若い男が、警戒と困惑の入り混じった目で私を見る。
「それ、今一番聞きたいの私なんだけど」
影はまだ残っている。
けれど、さっきよりも動きが鈍い。
「……分かった。説明は後だ!」
若い男は剣を構え直した。
「今は一緒に戦え! それができるなら、な!」
「選択肢ないよね!」
私は苦笑して、再び短剣を握った。
こうして私は、
最初の世界で、最初の戦いに巻き込まれた。
それが「修復」の始まりだと、このときはまだ知らなかった。
信じる理由はないけど、放っておけもしない
影喰らいたちは、突然――本当に突然、霧が引くみたいに後退した。
「……退いた?」
剣を構えたまま、ハロルドが周囲を警戒する。
兵士たちもざわつきながら、次の襲撃に備えて陣形を崩さない。
「今まで、こんなことは?」
「ない。あいつらは、獲物を見つけたら潰れるまで来る」
じゃあ、なんで今回は引いたのか。
その理由を、全員がちらりと――私を見る。
「え、なに、その目」
居心地が悪すぎる。
「言っとくけど、私もよく分かってないからね!? 偶然! たまたま! ビギナーズラック!」
「……」
ハロルドは黙ったまま、私をじっと観察していた。
さっきまでの「戦場の顔」とは違う、指揮官としての冷たい目だ。
「お前、名前は」
「……ない」
一瞬、空気が止まった。
「……は?」
「正確には、名乗れない、かな」
我ながら怪しすぎる説明だと思う。
「ふざけてるのか」
「ふざけてたら、さっき前に出ないよ」
ハロルドは、ため息をついた。
「……俺はハロルドだ。この防衛線の指揮を任されている」
「どうも、名無しです」
「余計ややこしい!」
怒鳴られた。
でも、ちょっとだけ肩の力が抜けた気がした。
「お前の力……あれは何だ」
核心が来た。
「説明すると長いし、全部は話せない」
「話せない?」
「話したら、たぶんこの世界が余計に壊れる」
冗談めかして言ったつもりだった。
でも、ハロルドの表情は冗談として受け取らなかった。
「……壊れる?」
「うん」
私は短剣を鞘に戻した。
「少なくとも、影喰らいは“原因”じゃない。あれは結果」
「結果、だと?」
「この世界のどこかで、無理な選択が積み重なった。
その歪みが、ああいう形で噴き出してる」
自分でも驚くほど、言葉がすらすら出てくる。
たぶん、修復者としての視点が、少しずつ定着している。
「……信じろって言われても、無理だな」
ハロルドは正直だった。
「だよね」
即答すると、少し驚いた顔をされた。
「俺の立場なら、お前を拘束する。
正体不明、正規兵でもない、危険な力を持っている」
「うん」
「今すぐ、後方の砦に連行する判断もできる」
「うんうん」
「……」
ハロルドは、私の反応に拍子抜けしたみたいだった。
「……抵抗しないのか」
「しないよ」
私は肩をすくめる。
「だって、私もこの世界のこと、ちゃんと知りたいし」
「知りたい?」
「修復するには、現場を知らないと」
また一瞬、沈黙。
風が吹き、焦げた匂いが流れていく。
兵士たちの緊張も、少しずつ解けていた。
「……だが」
ハロルドは、歯切れ悪く言った。
「今のお前を、後方に送るのは……」
「送るのは?」
「……惜しい」
その一言で、兵士たちが「え?」って顔をした。
「惜しいって何ですか隊長」
「戦力としてですか?」
「黙れ」
ハロルドは咳払いをして、私を見た。
「正直に言う。
この戦線は、もう長くもたない」
声が、低くなる。
「影喰らいは、確実に増えている。
上は撤退命令を出さない。住民は逃げ遅れている」
「……うん」
「俺たちは、選択を迫られている」
彼の視線は、遠くの煙の立つ街へ向いていた。
「守るか、切り捨てるか」
――歪みだ。
私は確信した。
この人は、すでに「歪みの中心」に足を踏み入れている。
「ハロルド」
名前を呼ぶと、彼は少しだけ驚いた。
「私、約束はできない」
「何のだ」
「この世界を必ず救う、とか。
みんなが幸せになる、とか」
そんな保証、どこにもない。
「でも」
私は、まっすぐ彼を見る。
「見捨てる選択を、軽くはさせない」
彼の目が、揺れた。
「……」
長い沈黙のあと、ハロルドは決断した。
「……分かった」
「え」
「正式な命令じゃない。
だが――俺の判断で、お前を同行させる」
兵士たちがざわつく。
「隊長!?」「正気ですか!?」
「責任は俺が取る」
ハロルドは、剣を鞘に収めた。
「お前を信用する理由は、正直ない」
「だよね」
「だが」
彼は、少しだけ苦く笑った。
「放っておけもしない」
……ずるい人だ。
そういう選択をするから、歪むのに。
「じゃあ、よろしく。ハロルド」
「まだ“仲間”とは言ってない」
「じゃあ“同行者”で」
「それでいい」
こうして私は、
この世界で初めての仲間を得た。
それが救いになるのか、破滅への一歩なのか。
まだ、誰にも分からない。
でも少なくとも――
私はもう、ひとりじゃなかった。
第三章:正しさの代償
影喰らいは、もういなかった。
地面には砕けた石や破れた旗。
静かすぎて、耳に届くのは自分の呼吸だけだ。
「……終わったのか?」
誰かが、半信半疑で呟く。
でも、私の胸の奥は違った。
熱も痛みもない。
ただ、ぽっかりと空洞ができたようだった。
影を消したのは、確かに私だ。
でも、この静寂は、救いではなかった。
遠くの丘から、村の煙が立ち上る。
影喰らいは来ていない。
なのに、民家は倒れ、叫び声が響いた。
「何で……?」
ハロルドの剣は下ろされていたが、目は血走っている。
「怪物がいないから、俺たちが動かなくていい──
と思ったのに……」
私は無言で、燃える村を見つめた。
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
ハロルドが振り返る。
「……俺は、間違ったのか?」
「いや、間違いじゃない」
私は答える。
「ただ、守れる人が減っただけ」
ハロルドは短く息を吐き、拳を握った。
「……守れなかった人間のことを考えると、胸が痛い」
「私も同じ」
私も視線を落とす。
「修復って、善意だけじゃ成立しないんだね」
その時、胸の奥に熱が走った。
燃える感情ではなく、冷たく、静かな決意だった。
「次は、間違えない」
私は短剣を握り直す。
影喰らいが消えても、世界はまだ壊れている。
その事実だけが、私を突き動かした。
ハロルドは肩を落とす。
「……怪物がいなかったら、俺たちは何を守ればいいんだろうな」
その声に、答えはなかった。
灰の庭で名前を捨てた日と同じ感覚が、胸に蘇る。
後戻りはできない。
でも、だからこそ――進むしかない。
影喰らいは消えた。
でも、世界の歪みは、まだ生きている。
私は、修復者だ。
第五章:選択の重み
街は薄暗く、煙が重く垂れ込めていた。
人々の悲鳴が交錯し、歪みの中心では黒い影がうねる。
その中に、私は立っていた。短剣を握りしめ、胸の奥に重くのしかかる緊張を感じる。
「……これも、私が修復しなきゃいけないんだ」
思わず呟く声に、風が返事するようにざわりと震えた。
影たちは、街を押し潰す勢いで迫る。
兵士たちが剣や弓を構えるが、私は知っていた――力だけでは歪みを止められない。
「ハロルド……どうする?」
指揮官である彼も、目を細めて戦況を見極めていた。
「君の判断で進める。でも、失うものも出るかもしれない」
「……覚悟はある」
私は短く答え、踏み出した。
歪みを切り裂くたび、街の一部が消え、人々の避けられない犠牲が胸を刺す。
それでも、修復者の仕事は止まらない。痛みを背負いながら、選択を繰り返すのだ。
第六章:因果の迷宮
次の世界は、過去の選択が絡まり合う迷宮だった。
空間の裂け目から、糸のような因果の線が伸び、ねじれ、絡まり、無理やり結ばれている。
「……これが、この世界の歪みの源か」
一つ一つの糸を解きほぐすたび、過去の痛みや後悔が胸に押し寄せる。
灰の庭で名前を捨てた日から、自分を切り離したはずなのに、感情はむしろ力になる。
私は短剣を手に、過去の選択の一瞬に触れる。
「……修復は、完璧じゃない。でも、進めるしかない」
糸を切るたびに世界がわずかに呼吸を取り戻す。
痛みも後悔も、無駄ではない。
第七章:交錯する世界
影の修復を続ける中、私は別の修復者と出会った。
名を持たぬ者――私と同じ立場の人間だ。
「君も修復者か」
低く響く声に振り返ると、短剣を手にした影のような人物が立っていた。
「方法は違うかもしれない。でも、目的は同じ」
私は答え、無言のまま手を合わせる。
共闘しかないと、直感で分かる。
だが、同時に歪みの優先順位を迫られる。
二つの歪みが暴走し、どちらかを救う選択を強いられる。
「どちらも選べない。でも、選ばないわけにはいかない」
胸の奥で、灰の庭での決断が蘇る。
後悔を抱えながら進む――それが、修復者の宿命だった。
第八章:因果の終焉
空が裂け、世界が歪む。
人々の恐怖、悲しみ、怒り――すべてが巨大な影となり、押し寄せる。
「……これが、最後の試練」
短剣を握り、胸の奥で決意を燃やす。
ハロルドも私の横に立つ。
「行くぞ、最後の一手だ!」
彼の声が、戦場の空気を切り裂く。
影が渦巻き、世界の裂け目が光を放つ。
私たちは全力で介入し、歪みを断ち切る。
刹那、絡まった因果の糸がすべて切れ、世界が光に包まれた。
瓦礫と血痕は残るが、空はわずかに青くなり、街にはかすかな息吹が戻る。
エピローグ:修復者の歩み
私は短剣を鞘に戻し、深く息を吐いた。
灰の庭で名前を捨てた日から、私はずっと進み続けている。
世界は完璧ではない。
犠牲もあり、後悔も残った。
でも、選択を背負い、歪みと向き合う者がいる限り、希望は続く。
「これが、修復者の仕事……」
私はそう呟き、再び歩き出した。
新たな歪みが待つ世界へ、足を踏み入れながら。
く




